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 遅くなりました!

 ごめんなさいm(_ _)m



 「はははっ、残念だな。その場にいたかった」

 入学式のあらましを優ことキリア様に話した。まあ確かに外から見たら笑い話だよね。

 「優が居たら余計にややこしくなってたから、居なくて良かったよ」

 「ええ〜、何で?」

 「…………」


 優は優しい。私が知る限りで一番優しい。でも、それは私限定でだ。

 幼馴染達には優しげな笑顔で辛辣な言葉を吐き、時には挑発する為、喧嘩している時に優を投入するのは火に油を注ぐ行為となる事が多い。でも、そんな優を知っている人物はほんの一握である。


 幼馴染といる時以外の優は優しいけれど、それはあくまで表面的なものだ。その人の持つ‘優しい’の定義にもよるけれど、誰に対しても同じ様に決まった優しさを振りまくのを私は優しいとは思わない。

 でも優は自らの立場等を考慮して、その姿勢を崩さない。今まで特別な存在が居なかったせいもあるだろう。柔和な物腰、優しげで整った容姿、成績も優秀で運動神経も良いとくればモテるのも当たり前で沢山の女の子が名乗りを挙げたのに誰とも付き合うことはなかった。不思議に思い理由を聞いたら大きな溜息をつかれ、答えてはくれなかった。なんとなく、それ以上踏み込めず今でも理由はわからない。

 まあ、優が彼女を連れてきたらかなり寂しくなるとは思うけれど、私は優にも幸せになって欲しい。だから優に好きな人が出来たら全力で応援するつもりである。


 「……は、くれはってば聞いてるの?」

 「あっ、ごめん」

 「時々何処かに行くのは、この世界に来ても変わらないんだね」

 はにかむ様な柔らかい微笑みは他人に見せるものとは違って瞳に感情がある。私は優のこの笑顔が好きだ。

 「で、何だっけ?」

 「魔法の授業の遠征について。あれ班を作らなくちゃいけないでしょ?」

 「ああ、そんな事言ってたね」

 「基本的には攻撃二人、守備一人、治療、回復などのサポート一人の四人一組じゃない?光輝が攻撃で、くれはが守備、私がサポートだと後一人攻撃出来る人がいるけれど誰にしようかって話」

 「攻撃かぁ」

 菜月ちゃんの魔法は守備かサポートに特化している。それは優も同じ。優は私も同様に捉えているらしく、そうなると菜月ちゃんを除外して攻撃手を加えるという考えになったみたいだ。でも私としては折角仲良くなれた菜月ちゃんと同じ班が良い。……女子としてはどうなのかと思うけれど、そうすれば解決するからね。

 「優、菜月ちゃんを外さなくても大丈夫だよ」

 「でも攻撃手が……」

 「私がやるから」

 「は?」

 「だから、私が攻撃を担う」

 「何言ってるの?遠征では本当に魔物と闘うんだよ?」

 まあ、普通はこうなるよねえ。クレメンティーヌの見た目からしても深層のご令嬢だしね。

 「わかってる。でも大丈夫だから」

 「いやいやいや。学園の授業の一環とはいえ、実地訓練なんだよ?」

 「それもわかってる」

 「わかってるなら……」

 「くれはは多分学園で一番強いぞ。俺より強いんだからな」

 凛とした声が私達の会話に割って入る。

 「光輝、お前何言ってるの」

 「事実だ」

 「はあ?」

 「しかも、くれはは戦闘好きだ。小さいのは可哀相とか言って嫌がるが、デカければデカい程楽しそうに闘うくらいな」

 ぐりんと此方を見た優の顔は驚きを隠せてない。優美な顔は目が零れ落ちそうなほど見開いていた。

 優の中の私は幼い頃のままで、守ってあげなければという意識が強いのだと思う。でも実際の私、今のクレメンティーヌの身体能力と魔法はチートな位に高く、Sランク冒険者の実力がある。それにお忍びで光輝と行った洞窟も時間があれば最下層まで行けたと思う。

 そう、私はクレメンティーヌは戦いに向いていたのだ。

 ……女子としては如何なものかとは思うけれど。


 「っっ、だとしてもくれはは女の子なんだ。前線で攻撃手をするなんて……」

 「優。くれはがしたいことを邪魔するな」

 「でも、もし傷付いたりしたら……」

 「その為に俺達がいるんだろう?俺は共に戦える。お前はくれはを守れる。それに傷付いたら治してやればいい。幸いな事にこの世界ではそれが出来るしな」

 「だけど……」

 「優、お前の気持ちがわからない訳じゃない。でも優先されるべきはお前の気持ちじゃない」

 「…………」

 泣き虫で怖がりな小さな私を、同じ位小さな身体で一生懸命守ってきてくれた優。それを忘れた事はないし、今でも感謝してる。でも私はこの世界でやりたい事を我慢しないと決めた。やれなかった事を後悔して生きるのより、やって失敗する方が納得出来るから。

 

 「優、わがままでごめん。でも私はやりたい」

 「っはああ〜!わかった、わかったよ!それと、くれはは悪くない。だから謝らないで」

 大きな溜息を吐き、頭を掻き回した優。身だしなみに厳しい優のこんな姿は初めて見る。それ程まで優を動揺させてしまった事に罪悪感を感じるけれど、引きたくなかった。誰かを理由に何かを諦めてしまえば、後悔した時その誰かを恨んでしまうのはよくわかってるから。


 奇跡的に得た二度目の人生。

 出来る限り後悔したくないから。

 

 ごめんね、優。

 

 ん?

 遠征?


 !

 これって恋金のイベントじゃん!


 「ねえ、遠征って何時だっけ?」

 「来週頭から討伐終了までだけど?くれは、どうしたの?」


 遠征イベントは危険度の高いイベントだ。

 各レベルをかなり上げていかないとボスキャラにやられてしまう。それにその成功の鍵はヒロインの聖属性魔法が握っているといっても過言ではない。


 ……入学早々行われたテストで見た菜月ちゃんのレベルはあまり高くなかった。あれでは、とてもじゃないけど太刀打ち出来ない。


 一体どうすればいいのだろう。


 遠征まで後一週間。

 

 



 次回の投稿は5/6(木)です。

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