第三十七話 妖精『月湯(つきゆ)』
半トリップすると、アレクシス王子は自室で机に肘を付いて、祈るように打ちひしがれていた。宝玉国の行く末を案じているのかも知れなかった。
「アレクシス様、宝玉国と余弦国の友好条約の文書を交わしてきました~」
『俺も頑張りました~』
アレクシス王子は、やっとこちらに気付いた。
「蜜柑と偽王子か……!」
「これが、その文書です!」
私は宝余友好条約の文書をアレクシス王子に差し出した。
アレクシス王子は、安堵したように机の椅子に腰かけた。
「すまない、二人とも。これで、騒がしかった城内も丸く収まるだろう」
これで、宝玉国も一安心だ。
『これで、アレクシス様の評価も上がりますね!』
「だね!」
「そなたたちのお蔭なのに、私の評価など……」
アレクシス王子はどこまでも控えめだった。私と偽王子君は、アレクシス王子が嬉しそうに安堵の表情を浮かべられているのを確認すると、肩の力が抜けるような気がした。
ひとまずは、一件落着だ。
半トリップを止めた私は、コンビニに寄って姉の部屋に帰ってきた。
「開けゴマ!」
すると、異空間がポンと現れる。
「でも、偽王子君! 私に一つ嘘をついているよね!」
『な、ななな、何かな? 蜜柑ちゃん……!?』
思い出したように私がぷんすか怒っているのを目撃して、偽王子君は戸惑っている。くつろいでいた所をお邪魔したか。
「偽王子君は動けないし食べることも一人じゃできなかったのに、あのとき余弦国で私を助けてくれたよね? 一体誰が助けてくれたの?」
『じ、実は……』
「うん?」
『余弦国には、すでに妖精が居たんだ。口止めされていたんだけど……』
「え? ええっ?」
余弦国には、すでに妖精が居た……?
でも、余弦城の身なりの良い男とその配下らしき人物は妖精を探していた。
『だから、その妖精に助けてもらったんだよ』
「そうなの……?」
「僕の事呼んだ?」
「どわっ!?」
いきなり隣に上半身だけの青年が浮かんでいたので、私は吃驚して飛び上がった。
この少年も、私のように異空間に上半身を半トリップしているようだ。
『あっ、ウワサをすれば影だ!』
「ああ、あの喋る異空間ね……!」
『先日は危ないところを助けて頂いてありがとう~』
「ありがとう……!」
青年は、茶髪の高校生ぐらいの日本人だった。
「アナタも妖精なの……?」
「ああ。僕は『月湯』。君と同類だよ。蜜柑さんと異空間君!」
『俺、偽王子って呼ばれてるんだけどな~』
「ああ、ゴメン、偽王子君!」
妖精でも、色々いるんだなぁ。
この青年は、小悪魔系の可愛い系だな。
でも、比べ物にならないぐらいかわいいのは、異空間の偽王子君だ。
この質の高い異空間! 彼の右に出るものなんていないのだ!
「また会うこともあると思うけど、また妖精同士協力しよう!」
「う、うん。でも、内容によるけど……!」
「用心深いんだね。まあいいか。これ、明日開催される余弦国の春祭りのチラシなんだけど」
『あ、ありがとう、月湯君』
「じゃあ、またね~」
「またね~」
月湯は、異空間を閉じて、そこから消えた。
「春祭り、暇つぶしに見に行こうか!」
『う、うん! 蜜柑ちゃんとでーと……!』
偽王子君が、興奮したように異空間をぐるんぐるんさせている。
すっかりペットと化した異空間の偽王子君。
私は、やっぱり偽王子君が一番可愛いなぁと目を細めるのだった。




