表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/27

本当の玉砕

 ――嫌な予感は、だいたい当たる。

 

 中庭。

 呼び出された時点で察してはいたけど。

 視界に入った瞬間、確信に変わった。


あー……これ、また面倒なやつだ


 並んでいる。

 三人。

アルベルト王太子はやたら覚悟が決まっている顔。

カイン先輩は無駄に気合が入っている。

ルイスは半分諦めてるのに来てると言った感じ。

 統一感はないのに、まとまりだけはあるのが一番厄介。

 

 

「……まだやるんですか」

 

 三人同時。


 

「最後だ」


 

絶対最後じゃない。


 即断できる。


 この人たちに“最後”という概念はない。

 

 私はため息をついた。


 

「では、手短にお願いします」


 

 帰りたい――切実に!


 

 すると、ルイスが一歩前に出る。


 

「今回は、ちゃんと作戦を立ててきた」


 

嫌な予感しかしない。


 私は内心こめかみを抑えて渋い顔をしたいのを我慢した。

 カインが腕を組む。


 

「正面からじゃ勝てねえ」


 

 アルベルトが頷く。


 

「ゆえに、連携だ」


 

何の話?


 私は思わず眉を寄せる。


 

「対ノア包囲網」


 

「やめなさい」


 

 即ツッコミ。


 

「人を敵みたいに扱わないでください」


 

 ちらっと端を見る。

 ノア先輩。

 普通にいるし。

 しかも定位置。

 いつもの無表情。


 この人も相変わらずブレないよなー。


 どんな神経してるんだ?


 

「非合理的です」


 

 通常運転。

 ルイスが続ける。


 

「公平にいこうって話になってさ」


 

「三人同時に告白する」


 

発想がバカ

 

 思わず本当にこめかみを押さえた。


 

「却下です」


 

「まだ何も言ってないだろ!」


 

「聞く前に分かります」


 

 カインが笑う。


 

「いいじゃねえか、一回くらい」


 

 アルベルトも真剣に頷く。


 

「これは我々なりの誠意だ」


 

誠意の方向性どうなってるの?


 むしろあなた達の誠意ってどういう構造?


 私は深く息を吐く。

 そして。


 

「……三十秒」


 

 三人が固まる。


 

「一人十秒。時間厳守」


 

「短くない!?」


 

「十分です」


 

 ルイスが苦笑する。


 

「まあ、引き出しただけでも上出来か」


 

 カインが拳を握る。


 

「よし、いくぞ」


 

 アルベルトが前に出る。


 

「では、私から――」


 

「同時です」


 

「同時か!?」


 

「条件です」


 

 三人、顔を見合わせる。

 そして――頷く。

 

なんで納得するの?


 

「――いくぞ」


 

 一拍置いて、三人同時に口を開く。


 

「エミリア、私は――」

「俺は――」

「……俺はさ――」


 

 重なる。

 完全に重なる。

 何も聞こえない。

 これではただの騒音だ。


何これ?


 私は無言で手を上げる。


 

「ストップ」


 

 即停止。


 

 三人、ピタッと止まる。


 

「聞き取れません」


 

「だよな!!」


 

 ルイスが即ツッコむ。


 

 カインが頭を抱える。


 

「くそ、やっぱ無理か……!」


 

 アルベルトが真剣に分析している。


 

「同時発話は効率が悪い……」


 

今さら?


 私は軽く息を吐く。

 そして――


 

「結論を言います」


 

 三人、姿勢を正す。

 無駄に真剣。


 

「全員、お断りします」


 

 沈黙。

 一秒。

 二秒。

 三秒。


 

「ですよねええええ!!」


 

 ルイスが叫ぶ。

 カインが空を仰ぐ。


 

「分かってたけどよぉ!!」


 

 アルベルトが目を閉じる。


 

「……やはりか」


 

あ。バカになっても、ダメージはあるんだ。


 ちょっと意外。


 

 そのとき。


 

「補足」


 

 ノア先輩。

 いつの間にか一歩前に出ている。


 

「現時点における選択確率」


 

「三名、ほぼゼロ」


 

「俺たち今二回目の死んだぞ!?」


 

 ルイスが抗議する。

 カインが笑う。


 

「トドメ刺しに来たな」


 

 アルベルトは静かに頷く。


 

「容赦がない」


 

ほんとにね。


 

 私はノアを見る。

 ノアは、いつも通りの顔。

 でも、ほんの少しだけ視線が違う。

 まっすぐで、迷いがない。


……ああ


 完全に理解する。

 この人、もう“観測側”じゃない。

 完全に“参加側”。


ほんと厄介――。


 でもなぜだろう?


 この人は嫌じゃない。


 むしろ、少しだけ……面白い。


 私は小さく息を吐く。


 

「では、解散で」


 

 三人同時。


 

「まだ終わってない!」


 うん。だよねー。

 

 わかってたけど分かりたくなかった。


 

 背を向けて歩き出す。

 後ろで何か言ってるけど、無視。

 付き合ってられない。

 ほんとに。


 ……ほんとに。


でもまあ――。


 足を止めて振り返る。

 三人と、ノア。

 全員こっちを見てる。

 期待と、諦めと、覚悟とが、全部混ざった顔。

 私は少しだけ考える。

 そして。


 

「――努力は評価します」


 

 一拍置いて。


 

「結果には反映されませんが」


 

「ひどくない!?」


 

 ルイスが叫ぶ。


 

 カインが笑う。


 

「上等だ」


 

 アルベルトが頷く。


 

「ならば続けよう」


 

やっぱり終わらないじゃん

 

 私はため息をつく。

 でも。

 口元は、少しだけ緩んでいた。

 ――最後の攻防戦……のはずだったけど。


たぶんこれ、まだ続くな……。


 確信だけが、残った。


 その確信は思わぬ早さと形を変えてやってきた。

 わたしはまた中庭に呼び出された。

 ――風が、少し冷たくなっていた。

 中庭に立つ四人。

 その距離は、以前よりもわずかに広い。


……ちゃんと適切な距離感保てるようになったんだ。


 アルベルト王太子を見る。

 かつては、踏み込むことしかしなかった人だ。

 距離を詰めて、押し切ることしか知らなかった。

 でも今は違う。

 無理に近づかない。

 言葉も、選んでいる。


 

「エミリア」


 

 呼び方一つとってもそうだ。

 命令でも、所有でもない。

 ただの“呼びかけ”。


 

「君を、もっと知りたい」


 

 静かに。


 

「そして――やり直したい」


 

 以前なら、ここで期待が滲んでいた。

 “応えてもらえる前提”の願い。

 でも今は違う。

 ただ置くだけの言葉。

 

……成長したね。王太子殿下。


 だからこそ。


 

「無理です」


 

 迷わず返す。

 空気が一瞬だけ固まる。

 でも、崩れない。


 

「理由を伺っても?」


 

 引かない。

 でも、押し付けない。


 

ちゃんと聞く姿勢、覚えたか。


 私は一つずつ並べる。


 

「まず、信頼は戻りません」


 

 過去は消えない。


 

「次に、恋愛感情がありません」


 

 これは現在の話。


 

「最後に」


 

 一拍置いて。


 

「あの婚約は、義務によるものでした」


 

 だから。


 

「成立していた関係ではありません」


 

 完全に切る。

 逃げ道は作らない。

 沈黙が落ちる。

 カインが少しだけ視線を逸らす。

 ルイスも、何も言わない。

 全員、分かってる。

 これは覆らないやつだって。

 アルベルトは――動かない。

 

さぁ……どう出る?


 ほんの一瞬、間。

 それから。


 

「……理解した」


 

 短く。

 それだけだった。

 崩れない、食い下がらない。

 そして。


 

「ならば」


 

 視線を上げる。


 

「私は、結果を求めない」


 

 一瞬の間。


 

「君が応えなくても」


 

「君が振り向かなくても」


 

「それでも、私は君を想う」


 

 静かに言い切る。


 

ああ、来た……。


 ここ。

 “努力すれば振り向いてもらえる”って発想を、捨てた。

 報酬前提の恋から、無条件の選択に変わった。

 それはもう、勝ち負けの話じゃない。

 ただの意志だ。

 私は小さく息を吐く。


 

「……そうですか」


 

 それ以上は何も言わない。

 否定する必要も、肯定する必要もない。

 カイン先輩が腕を組み直す。


 

「ずいぶん遠くに行ったな」


 

「お前もな」


 

 ルイスが返す。

 その声は、どこか穏やかだった。


ほんと、分かりやすいなこの人たち。


 私は視線を戻す。


 

「アルベルト様」


 

「何だ」


 

「あなたの感情は理解しています」


 

私は間を開けてから、言葉を続けた。


 

「ですが」


 

 言葉を区切る。


 

「それに応えることはできません」


 

 改めて、はっきりと。

 アルベルトは目を閉じる。

 ほんの少しだけ、呼吸を整えて。


 

「……ああ」


 

 受け入れる。

 それで終わり。

 押さない、縋らない、

 ただ、そこに置く。


ちゃんと終わらせたね。


 私はほんの少しだけ肩の力を抜く。

 そのとき。


 

「記録更新」


 

 後方から、淡々とした声。

 振り向かなくても分かる。


 

「一方通行の感情、持続を確認」


 

「外的報酬との非連動」


 

 ノア先輩。


 ……この人本当空気読まないなー。

 

 いや、読んでるのか。

 読んだ上でやってるなこれ。

 ルイスが小さく笑う。


 

「それ、わざとだろ」


 

「観測です」


 

「便利な言葉だな」


 

 軽口。

 でも空気は柔らかい。

 終わったからだ――ちゃんと。

 アルベルトが最後に、もう一度だけ口を開く。


 

「エミリア」


 

「はい」


 

「私は、君を愛している」


 

 飾らない言葉。

 私は、わずかに目を細める。


 

「知っています」


 

 そして。


 

「ですが、それに応えることはできません」


 

 繰り返す。

 理由は、言わない。

 もう必要ないから。


私は、誰かのものになる物語を終わらせた

 選ばれる側じゃない。

 選ぶ側に立った。

 だから。

 どれだけ真っ直ぐな想いでも。

 それだけでは、足りない。

 アルベルトは、それ以上何も言わなかった。

 ただ、静かに頷く。

 その姿は――どこか、以前よりも軽かった。

ああ、これで物語は終わったかな。

 選ばれない恋。

 でも、壊れていない。

 むしろ――ちゃんと形になっている。

 私は視線を外す。

 空を見上げる。

 少し高くなった空。


……変わったな


 世界も人も私も。

 そのとき。

 ほんの一瞬。

 視線を感じる。

 横――ノア先輩。

 相変わらず無表情。

 でも。

 記録じゃない目。

 ちゃんと、“見る側”の目。

 

はいはい、分かってる


 

 私は小さく息を吐く。


 

(ほんと、次の問題はこっちだよね)


 

 面倒ごとは終わらない。


 

 でもまあ。


 

 悪くない。


 

 少なくとも――


 

 逃げる必要は、もうないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ