第四十九話 アレクシス王子の秘密
「これは、蜜柑の日記じゃないな?」
アレクシス王子の声が乾いている。私が答えずにいると、王子様が顔を上げた。
眼力のある目が真剣に私を見つめる。まるでメドゥサに睨まれたような効果が生まれた。石になったように、私は嘘が付けなくなった。
「は、はい……王妃様のです……!」
アレクシス王子は、脱力したようにため息を吐いた。
そして、傍に合った椅子に腰かけた。
「この日記によると、私は王家の誰とも血のつながりがないと」
アレクシス王子は手を額にやって打ちひしがれている。国王様とも親子ではなかったという理由が書かれているのだろう。ショックじゃないわけがなかった。
「そ、それは、本当なんですか? 私、その日記をまだ読めてなくて……」
私はまだ信じられずにいる。
誰とも似てない子供だって世の中には居るのだ。アレクシス様だって――。
『蜜柑ちゃんの言うとおりです。王家の血のつながりがないのに、どうして王子様になれるというのですか?』
「そうだよ! 偽王子君の言うとおりですよ!」
アレクシス王子は、自嘲したように笑って、日記をひらひらさせた。
「書いてあるぞ、ここにな」
「ほ、ホントですか?」
アレクシス王子は嘆息して、ページを開いた。
そして、王妃様の日記を音読し始めた。
「『私は、国王のもとに嫁いでから、三年間妊娠の兆候がなかった。このままでは、私の地位が危うい。だから、信用のおけるメイドたちを使って、妊娠したふりをすることにした』」
「えっ!? 妊娠したふり!?」
アレクシス王子は、あざ笑うかのように抑揚をつけて日記を読んだ。
「更に、面白いことが書かれている。『メイドが、産んだばかりの孤児を拾ってきた。これ幸いと私は自分が産んだ子にすることにした』……ふざけているのか?」
確かに、ふざけている。
それが本当なら、王妃様の策略にアレクシス王子は今まで振り回されたことになる。
でも、それが『本当なら』だ。
「で、でも、それが、アレクシス様とは限らないんじゃ?」
私は僅かな希望を口にしたが、アレクシス王子は頭を振った。
「ここに証拠が書かれてあるぞ。『幸い国王陛下も疑っておられない。この子供の右の二の腕にはほくろがある。珍しい星形のほくろだ。そして、この子供は、今日からこの宝玉国の第一王子となるのだ』……とな」
二の腕に星形のほくろ……!? そんな証拠が!?
『あ、アレクシス様にもあるんですか……?』
アレクシス王子は、ジャケットを脱いだ。
そして、ネクタイを緩める。
衣擦れの音が響く。
アレクシス王子はブラウスを脱ぎ捨てた。
そして、私に近寄ってきた。
「あ、アレクシス様!?」
「あるぞ、ほらな……?」
「っ……!」
私は絶句した。
確かに、アレクシス王子の二の腕には星型のほくろがあったのだ。
本当にアレクシス王子には、王家と血のつながりが全くない――。
その時、ドアの方でカタンと音がした。
「えっ!? な、何?」
『誰かが盗み聞きをしていたみたいです!』
ま、マズい!
こんなこと、誰かに聞かれたら……!
「ちょっと、追い掛けて来ます!」
『行こう、蜜柑ちゃん!』
「うん!」
私は半トリップを止めて、盗み聞きしていた者を追跡することにした。




