第五十二話 アレックス王子のお仕事*
その数分後、メープル第二王妃とメイドのアリスは帰って行った。
アレクシス王子は、やれやれと椅子に腰かけている。
『ふう、嵐は去ったか』
『あ、アレクシス殿下、私めはどうしたら……!』
戸惑いを隠せないのは私と偽王子君だけではなかった。
パトリック執事も大いに狼狽えている。
アレクシス王子は、机の上に広げていた公務の資料を手に取り集めながらため息を吐いた。
『くれぐれも秘密にしておいてくれ』
『も、勿論でございますとも! 命に代えてもこの秘密守って見せます!』
パトリック執事は使命感に燃えているらしい。
私は頃合いを見て、アレクシス王子のお部屋に半トリップした。
「あっ、蜜柑様、偽王子様、お久しぶりでございます」
「パトリックさん、おひさしぶりです~」
『どうも~、ご無沙汰しております~』
しかし、アレクシス王子は冷ややかだった。
「明日から夢見国に公務に出かけないといけないのだから、相手をしている暇はないぞ」
ご公務の段取りの書類に目を通しながら、アレクシス王子は突き放すように言った。
やっぱり怒っているのか……。私のせいだからな……。
「アレクシス様~、あのぅ……」
『蜜柑ちゃんが謝りたいそうです』
助け舟を出してくれた偽王子君に感謝だ。
そんな、罪悪感の塊の私を見て、アレクシス王子はフッと笑った。
「別に謝らなくても構わないぞ」
「で、でも、私のせいだし……アレクシス様の秘密が第二王妃様にバレたのだって……」
「そもそもは、私が蜜柑の日記を見ようとしたのが悪かったのだ。だから気にするな」
「……!」
そ、そっか!
私から日記を取り上げたのは、アレクシス様だから仕方ないのだ。見ないでいいものをわざわざ見たアレクシス王子のせいなのだ。
「アレクシス様。でも、許してくれてありがとう」
「ああ」
『良かったね、蜜柑ちゃん』
「うん」
偽王子君もご機嫌な感じだ。
『アレクシス様は、明日からご公務に出かけられるのですか?』
「ああ、快晴国と星方国が一触即発なので、快晴国は夢見国に仲裁を頼みたいそうだ」
「仲裁ですか?」
快晴国と星方国って仲が悪かったのか。どうやら、異世界情勢も悪いようだ。
「宝玉国も快晴国と一緒になって星方国を説得しようとしたのだが駄目だった。だから大国の圧力があったほうが、上手く事が運ぶんだそうだ。でも――」
「でも? 何かあるんですか?」
「夢見国は、手を貸してくれないだろうという話だ。だから、宝玉国――つまり、私が快晴国の王子と一緒に夢見国に頼みこもうというのが今回の公務だ」
「はぁ、大変なんですね……」
つまり、アレクシス王子は大役を任されたわけだ。国王様に期待されているのだろう。
「でも、夢見国の国王陛下は、頑固で有名だから今回の話も十中八九上手く行かないだろうがな」
「じゃあ、私と偽王子君が影で頑張るしか……!」
『そうだね、蜜柑ちゃん!』
私と偽王子君は縁の下の力持ちだから、アレクシス王子の事を陰で支えるのだ。
やる気満々な私と偽王子君だったが、アレクシス王子は首を横に振った。
「いや、何となく、宝玉国が気がかりだから宝玉城で見張っていてくれ。先ほど、第二王妃が喋っている最中にドアが閉まる音がした」
「えっ!?」
『やっぱり、気のせいじゃなかったんだね、蜜柑ちゃん!』
「う、うん……」
気のせいじゃないとすれば厄介だ。
一体、誰が聞き耳を立てていたというのだろう?
ドアの方を見ている私に、アレクシス王子は続けた。
「第二王妃の事が心配だ。仮にも……私の実の母らしいからな」
「分かりました! 第二王妃様の事は私と偽王子君がお守りします!」
『アレクシス様の留守中は、俺と蜜柑ちゃんにお任せください!』
かしこまる私と偽王子君に、アレクシス王子は頼もしそうに頷いた。
「任せたぞ、蜜柑、偽王子」




