第六十一話 便りがないのは元気な証拠……?
アレクシス王子が夢見国で暮らし始めてから、数日が経過した。アレクシス王子が幸せに暮らしているので、自動的に私と偽王子君はお払い箱になったわけだ。
というわけで、私と偽王子君はコンビニのお菓子を食べながら、暇を持て余していた。
『暇だね~、蜜柑ちゃん……』
偽王子君があくびをかみ殺している。
「そうだね~。せっかくだから余弦国にでも観光に行く?」
『そうだね! 余弦城に行ったら、何か良いことがあるかもしれないからね』
私は姉の部屋から、異空間を余弦国の余弦城に転移させた。
「えーと……」
『何か面白いものはないかな~』
私と偽王子君は、異空間の画面を移動させて、余弦城の中を見て回った。
余弦城の廊下は、空色のタイルの細工が綺麗な模様になって彩られていた。部屋の中は真っ白な部屋になっている。廊下も部屋の中も突き抜けるように天井が高い。
そんな余弦城の壁に、私はしばらく忘れていたものを見つけた。
【余弦城は最高! デザート食べ放題!】
「お姉ちゃんの落書きだ!」
私にしか見えないというインクで書かれた落書きだ。
久しぶりに見た姉の痕跡に私は喜んだ。
「こっちにも……!」
【ドキがムネムネ!】
「あっちにも……!」
【春が来たぞ~!】
そのほかにも、姉の痕跡がたくさん見つかった。
終いには浮かれきった姉の絵まで発見した。
私の報告を聴いた偽王子君は笑い声を立てた。
『檸檬さん、余弦城に来ていたんだね~』
あ、あれ……?
「でも、おかしい事に気がついた……」
『蜜柑ちゃん、何がなの……?』
今更ながらこんなことに気づくのは鈍い私らしいが、でも気になりだすと歯止めが効かなくなる。
「あのね。私が初めて余弦城に来たとき、お姉ちゃんの落書きを見つけたんだけど……」
『落書きを?』
そうか、偽王子君には姉の落書きは見えないんだった。
あの時の、姉の落書きはこうだった。
【蜜柑、逃げろ! 捕まったら下僕にされてしまうぞ!】
「というわけなんだけど……変だよね?」
私は偽王子君に説明した。姉は観光で余弦城に来ていたらしい。浮かれきった姉の落書きと、切羽詰まったような姉の落書き。
『確かに……何かあったのかもしれないね……』
「で、でもね! お姉ちゃん、異世界で結婚するらしいの!」
「えっ……?」
「ほら、私が偽王子君と知り合うきっかけになった時。偽王子君は私に電話かけてきたでしょ? お姉ちゃんのアパートに手紙があるって」
「そうだよ。異空間に閉じ込められているから、蜜柑ちゃんに助けてもらおうと思って、異空間から俺のスマホで蜜柑ちゃんに電話をかけたんだ」
「うんうん。そうだったね」
「内容は知らないけど、蜜柑ちゃんに『俺の事を頼む』という手紙を書いたことを檸檬さんから聞いたからね。その時は、檸檬さんとは別れていて、連絡も取れなくなったんだ。だから、蜜柑ちゃんに気づいてもらいたかったから、あんな電話を……」
私は、立ち上がって姉の机の上から手紙を持ってきた。
浮かれきった姉の直筆だ。角張っている姉の文字は、確かに姉のものだ。
「この手紙を見ていると、お姉ちゃんは元気なのだろうって思うよ。でも――」
私はそわそわと視線を姉のアパートに彷徨わせた。
「でも、どうして、こんなに胸騒ぎがするの……?」
「それは、偶然じゃないからかもしれないよ?」
いきなり割り込んできた声は、偽王子君のものじゃなかった。
私は戦慄して振り返った。




