表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/106

おまけ短編⑥ ないしょの逢瀬


 学習の予定のないある日の午後、第三王子ユリアンは第一王子ディートハルトと侍女のミアを探して王城の庭園を走り回っていた。暇だったので騎士団の詰所へ行ったらば、二人仲良く休憩を取りに庭園へ行ったとのことだった。


(いないなあ)

 きょろきょろと見回すが、王城の庭園はなかなかに広い。

 夏の盛りで暑いためか、なんだかくらくらしてきた。ユリアンは大樹の木陰に座り込んだ。


(うーん。夏バテかな)


 近ごろなんとなく調子が悪い。


 兄とミアは騎士団訓練所の近くにはいないようだから、王家の私的な庭のほうへ行ってみよう。そう思っていたら、頭上から「ん……」と小さな声がした。


 見上げてみても、重なり合って繁る枝葉に隠れて人影は見えない。


(ミアか? でもあにうえと一緒のはずなのに話し声がしないなあ)


 不思議に思ったユリアンは、大樹に登ろうとしてふと思い直した。

 あれはミアと初めて会った日のことだ。追いかけてくるミアを逃れて木に登ったら、隣の木からミアの声が聞こえてめちゃくちゃびっくりしたっけ……。


(ふははは。しかえしだっ)


 もしミアなら驚かせてやろうと思い、ユリアンは大樹の隣の木に登り始めた。



 そして隣の木からユリアンが目にした光景とは。

 幹を背にして枝にまたがる兄王子ディートハルトと、彼に背を預けるようにもたれかかるミアだった。


 ミアは横を向き、ディートハルトは後ろから回り込むようにミアの顔をのぞきこんで――――。



「ちゅーしてる!」



 ユリアンは十歳男児らしい素直な驚きで、見たままを大声で叫んだ。




「みーちゃったみーちゃった。ミアの兄貴に言いつけてやろ!」

「てめこらふざけんなよユリアン!」


 ユリアンが登った位置は大した高さではなかったため、そのまま飛び降りて走り出した。その後を兄王子がすごい形相で追いかけてくる。


 ユリアンは知っていた。ミアの義兄の魔剣技術者アウレールが、ディートハルトに節度節度とうるさく言っているのを。せつどってなんだ?と思っていたが、直感的にちゅーはアウトだと感じた。


「頼むからやめろユリアン!」

「あははは! やーだね!」


 婚約者だからってディートハルトはミアを独占しすぎる。

 ミアは自分の侍女でもあるのに、気軽にほいほい連れ出して、おまけにちゅーまで。

 ちょっと、いやかなりすごくムカつく。


 おもいっきり怒られればいいのだ、あにうえなんて。


 ユリアンは高笑いしながら走った。どうせすぐ捕まるだろうが、捕まったところで口を縫い付けられるわけではない……。


(あれ?)


 突然、視界がぐらついた。

 次の瞬間には目の前が真っ暗になって。


 地面に倒れる寸前のところを兄に抱えられた感触があったが、ユリアンが意識を保てたのはそこまでだった。



     *****



「ミアよ。これから木登りは禁止だ」

 王妃の執務室に呼ばれたミアは、いきなり王妃からこう告げられた。


「は、はいっ」


 ミアは真っ赤になってうつむいた。

 ディートハルトとの樹上の逢瀬が王妃にまで伝わっているなんて、恥ずかしくていたたまれなかったからである。


 王宮内はどこも人目があるし、密室でディートハルトと二人きりになるのはドロテアとアウレールにきつく禁じられている。婚約者なのになんでそこまで厳しいんだと思うし、シシィが見ても彼らは厳しすぎるらしいのだが、バレたら叱られるので一応従っている。


 枝葉で隠れる木の上が逢瀬にいいと気付いたのはディートハルトだ。

 ミアだって恋する乙女である。好きな人に誘われればまあ、木の上くらいついていってしまうわけで。


「すみませんでした……」

「なぜミアがあやまる?」

 王妃はきょとんとしている。


「え?」

「ユリアンの話だが。どうやら魔力発現の予兆が現れたらしい。いつガクッと気を失うかわからないから、当分木登りは禁止だ」

「あ……。そ、そうですか。ユリアン殿下が。ユリアン殿下が魔力を発現。そうですね、そうですよね、もう殿下も十歳になられましたもんね。おめでとうございます!」


「王子に侍女をつけるのは魔力発現までがならわしだから、ミアももうすぐ侍女は退職だ」

「そう思うとさみしいです」


 来る前は嫌だったものの、今ふりかえるとユリアンとの日々は楽しかった。

 いろいろなことがありすぎて、ふりかえるのが大変だが。


「さみしい? 魔力発現後のユリアンの逃亡は騎士が防ぐことになろうが、そなた騎士団に仮所属中だろう。なに、やることは同じだ」

「なんと」


 あの悪ガキから解放される日はまだ先らしい――。

 思ったことが顔に出たのだろう。王妃が苦笑している。


「なに、今までどおり遠慮なくシバいてくれればいい。それとな、ミア」

「はい」



「息子の奴といちゃいちゃするくらい、私は何も言わん」



 王妃はそう言うと、はははははと楽しそうに笑った。


 今度こそミアは顔を真っ赤にして、返す言葉が何も思いつかなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ