幻想とは何か?2〜終焉への誘い〜
「零司君や命さんは、強いよね…私は、ダメなんだ。人を殺す覚悟はあるかもしれない。でもねーーその人を殺したうえで、自分の命を延命させるのは、私は……」
未来は、空に広がる星を眺めながら、俺達へとそう言うと、ゆっくりと顔をこっちに向けーー
「平然と受け入れる事は、出来ないよ。私は、弱いから」
困ったように笑うと、俺は頭をかきながら、未来へと口を開く。
「いいんじゃないか?俺は、否定はしない。未来がそう考え、俺や命を否定したとしても、その考えを否定することは有り得ないさ」
俺の答えに、未来は頬をかきながら、そっか……と呟き、体を伸ばすと俺や命へとこう言った。
「私の気持ちには、ケリがついたよ。うん、私はーーこういう私何だって、気付いたから。だから、その剣…後はダストって結局は何なの?」
未来は、憂いが無くなったように、スッキリとした表情で俺を見やり、問いに答えるべく口を開く。
「さっきも言ったが、この剣は、極限幻想に対する、特効武器なんだ。未来、俺達の話をちゃんと聞いていたら、この剣は、何故特効なのか解るな?」
「えーと……確か…白銀製の剣だから?」
「ああ、それは確かにそうだな。だが、今までの情報で、推測してみるとーーこれが何故、特効なのか…未来には解ると思う」
未来は首を捻る。呻くように、小さく、う〜と言いながら考え、ふとーー
「……極限幻想は、認知した情報を認め……この剣は、白銀製の剣。銀は魔を祓う特効……あれ?待ってーー何で剣が、銀の性質なの?まるでーー」
「極限幻想を、最初から意識したような剣…と言いたいのかしら?」
「うん!その通りだよ!命さんや零司君は…人を殺して命を延命しているよね?それなら、どうしてーー最初から白銀製の剣なの?」
その問いに、命は頷きながら、微かに口の端を笑みに変化させーー
「未来、貴女は…良いところに気づいたわ。零司はもっと本質的な意味で、さっきの問いを投げたと思うけれど……まあ、いいわ。銀は魔を祓う、未来が言った通りね」
説明しながら、未来へと数歩近付き、命は未来へと笑う。
「そして、人を殺す事を、最初に前提とした場合ーー剣の材質なんて、切れれば一緒よね?鉄でも、鋼でも、銅でも、何でもいいわ。要は、殺害出来れば事足りるもの。それなのに…わざわざ白銀よね?そして、零司はーー未来に、今までの情報を元に、特効武器だと言ってるわね?じゃあーーそれは何故?」
「何故って……極限幻想は幻想ーーあ!」
何かを思いついたように、未来は空中に指を走らせる。まるで、本を執筆するかのように、指の動きは加速する。
「極限幻想は、幻想を認めた人の変異体。銀は魔を祓う性質を持っている。そしてーー人を殺す事も可能な凶器が必要。だけど……もしも、極限幻想が存在しなければ…そもそも銀の性質はいらない。魔を祓うという性質が必要であるから、銀がいる。形状が剣?銃や槍でも、ましてや、斤とかーー刀……何故剣?情報が不足しているのよ……仮定ではダメなのに。何か……」
「未来、貴女はーーお伽噺話の中でなら、魔法か、何と言ったか覚えてるかしら?情報をーー整理してみたらどうかしら?」
「……魔法。幻想の中では常識の範囲で、私はーー剣と言った。あれは何故?王子様が使うのが剣のイメージだから……幻想の中でもそうだけど、歴史上の人物が、剣を持った絵もあるし……イメージ?待ってーー私は、それを認識し、認知し、それが情報としてーー脳に記憶されている」
未来は、指をゆっくりと動かす。筆を置くように、指を横へと置くとーー行き着いた答えはーー
「解ったよ。零司君、命さん。これはーーこの剣は……幻想の中の剣なんだよね?」
「……未来、何故そう思ったんだ?」
「よせ集めの情報を頼りに、私なりの考えになるんだけど……極限幻想は、多分最初からいたんだよね?命さんや零司君はーー人を殺す事を主目的にしているんじゃなくて、極限幻想を殺す事を、主目的にしているんじゃないの?幻想の存在を私達が認め、それが怪物へと変異する。そしてーーそれを可能にするのは、脳に記憶した情報が不可欠だよ。ならーーその剣は、命さんや零司君が、幻想を打倒する為に、脳に記憶した情報の中で……最も印象に残る幻想の武器。それが剣だと思ったの。そして、魔を祓う為には、一番良いのは聖なる剣、でもーーこれだと、どんな効力か抽象的過ぎるよね?一振りで、街を破壊するような効力があるかもしれないじゃない?だからーー魔を祓う為に、剣自体に、銀の性質を付与したんじゃないかな?」
未来の答えを聞きながら、俺は大きく頷き、命は俺を見ると、微笑む。
「それから、これは私の想像ーーううん、願いに近いかもしれないけど……零司君や命さんは、他人の命を使って延命している。極限幻想も、元を正せば人だから、これを殺したとしても、人を殺してるよね。ねえ?これってーー意味が繋がってるんじゃない?」
「……続けなさい未来。貴女の考え、言ってみなさい」
「……零司君や命さんは、極限幻想を殺す事を、主目的にしているとした場合。これが、どのくらいいるのか、見当もつかないけど…零司君は、殺人を否定しているよね?でも、私の命を命さんへと供給しないといけない。それは、そうだよーー」
未来は言葉を切ると、俺と命を見つめ…
「だって、極限幻想を殺し続けるには、永久的に生き続けなければいけないから。幻想を認知し、認めた人がーー変異して襲ってくる限り、それを殺し続けなくちゃ……いけないよね?だから、零司君はーー殺人する事を、正義だと言えないんじゃないかな?」
未来の金色の瞳を、俺はーーただ、見つめ返す。
「大したものね。未来……貴女はーー実にーー」
そう言った命へと視線をやり、未来を眺めながら微笑む命は、口を開く。
「実にーー面白い考えを聞けたわ。変異屑については、簡単に言えば、零司が言ったように幻想のなり損ないよ。認知し、情報を信じようとした人がーー変異はしたけど、極限幻想には到達しなかった。要するに、変異したが屑のような存在だと認識してもらえばいいわ」
未来は、それに対し頷く。俺は、命へと手を伸ばしーー無言のまま箱を受け渡され、煙草を取り出すと火をつける。
「…零司君、さっきの私の考えはーー願望も入ってるの。そういう理由が、もしかしたらあるんじゃないかって……甘過ぎる考えかもだけど、私はーーこれを信じたい」
「……そうか。俺はーー」
続く言葉は、唐突に、視界がぶれる事により、小さく消えていく。
「……零…司君?どうしたの!?大丈夫!?」
声は聞こえる。反応を返そうとするが、唇から煙草の感触が消え失せーー
「零司……ここまで話をして、時間がどのくらい経過したか、貴方はーー判断を誤ったのよ」
「命…さん?何言ってるの!?零司君!!ねえ!?しっかりして!!」
ああ、そうかーー命、お前はーー
「未来、さあーー貴女の未来とやら、見せてもらうわ」
「どう……いうこと?命さん!!何を……言ってるの!?」
俺の……時間が……
「タイムアップよ。未来も、零司も……未来、よく見てなさい」
「何が……あるの?」
終わって……止まる。
「おめでとう。高槻未来。貴女はーー二度もこの世界に来たわ」
「何を……言ってるの!?世界って……あーーそん…な」
「ようこそ。私と、零司の世界へ。そしてーー終焉が来るわ」
教会の鐘の音が鳴り響く。
時刻はーー0時0分00秒。
そう、これはーー
「全てを、零に」
空は、血のようにーー真っ赤に染まった




