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第三章 その3 民間の魔獣狩り

 商人コベリーの依頼を受けて数日後、ジェンはポグピック商会の馬車の中にいた。


 今回の魔獣狩りに参加するメンバーは三人、ジェンと隊長のコクロ―そしてパプルである。


 往復一週間の商会の仕入れ旅はまだ怪我が完治していないアオイは留守番となった。

 もっとも理由はそれだけではない。ポグピック商会が支払う額では出せる人数が三人で限界であり、それに加えて今回依頼側のサイドがジェン達以外にも他の民間の魔獣狩りを雇っていたからである。


 つまり早い話、アオイによる無用なトラブル発生のリスク回避の為、彼女を連れてこなかったというのが正しい。


「もうそろそろ今日の宿場町に到着だよな?」

「ええそうねぇ、それより喉は乾いてない? 水分はしっかり補給しておくのよぉ」


 フードと外套を纏ったジェンが隣に座る同じ格好をしたパプルに話しかけ、パプルもそれに答える。

 まだ何も積まれていない空の荷台は広いが、ジェン達は荷台の出口近くの隅の方で固まっていた。


 今回、商会が仕入れの為に準備した馬車の数は全部で三台。先頭の馬車の荷台には隊長が乗っており、真ん中の馬車には旅の必要物資と次の街へと届ける荷物が乗せられている。

 コクローが自分たちがバラけて一人一台ずつ乗車すると提案したのだが、何故か商会側に断られた為、ジェンとパプルは最後尾の馬車に乗っているのである。


 問題はこの馬車の荷台に乗っているのがジェンとパプルの二人だけではないという事。


「おやおやー、そんなに宿が恋しいなんて、エリート様はもうお疲れですかい?」

「まあ上品なお坊ちゃんには、本当の魔獣狩りなんてのは荷が重いんじゃあねえかなあ」

「ギャッハッハッハ、かもな。お前さんらコネで参加してるんだろ? まあ無理はしなくていいからな」」


 そんな事を言いながら荷台に同乗している男たちが口々に喋り出した。


 今朝、一緒に馬車に乗り込んでからジェン達が何かするたびにこの調子なのである。

 短気なアオイがこの場にいれば、どうなるかは語らなくとも想像がつくだろう。


 普段は商売敵ではあるがこの場にいる目的は同じなのだ、ジェンは男たちに対し多少の言動には目をつぶり黙ってやり過ごしていた。


 そんな感じで馬車に乗っていたジェンだったが、突然妙な気配を察知する。


「(姐さん、何か来るぞ)」

「(ひょっとしてオウルベア?)」

「(いや、違う魔獣だな。多分ホーンウルフ)」

「(数は分かる?)」

「(俺はアオイ程の感知能力じゃないから期待しないで欲しいけど、七~八頭くらいだと思う)」

「(この辺りはもう人里が近いのに物騒ねぇ)」


 ジェンとパプルは小声で話し合う。


 ホーンウルフ――額に角を生やした狼型の魔獣で体長は大きいものなら二メートルくらいまで成長する。平均は一.三メートルほどである。

 そんな魔獣が群れを成して馬車の方へと接近してきているのを感知したのだ。


 ジェンとパプルがそんな事をひそひそと話していると、民間の魔獣狩りの男たちの方も動きがあった。

 というよりも、その男たち以外にもう一人ジェンたちと同じ様なフードと外套を纏った小柄な人物がおり、その人物が男たちに何やら小声で告げたのである。


「(どうやら向こうも気付いたな。どうする姐さん?)」

「(戦う準備だけはしておきましょ。ホーンウルフなら群れていても精々Fクラス。そんなに心配しなくても大丈夫よ)」

「(そうだな)」


 二人は方針を決め、様子を見る事にした。

 すると馬車の速度が徐々に遅くなってきたのである。

 速度の低下に合わせる様にして三人組の中の一人が声をかけてきた。


「おいアンタら。魔獣が近づいて来てるがどうするよ?」

「退治するなら協力するぞ」

「いや別に無理しなくて良いぜ、お前らにゃあ分からんだろうが、向かってきてるのはEランク(・・・・)のホーンウルフって魔獣だ。下手打つとヤバい奴だから俺らが前に出てやるよ」


 そう言った魔獣狩りの男たちはそれぞれが武器を用意し始める。


 やがて完全に馬車が止まり、四人が次々と馬車から降りていった。

 入れ替わりに御者が荷台に入り込んでくる。


「姐さん、今アイツらEランクって言ったか? ホーンウルフは一頭だけならGランクの雑魚だよな?」

「あらぁ、そういえばジェンって民間の魔獣狩りと仕事するの初めてだったかしら?」

「そうだけど」

「なるほどぉ、それで勘違いしちゃったのね」

「ん? どういうことだ?」

「民間の魔獣狩りって混血じゃない人が多いのよぉ。だから彼らからすると魔獣のランクが一つ上がるのよぉ」

「えっ!? そうなのか?」

「そうよぉ。だからホーンウルフを群れで想定してEランクって言ったのよぉ」


 ジェンの周りにいる魔獣狩りのメンバーは全員が混血なので最初から脅威度を一つ低く見積もっているのである。


 そんな会話をパプルとしているうちに外が騒がしくなってきた


「どうやら始まったわねぇ」

「助けなくて良いのか? 姐さん」

「大丈夫だと思うわよぉ」

「なんで?」

「あの三人組とは別にもう一人いたでしょう?」

「ああ、魔獣の気配に気が付いた奴だろ」

「あの子がいるからねぇ」


 それが一体何だというのか、ジェンにはすぐに理解できなかった。

 なのでパプルに確認する。


「どういう意味だ?」

「あらぁ、雰囲気で気が付かなかったのぉ?」


 パプルはジェンに対して落ち着き払った様子で告げる。


「あの子は間違いなく混血よぉ」


◇◇◇


 馬車が止まって十数分でホーンウルフは掃討された。


 その後、周囲の安全確認をする為に、休憩を兼ねて少しの間待機する事になったのである。


 という訳で、合間の時間を使い、魔獣たちの死骸から戦利品を獲る為に狩人たちが散開して動き始めた。


 一方のジェンとパプルは馬車から降りると、そこで合流したコクローから、とてもありがたーいお話を聞かされていた。


「お前らなあ、魔獣退治は仕事だろ? だったら彼らに協力しろよ」

「いやアイツらがお前らはいらんっていうから……」

「それでも怪我した人間がいるだろうが! サボった言い訳をするんじゃねえ!」


 どうやら隊長であるコクローはキッチリと魔獣退治に参加していたらしく、姿を見せなかった二人にご立腹の様子だった。

 二人が参加しなかった結果、自分の部下ではないとはいえ要らぬ負傷者を出したのだから、常に全体を見て行動する隊長である彼が怒るのも当然の話である。


「御免なさいコクロー隊長。ジェンは助けようとしてたのよ。それを私が止めちゃったのぉ」

「姐さん……」

「今回俺らは護衛が仕事なんだ。魔獣の脅威を排除する為に力を惜しむ事はするな」

「次は気をつける」

「せめて怪我した人の手当てを手伝うわぁ」

「そうしてくれるか。俺も一緒に行くから」


 説教はそこで終わりパプルが隊長と共に怪我人のいるところへと歩いていった。

 その途中でパプルは少しだけジェンの方を振り向くと軽くウインクを残していく。


 彼女の心遣いをありがたく受け取り、馬車へと戻ろうとしたジェンは、そこでさっき同じ馬車に乗っていた外套を纏った小柄な人物が道を外れ茂みの中へと消えていくのが目に入った。


 ふとそれが気になり、疑問に思ったジェンは、何となく後をつける事にする。


 どうやら彼はかなり急いで移動しているようで、ジェンはあっという間にその姿を見失ってしまった。

 パプルが言うには彼は混血者だとの事だが、それでも単独行動で何か危険があってはいけない。

 万が一にも再び魔獣が現れないとも限らないので、念のために周囲の気配を探ってみる。


 すると十数メートル程離れた場所で何やら蠢く存在がいるのに気が付いた。

 大きさ的にはジェンの半分以下の体長の生物らしくさっきの彼ではなさそうだと判断する。


 一瞬放っておいても良いかとも考えたが、しかしそれでつい今しがた怒られたばかりなのを思い出す。


 念を入れすぎるのは悪くないと考え、気配を殺して音を鳴らさない様にしてその生物の正体を知るべくそっと近づいていく。

 進んでいく途中に何本かの木が生えて並んでおり、その中の木の枝に見覚えのある物が引っかかっているのに気が付いた。


 それは茂みに入っていった人物が着ていた外套だった。

 どうしてそんな物がそこに引っかかっているのか、疑問符が頭に浮かぶ。


 まさか本当に気配に引っかかったのは魔獣で、あの人物が襲われたという事なのか?


 最悪の事態を想定したジェンは一気にその場所へと踏み入り想像だにしなかった場面に遭遇してしまった!


 そこでは桃色の髪のショートヘアの可愛らしい少女が、お花を摘んでいる真っ最中だったのである。


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