第六十二話 落書きの真相……?
振り返ると、そこには月湯君が姉の部屋に半トリップしていた。
月湯君は、のんきそうに手を振っている。
「やあ、蜜柑さん、偽王子君」
「月湯君!?」
『びっくりした~!』
偽王子君もびっくりしたらしい。異空間が青くなっている。
お願いだから心臓が飛び上がるような登場をしないでほしい。
いや、それよりも、月湯君が言っていたことが気がかりだ。
「ぐ、偶然じゃないってどういうこと?」
私は、心臓の鼓動を静めながら頭の中を整理した。
「この前ね、お姉ちゃんの落書きに、【蜜柑、逃げろ! 捕まったら下僕にされてしまうぞ!】って書かれてあったの。その時に、ザーフィア様が妖精を捕まえようとしていたから、てっきりこの事だと思っていたんだけど」
月湯君はふふんと笑った。
サプライズ好きな月湯君らしい笑みに、私は思わず身構えた。
「でも、ザーフィア様の所には、蜜柑さんのお姉さんはいないでしょ?」
「い、居なかったよ、確かに」
その時、私はあることに気づいて戦慄した。
ま、まさか……!
「もしかして、お姉ちゃんはザーフィア様に捕まって何かあったんじゃ……!?」
もしかして――。
「ッ……!」
姉が凶刃に倒れるところを想像してしまい、私は打ち消すように頭を振った。
『そ、そんな!?』
偽王子君はさらに異空間の画面を青くした。
私も偽王子君も顔面蒼白だ。
私の嫌な予感を否定するように、月湯君は笑った。
「……この前、僕が蜜柑さんを助けたでしょ? そのあと、僕はザーフィア様の妖精になったわけだけど?」
「そ、そうだったね。その節はお世話に……」
「でも、ザーフィア様が蜜柑さんのお姉さんを手にかけたなんて聞いたことがないよ?」
『「えっ?」』
「そんなことをするような我が主ではないよ」
月湯君は私を安心させるように微笑んだ。色々掻きまわされたけれど、結局のところ月湯君は良い人なのか。
「なら、私のお姉ちゃんは元気ってことなのかな……?」
異世界のどこかで、結婚して幸せに暮らしているってことなのだろうか。
そのとき、偽王子君が気付いたように声を上げた。
『蜜柑ちゃん! 俺、気づいたんだ!』
「な、なに? 偽王子君?」
『蜜柑ちゃんが、檸檬さんの傍に異空間を転移させたらいいんじゃないかな!』
あ、そ、そうか!
なんで、今までそれに気づかなかったんだろう!
姉の所に行けたら、一気に事件は解決じゃないか!
「偽王子君、頭良い! じゃあ早速!」
私は、吉永檸檬の所に飛べ! と、念じた。
けれど、異空間は飛ばなかった。
「あ、あれ……?」
私は、肩透かしを食らった格好になった。異空間の画面は余弦城の廊下の内装を映したままで、そこから動こうとしなかったのだ。
「な、なんで……?」
もう一度、吉永檸檬の所に飛べ! と、念じた。
けれど、またもや異空間は飛ばなかった。
異空間の画面は余弦城の廊下の内装を映したままだった。
「もしかして、お姉ちゃんはもういない……の……?」
異空間の画面が転移しないこと。
それは、姉の安否を否定することだ。
『そんなはずないよ! 蜜柑ちゃんがそんなこと言ったらダメだよ!』
偽王子君は怒ったが、今までの出来事がそれを肯定している。
ウソだ。殺しても死なないような姉が死ぬはずなんてない。
私の目から涙がこぼれ出た。ガンガンと頭痛がする。
「ザーフィア様はそんなことをするような人じゃないよ」
「で、でも、だったら、なんで、お姉ちゃんの所に行けないの!?」
月湯君は同情したような顔になった。
しかし、何かを思いついたように言葉を紡いだ。
「でも、僕はあることを我が主から聴いたことがあるんだ」




