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な、難産!
学園生活、難しいです!!
私はクレメンティーヌ・フォレスター。
ヒロインと攻略対象の仲を邪魔する悪役令嬢。
そして此処はヒロインとイケメン攻略対象達がハラハラドキドキのイベントが起こる学園……なんだけど。
何がどうしてこうなった?
「キャアアア〜!此方を見て下さったわ!」
「いいえっ!私の方を見られたのよ!」
「違うわ!此方よ!」
「「「黒薔薇姫さまぁ〜!!」」」
「皆様ご機嫌よう」
「「「きゃあああああ〜!!!」」」
良家の令嬢達の黄色い声が何故か私を呼ぶ。
以前盗み聞きしていなければ『黒薔薇姫』が私を指すのだとは絶対気付かなかっただろう。社交場でつんと澄ました令嬢達しか知らなかったけれど、親や大人の目が無いとこんな感じらしい。
こういうところは前世とあんまり変わらない。
「クレイ、此方に。……私に向ける笑みより優しげなのは気のせいかな?」
「まあ、殿下。そんな事はございませんわ。ですが慕って下さる事が嬉しいのが顔に出てしまいましたのね」
「本当に男の嫉妬って醜い。心狭過ぎ」
「おい、聞こえてるからな。嫉妬して何が悪い。好きな相手を独り占めしたいのは当たり前だろうが」
「はあ?くれはちゃんにはくれはちゃんの世界があるの!それくらい呑める度量も無いわけ?」
「なんだと?勿論、そんな事は理解してるさ。その上で言ってるんだよ!」
「あー、小さい。器が小さ過ぎるわ」
「はっ?売られた喧嘩は買うぞ?女だからって容赦はしないぞ」
……また始まった……。
この二人、どうやら犬猿の仲らしく会えば必ず一度はこうなる。もはやルーチン化した日常の一コマになりつつある。
「でも流石だね、結界張るの詠唱無しで瞬速だった」
「そうだね、私の魔導具のスイッチ押すより早いからね」
二人が喧々囂々と言い争うのを見ながら私と優が他愛のない会話をするのもまたルーチン化している。
こんな平和な学園生活が送れるなんて入学前には想像出来なかった。
しかも思い出したイベントの遠征での齟齬がヒロインの菜月ちゃんではなく私で補えそうなんて、もうもはやこれは恋金ではないだろう。
そう、チートなクレメンティーヌこと私はイベントに必要な聖魔法のレベルを軽く上回っていたのだ。
ボスキャラを倒す為の聖魔法ホーリーランスは会得してなかったから、教本を見て試してみたら一発で出来てしまった。流石クレメンティーヌ!
それとなく先生にホーリーランスを会得する難しさを聞いたら、10年に1人くらい現れる聖魔法に特化した使い手が4〜5年かけて会得出来るか出来ないからしい。
……うん、やっぱりクレメンティーヌは凄い。
まあ、そのおかげで遠征イベントへの対策はしなくて良くなった。だから遠征を二日後に控えた今、のほほんとしていられるのだ。
うん、平和が一番。
「クレイってば聞いているかい?」
「はっ、ええ勿論ですわ」
やばっ、何も聞いてなかった。……でも言えない。二人の鬼気迫る様子が恐ろしくて。
「はぁ、聞いてなかったんだね。大丈夫、怒ってないし、怒らないから」
だがら心を読むのを止めてってば。
「ふふっ、クレメンティーヌ様ってば。お可愛らしいですわ」
「何を当たり前のことを。クレイは呆けていようが寝ていようが、何をしていても可愛らしいに決まっている」
「まあ、その意見に異論はございませんわ」
……二人の諍いがこんな感じで収束するのもまた日常である。
「二人共見過ぎですよ。それに近過ぎです。クレメンティーヌ様が引いておられます」
愛しそうに見られるのは嫌ではないけれど、この二人は穴が空くのではないかと思うくらい見てくるので、正直時々怖い。優の言葉で我に返ったらしい二人から少し距離をとる。
優、グッジョブ!ナイス突っ込みありがとう!
「ほ、ほほほ。ところで皆様遠征の準備はもうお済みですの?」
ここは無難な会話で方向転換しておこう。
「遠征の準備ですか?」
「ええ、しおりに書かれていましたわよね?」
小学生の修学旅行よろしく、遠征のしおりが配られたのは昨日のこと。
「準備……って侍女達がするものなのでは?」
「新鮮ですねぇ。準備、ですか」
「そういえば、そんなものを頂きましたね」
んとに、この人達は!
まあ、仕方ないといえば仕方ないか。光輝も優も菜月ちゃんも前世もセレブだからなぁ。皆お手伝いさんがいるようなおうちだったし。
我が森川家もそこそこの家柄だったけれど、うちの教育方針が『自分のことは自分で』だったので割と何でも自分でしてきたからか、皆とは感覚が違うらしい。
「いえ、何でもございません。忘れて下さいまし」
そう言えば昨夜、しおりを読みながら細々としたものを準備する私をソフィアが呆然と見ていたけれど、あれはこういう事か。
う〜ん、こういう感覚に慣れていかないといけないなあ。
「準備、楽しそうですね。クレイはしたのかな?」
「えっ、まあ。細々としたものだけですが」
「クレメンティーヌ様が準備をなさったのでしたら、わたくしもしますわ!」
「えっ、いや、無理にしなくても……」
「で、何を準備したのですか?」
「魔道具や日持ちするお菓子などを」
「魔道具はわかるけれど、お菓子?」
「それは……その……」
だって、お菓子を持って行ってはいけないとは書いてなかったから。……幾らまでって制限も無かったし。
「ふっ、確かに持って行ってはいけないとは書かれてなかったね」
光輝はこらえきれなかったらしく軽く笑いながら言う。
「け、携帯食です!万が一遭難した時に備えてですわ!」
「そ、遭難?くくっ、学園の授業の遠征で?」
今度は優が肩を震わせる。
そんなに馬鹿にしなくてもいいじゃない!
「ふふっ、クレメンティーヌ様の為に我がプレザント伯爵家の自慢の菓子を持って行きますわ。その菓子は王家に献上する以外は外に出さないものですの」
「えっ?本当に?楽しみですわ、約束でしでよ!っはっ」
菜月ちゃんの素敵な提案に我を忘れてしまった私は皆が生暖かい目で見ているのに気付いて恥ずかしくなる。
「そうだね、王太子宮の料理人にもクレイが喜びそうな菓子を準備してもらわなくては」
「アルデウス公爵家の秘蔵の菓子も頼んでおくよ」
いつの間にか遠征の準備の話がお菓子の話になっていた。私をからかいながらも喜ぶようにとしてくれる気持ちがくすぐったい。
優しい、優しい時間。
大好きな恋人、可愛い友人、心許せる人。
私が望んでも叶わなかったものが此処にはある。
どんな神様の気まぐれか慈悲かわからないけれどありがとう。
『君の思うがままに。それが私ののぞみだから』
次回の投稿は5/12(水)です。




