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電脳加油  作者: カキヒト・シラズ


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6/13

第6話

 私はパトカーを猛スピードで走らせる。

 サイレンは鳴り響き、赤信号でも直進を続ける。

 周囲の車はすべて自分に道を開ける。それはこの上なく快適だった。

 私は……トトルルルルキャオスガラポリ……おれは……ヒュールルルル……ルナ人のジロウだ……ヒュールルルル……。

 突然、目の前を大型トラックが横切る。おれは……ヒュールルルル……咄嗟にブレーキを踏むが……ヒュールルルル……間に合わない。

 パトカーはトラックの側面に衝突し、おれは体ごと宙に投げ出され……ヒュールルルル……。





「ここから出してください」

 独房の鉄格子を男が握りしめ、力いっぱい揺さぶる。

「私はなにも悪いことはしてません」

 鉄格子の反対側では看守が一言二言なだめる。

 警視庁刑事部捜査一課の佐伯修司警部補は遠くから様子を見ている。

「保護室のある精神病院に入院させた方がいいでしょうか」

 部下の若林昇刑事が言う。

「いや」

 佐伯が言う。

「彼は凶悪犯だ。口調は礼儀正しいが、確認しただけでも彼は五人も銃殺している。しかもそのうち二人は警官だ」

「銃は取り上げましたし、今はそれほど狂暴ではないんじゃないでしょうか」

「どうかなあ」

 犯人が精神的障害を負っているとなると、どうもやっかいな事件になりそうだ。

 佐伯は吐息をつく。


 昼過ぎ、都内の総合商社ミシロ商事から通報があった。

 銃を持った男が同社ビル内に侵入し、三人の社員を無差別に銃殺した。

 その後、通りがかりの二人の警官に職務質問されたところ、男は二人の警官を射殺し、パトカーで逃走した。

 ところが大型トラックの側面にパトカーが激突し、男は気を失った。

 トラックの運転手に怪我はなかった。

 当初、男は病院で怪我の手当を受けた。怪我は軽傷だった。

 意識が戻ると男は警察に引き渡された。

 所持していた運転免許証から、男は加納俊也35歳と断定された。

 また免許書に記載された住所は新大久保の狭小住宅で住民の半数が外国人のシェアハウスだった。

 職業は無職のようだが、男の証言では自分はミシロ商事の監査役だと名乗った。ミシロ商事に問い合わせたところ、同社の監査役に加納という人物はいないとの返答だった。

 また加納は自分は都内のタワマンの住人で外車を所有していると答えたが、調べてみると彼が所有しているのは中古の国産軽自動車だった。

 加納はモデルガンの改造銃を所持していた。オートマチック銃、コルト・ガバメントのモデルガンだ。加納の話では秋葉原で部材をそろえ、自分で改造したとのこと。

 この他、中国製音響機器『電脳加油』を所持していた。


 佐伯と若林は地下拘置所を去り、エレベーターで捜査一課の執務室に向かう。

 執務室の佐伯の机には加納から没収したモデルガンの改造銃と『電脳加油』が置いてある。

「これ、今流行ってますよねえ」

 若林が言う。

「これでヒーリングミュージックを聞くと、不眠症の人がぐっすり眠れるらしいです。

 うちの家内も使ってますよ」

「加納は不眠症なのか?」

 佐伯が訊く。

「さあ、そこまでは調べてませんが。この他、これは都市伝説ですけど、これをしょっちゅう聞いてると、幽体離脱ができるようになるらしいですよ」

「幽体離脱? まさか」

 佐伯は何の気なしに『電脳加油』をかぶり、右イヤホンの後ろ下にある電源スイッチを入れる。

 古い柱時計のチクタク音とアコースティックギターの音色。

 佐伯は回転椅子に腰かける。

 ギターの音色は徐々に大きくなり、抗いがたい睡魔が襲ってくるのを覚える。

 これはまずい。このまま寝てしまうぞ。

 佐伯はそう思ったが、なぜか手足が動かない……。

「警部補、だいじょうぶですか」

 気がつくと若林の心配そうな顔が目に入る。若林が『電脳加油』を佐伯の頭から取り去ったのだ。

「ああ、だいじょうぶだ」

 佐伯はつぶやくように言う。


 



 

「だいじょうぶですか」

 澤村が心配そうな顔で覗き込む。

 周囲がぼやけ、視界が戻るまで時間がかかる。

 私は『電脳加油』を頭から取り外す。

「パラレルワールドは最悪だねえ。とんでもない妄想を見させられたよ」

 私が言う。

「そうでしょう。でも、だから面白んですよ」

「君みたいな若い人はそう思うかもしれないが、私はこりごりだな」

 私はそう言って立ち上がり、オフィスラウンジを後にする。


 エレベーターで地下駐車場で愛車のポルシェに乗る。

 すぐ帰ろうかとも思ったが、煙草を一服したくなった。胸ポケットから煙草を一本取り出し、ジッポーで火をつける。煙が目にしみる。

 煙草を吸っている間、何の気なしに『電脳加油』をかぶる。

 もうパラレルワールドの曲はごめんだ。

 私はスマホを操作して別の曲にしてからスタートする。

 川のせせらぎとピアノ曲が混じる。私のお気に入りの曲だ。

 ふと気がつくと、私の意識は頭上から飛び出し、車のルーフを通り抜け、駐車場の天井の位置からポルシェを眺めていた。

 意識が私の肉体を離れ、幽体離脱したのだ。

 私の意識はさらに上を目指した。地下駐車場を通り抜け、オフィスの各階を通過し、ビルの屋上を見下ろす位置まで来た。

 すると上空に金色の円盤が停止しているのを見つける。

 底面に漢字の「王」の字のような模様がある。

 「王」の字は金色の光線を発射し、幽体の私に浴びせた。

 すると抗いがたい力で私の幽体は円盤に引き寄せられる。

 やがて私の幽体は円盤内部に吸収されていくと同時に、私の意識が遠くなっていく……。


(つづく)


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