第三十四話 はめられた者たち
『ああ~! ご飯がおいしいよ~!』
「良い食べっぷりだね、偽王子君」
翌日も、偽王子君はご飯を美味しそうに一人で食べていた。もっと自由に動けたら、偽王子君ももっと元気になるんじゃないのか。
でも、そうなったら偽王子君は私の元からいなくなってしまいそうな気が……。
あれ、何か辛いぞ……。
『どうしたの、蜜柑ちゃん?』
「う、ううん!」
私は、空笑いして、ご飯をかき込んだ。
「ちょっと、気になるから、ローズ様のお部屋を覗いてみようかな~?」
私は意識を無理やり他に向けた。偽王子君の異空間の画面をアレクシス王子の部屋からローズ第三王妃の部屋に移動させる。すると、ローズ第三王妃の部屋には客人が訪れていた。
『あれ? 誰か男の人と会っているよ?』
「うん……誰だろ……?」
私は異空間を近くに移動させた。偽王子君の異空間は、彼の意志であちらの世界に見せることも隠すことも可能なのだ。私は、スナック菓子を開けて、テレビを観賞するようにくつろぎながら静観していた。
『バベル様、これが、『妖力草』でございます』
「偽王子君、バベルさんだって! 知ってる?」
『あの服装は、余弦国のものじゃないかな』
「へー……」
余弦国って……私が、窮地に陥ったあの国か……。
「面倒な人と会っているんだなぁ……なんでだろ?」
『さあ……何か企んでいることは確かだけど……』
すると、余弦国の使者のバベルは、目を生き生きとさせて妖力草を手に取っている。
『ほう! これはすばらしい! 確かに、これが妖力草だ!』
『では、お約束通り、『ギルバート王子を次期国王に推して』いただけますね?』
ローズ様がニヤリと笑い、バベルにささやいた。
「な、なんだって~!?」
『最初から、これが目的だったんだ!』
「ど、どうしよう、偽王子君! アレクシス様にお知らせしようか!?」
『待って、何か様子が変だよ?』
「えっ……?」
バベルは、アクドイ顔で目をギラギラさせていた。
『……この妖力草は、一体どうやって採取したのだ?』
『そ、それは、国力を上げて死に物狂いで取り掛かりましたので……!』
ウソつけ! それは、私と偽王子君が頑張って採取したんだからな!
『魔霧ノ森に、百人入れば百人迷うと言われている。磁場が狂っているので、方位磁石も効かず、霧が常時漂っているので、太陽を見ることもできない。だから、本に載っている地図も無意味なのだ』
『は、はぁ……。一体何を仰いたいのですか……?』
『私は妖力草には興味がない』
「ええっ!? 妖力草には興味がない!?」
『一体どういうことだろうね、蜜柑ちゃん』
あんなに高価な薬草に興味がないというのはどういうことだろう。重篤な病人がいるわけではないのだろうか。
『蜜柑ちゃん、もしかしたら……!』
偽王子君が何かに気づいた。しかしそれよりも早く、バベルがローズ第三王妃に詰め寄った。
『『妖力草』が何故『妖力草』という名か知っているか?』
『い、いえ……』
ローズ第三王妃は気圧されたまま返事をした。あのローズ様が圧倒されている。私はバベルという人物が怖くなった。
『妖精の力でしか取ることができないから、妖力草というのだ』
「っ!? よ、妖精って!?」
こ、このバベルってひと……!
『私の欲しいものは、妖力草ではない。妖精だ!』
『な、何を仰っているのですか!? 宝玉国には妖精など――』
『隠し立てしても無駄だ。妖力草をこんなに採取できたというのが妖精がこの国にいるという何よりの証拠! さあ、妖精を出してもらおうか!』
『なんのことだか……!』
『妖精を出さないなら、宝玉国などひとひねりだ』
『そ、そんな! お待ちください!』
『交換条件は妖精だ。分かったな?』
はめられた……!
しかし、あのローズ様までもが――。
「くそう、あのバベルってヤツやり手だな……!」
『蜜柑ちゃん! やっぱり、狙いは俺たちだったんだよ!』
私は、下唇を噛みしめて打開策を考えるのだった。




