第三十八話 ザーフィア王子の予言
翌日、余弦国に半トリップすると、春祭りが催されていた。
道の際に露店が沢山出ている。
賑やかな余弦城近くの城下町では、ひとがごった返していた。
「どうしよう。私も春祭りを楽しみたいけど……」
『どうするの? 蜜柑ちゃん……』
「よーし、えいっ!」
思い切って半トリップすると、辺りは騒然となった。
『蜜柑ちゃんって、勇者だよね~』
「妖精様! 妖精様だ!」
「これを食べてください!」
「私も、これをお供えいたします!」
余弦国のひとたちは、私の事をお地蔵様か何かと勘違いしているらしい。美味しそうなお供えを頂戴してしまった。露店の人からもお料理を頂いた。いつの間にか、腕の中が山盛りになって、抱えきれなくなりそうになっていた。
「ありがとうございます~!」
『ありがとう~! 美味しそうだよ、蜜柑ちゃん!』
私は、半トリップを止めて、姉の部屋の中に引っ込んだ。
そして、私と偽王子君は山盛りのお菓子や料理を平らげた。
「ねえねえ、偽王子君! せっかく余弦国に来たんだから、余弦城の観光しようよ!」
『そうだね、グラナート様にご挨拶しよう! 捕まりそうだったら逃げればいいし!』
「そうだね。じゃあ、行こう!」
早速、余弦国のグラナート王子の所へ私は異空間を転移させた。
そして、再び半トリップする。
そこは、グラナート王子の部屋だった。私は壁を見てギョッとした。
何故か姉の落書きがでかでかと書かれてあったのだ。
こんな所にも姉は来ていたのか。
私にしか見えないインクで書かれた姉の落書きは、久々だった。
【蜜柑! 私の快晴国にある店の引き出しに私の手紙がある! なので、目をかっぽじって読め!】
お姉ちゃん、目をかっぽじったら痛いと思うよ……!
また、今度寄った時に見に行こう。
「おお、妖精殿か!」
晴れやかな低い声が室内に響き渡った。グラナート王子が美しい衣装を着て、こちらに歩いてきた。お針子たちが、慌てて王子に付き添う。
「こんにちは~」
『蜜柑ちゃんと遊びに来ました~』
どうやら、グラナート王子は衣装合わせの最中だったようだ。ヨーロッパの王子様を彷彿とさせる、立派な純白の衣装を身に着けていた。
『すごい衣装ですね~』
「豪華ですね~」
「今日は春祭があるから私もパレードに出なくてはいけないんだ。蜜柑も偽王子も楽しんでくれ」
すでに、お腹がいっぱいになるまで楽しんだ後だった。民族衣装を身にまとった余弦人の異国情緒あふれる踊りに心が高揚したのは、つい先ほどの事。
なので、その旨をご報告しようとしたその時だった。
私のことを蝉か何かと勘違いしているのだろうか。
網が横から飛んできた。
「おっと……!」
咄嗟に、私は上空に避難した。
『何するんですか、バベルさん!』
偽王子君が激怒している。私も、偽王子君と同じ気持ちだった。
このバベルというグラナート王子の従者は全く持って油断ならない。
「やはり、捕まえられませんか……」
しつこいなぁ……!
こないだ、やっと友好条約を結んだ所なのに。
「止めないか、バベル!」
「グラナート殿下も病み上がりなのですから、ご無理をなさらないでください」
「えっ?」
上空から見下ろす、グラナート王子にはどことなく影があった。
そういえば、以前もそんなことを言っていた。
「今日は国を挙げての行事なのだから出席しないわけにはいかない」
「ですが、お体が……!」
「くどいぞ、バベル。それに私も春祭りが楽しみなんだ」
「病み上がりって……?」
『失礼ですが、何のご病気なのですか?』
私は、グラナート王子の事が心配になった。
もしかして、アレクシス王子と一緒で、毒を盛られていたとか……?
「この前、倒れたらしくてな。数日間の記憶がぽっかりと抜け落ちているんだ」
「な、なんだって~!?」
『記憶障害なんですか……ご心労お察しします……』
「無理しちゃダメですよ!」
私と偽王子君の声に同調するように、向こうから衣擦れの音が近づいてきた。
「そうですよ、兄上! 妖精たちの言うとおりです!」
グラナート王子と同じ純白の豪華な衣装をまとった男が颯爽と現れた。
「あ、貴方は……!」
『いつぞやの……!』
この男には見覚えがあった。
余弦国に初めて来たときに、危うくこの男に捕まりそうになったのだ。
「ほう? お前たちも私の名を知っているのか?」
「え゛……?」
『ええと……?』
「妖精殿に名を知られているとは、私も有名になったものだ!」
このひとの名前なんて、し、知らん……!
はっきり言っても、全然知らん……!
「そうだ! 私の名はザーフィア! この余弦国の第二王子だ!」
「へ、へえ~」
『ザーフィアさんっていうんですか』
ザーフィア王子か……。
私は、耳に新しいこの名前を反芻した。
気圧されまくっている私と偽王子君に対して、ザーフィア王子は至極ご満悦そうだ。
「お前たちは、宝玉国のアレクシス王子の妖精だったな?」
「は、はい……」
な、なんか嫌な予感が……!
「この国では、占いの一種の予言が盛んにおこなわれている。だから余弦国というのだ」
「は、はぁ」
そういえば、アレクシス王子も余弦国の使者に妖精が助けてくれると予言を受けたと言っていた。
「それで、私も予言してみたら、近々余弦国と宝玉国に亀裂が入るとあった」
『な、なんだって~!?』
「偽王子君、それ、私の台詞なんだけど……!」
私は、偽王子君にセリフを取られてムッとした。
「だから、お前たちがそれを阻止して見せろ!」
あ、あれ? このひと、さっき何か言ってたっけ?
私は、セリフを取られたせいで全然聞いていなかった。
しかし、なにか言わないとマズい雰囲気だ。
「わ、分かってます……!」
『必ず阻止しますので、ご安心ください!』
偽王子君だけ、キッチリ事情を把握しているようだ。
あとで教えてもらおっと。
「お前たち妖精の力をとくと拝見させてもらうぞ! わーっはっはっは!」
ザーフィア王子は、全然聞いてなかった私を満足そうに一瞥し、マントを翻して去って行った。




