第三十六話 宝余友好条約を結べ!
「妖精を捕えよ!」
衛兵たちが、串刺しにしようと槍をこちらに伸ばしてくる。網を投げてきたので、私と偽王子君はサッと別の所に移動した。弓矢が飛んできたので、私は半トリップを止めた。
「偽王子君!」
『大丈夫だよ。俺に弓矢は効かないよ~』
「よ、よかった~」
私はほっと胸を撫で下ろした。
どうすんだこれ……。話をしようにも先ほどから鬼ごっこ状態が続いている。
部屋の隅で、バベルと身なりの良い男が目をギラギラさせてこちらを見ている。
『蜜柑ちゃん、あっちがその気なら、こっちも武力行使だよ!』
「そうだね! 偽王子君!」
私は姉の部屋に合った拡声器を手に、再び異空間の外に半トリップする。
『あーあー。マイクテステス』
拡声器で拡声された私の声が辺りに響き渡る。
『え~、話を聞かないなら、こっちも武力行使します。これから偽王子君が、衛兵たちを吸い込んで、魔霧ノ森に落とします。魔霧ノ森に入れば、永遠に彷徨って出られないと思われますが……』
「な、なんだと!?」
即席で考えた脅しだったが、バベルにはこれで十分だった。良く考えれば、妖精は何でもできる恐ろしい存在かもしれない。でも、私と偽王子君は、そんな物騒なことをするつもりは毛頭ない。勿論、恐ろしい考えを持ってそうなバベルに協力する気も微塵もない。
『なので、話を聞きますか~?』
「そ、そんな脅しなど無駄だ!」
でも、この脅しを信用したバベルはすっかり怯みきっている。
あと一息だな。
「まあ、待て。バベルが話をつけてきたそうだが」
「はい、グラナート殿下。私めが、宝玉国に行ってまいりました」
「本当に、妖精がこの世界にいたとはな」
グラナート殿下ということは、この方が余弦国の王子様というわけか。
どことなく、芯の強そうな王子様だ。そして、優美だ。
「良いだろう。宝玉国を滅ぼすことは止めよう。これが、宝余友好条約の文書だ。確認願おうか?」
グラナート王子が文書を差し出したので、私は川の魚を狙う鳥のように降りて行って、文書をひったくった。そして、また天井近くに避難する。
そして、手だけを異空間に出して、文書を広げた。
「偽王子君、翻訳よろしく~」
『おっけー』
余弦国が提示した宝余友好条約の内容に目を通した。すると、気になる個所が一ヵ所あった。再び、異空間の外へ顔を出す。
「宝余友好条約は良いけど、『妖精は余弦国にも協力すること』って何ですか!」
「そのままの意味だが?」
私と偽王子君を良いように使おうってわけか。
「協力なんてしません! だって、私たちは自由だもの!」
「では、宝玉国を滅ぼしてもいいのだな?」
「そんなこと私と偽王子君がさせないよね~!」
『ね~』
「ほう?」
グラナート王子の目が面白そうにひらめいた。
グラナート王子には、魔霧ノ森に衛兵たちを吸い込んで落とすという脅しは効いて無いようだった。それなら――。
「良いかな? 宝玉国を滅ぼしたら、偽王子君が城の衛兵たちをみんな吸い込んで宇宙の果てに送ります!」
『そうそう。窒息死しちゃうよ~?』
「いいのかな~? そんなところに送り込んでも?」
『いいのかな~?』
私たちの即席の脅しに、グラナート王子も嘆息して、白旗を上げた。
「分かった。私たちの負けだ。流石に、妖精には勝てないか……!」
「グラナート殿下……!」
バベルが非難の声を上げたが、グラナート王子は手を上げてそれを制した。
「宝玉国と余弦国は友好条約を結ぼう。だから妖精よ、私の国にも遊びに来ておくれ」
「良いですけど、変なことしたら偽王子君が黙っちゃいませんからね!」
「分かっている。私は病み上がりだから滅多なことはできないよ。だから安心してくれ」
力が抜けたように微笑むグラナート王子は、ひとが良さそうだった。しかし、グラナート王子が、病み上がりとは――。この方も毒を盛られていたのではないだろうな……?
訝しんだが、今はこのことはどうでもいい話だ。
「じゃあ、また遊びに来ます。宝余友好条約の『妖精は余弦国にも協力すること』というのはナシで」
「ああ消しておいてくれて構わない」
「では、サインを交わしましょう!」
私とグラナート王子は、宝玉国と余弦国の友好条約の文書にサインをした。
私はそれを手土産に、宝玉国に戻ることにした。
『じゃあ、失礼します』
「お邪魔しました~!」
そして、私と偽王子君はご満悦で余弦国を後にしたのだった。




