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全員お断りします!本命がいるので

 ――平穏とは、長く続かないものらしい。

 事件が終わって、数日。

 ようやく静かになったと思ったのに。

 中庭に出た瞬間、私は足を止めた。


 

「……何をしているんですか」


 

 思わず、口に出た。

 だって。

 どう見てもおかしいから。

 視線の先。

 三人の男が、なぜか並んでいる。

 まずアルベルト王太子(やたら姿勢がいい)

 そしてカイン先輩(腕組みで威圧感)

 並びにルイス(諦め顔で遠い目)

 ……何これ。

 新手の儀式?

 それとも罰ゲーム?


いや、絶対ろくでもないやつ


 私がそう結論を出したところで。


 ルイスがぼそっと言った。


 

「順番待ち」


 

「解散してください」


 

 即答。

 間髪入れない。

 三人同時。


 

「それは無理だ」


 

 声が綺麗に揃った。


 ……無駄に連携いいな。


ほんと何なのこの人たち。

 

 ため息をつく。

 端に視線をやると――

 いた。

 ノア先輩

 メモを取りながら、こっちを見ている。


 

「……ノア先輩」


 

「はい」


 

「やめなさい」


 

「継続観測が必要です」


 

 通常運転だった。


 やめろ。


 何を観測してるの。


 

「告白イベントの同時発生を確認」


 

 やめて。


 言語化しないで。


最悪だ……


 私はこめかみを押さえた。

 逃げたい。

 でも逃げたら、絶対追ってくる。

 経験上。

 だから仕方なく、正面に向き直る。


 

「……一人ずつにしてください」


 

「公平に、ということだな」


 

 アルベルトが一歩前に出る。


 ……なんでそんなに堂々としてるの。


 無駄に王族オーラ出てるけど、やってること普通に並び待ちだからね?


 

「エミリア」


 

 真剣な声。


 

「私は過去を悔いている」


 

 はい、知ってます。


 

「だがそれ以上に――」


 

 一拍置く。


 

「これからを共にしたい」


 

 真っ直ぐな視線。


 

 ……うん、まあ。


 

 真面目なのは分かる。


 

 分かるけど。


 

「お断りします」


 

 即答。


 

「なぜだ!?」


 

「理由が必要ですか」


 

「必要だろう!?」


 

「では簡潔に」


 

 私は一息ついて。


 

「恋愛感情がありません」


 

「……っ」


 

 沈黙。


 

 ごめんね。


 でも事実。


経験上ここで変に優しくすると、あとで面倒だから。


 

 アルベルトが一歩下がる。

 その隙に。

 カインが前に出た。

 圧――無駄に圧が強い。


 

「エミリア」


 

「はい」


 

「俺はもう間違えねえ」


 

 まっすぐな声。


 

「今度はちゃんと、お前を見る」


 

 ……うん。


 それは、知ってる。


 見てるし。


 すごい見てるし。


 視線が重いんだよね、この人


 

「だから――」


 

「選ばせてくれ」


 

 ……何を?


 いや分かるけど。


 分かるけど。


 

「お断りします」


 

「早ぇよ!!」


 

 カインが即ツッコミ。


 

 ……いや、待つ理由ないし。

 根に持つ訳じゃないが、あんなことされてるし?

 好意を持つわけがない。


 

「判断は迅速に行う主義です」


 

「そういう問題か!?」


 

「そういう問題です」


 

 きっぱり言い切る。

 カインが頭を抱えた。


 うん、頑張って。


 で、最後。

 ルイス。

 彼は少しだけ息を吐いてから、前に出た。


 

「……俺は遅かった」


 

 静かな声。


 

「でも、それでもいい」


 

 一拍の間。


 

「好きだ」


 

 ――少しだけ、間が空いた。

 たぶん。

 今の三人の中で、一番ちゃんと分かってる。

 結果がどうなるか。

 それでも言ってる。

 だから。

 私は、少しだけ間を置いてから。


 

「お断りします」


 

「間を置いた意味!!」


 

 ルイスが崩れた。

 いや、意味はある。

 気持ちの整理の時間。

 私の。


ちゃんと考えた上で断ってるっていう意思表示。


 大事だよね。


 ……まあ伝わってないけど。

 

 いいや。


 

 三人とも、沈黙。

 見事に全滅。

 中庭に、微妙な空気が流れる。

 その端で。


 

「三者とも失恋を確認」


 

 ノアが記録している。


 

「……やめなさい」


 

「事実です」


 

「それはそうですけど」


 

 なんかこう、言い方。

 あるでしょ。

 もう少し。

 空気読むとか。

 ……無理か。

 知ってた。

 私はため息をつく。

 そして。

 三人を見る。


 

「共通して言えることがあります」


 

 三人が顔を上げる。

 ちょっと真面目な空気になる。


 ……いや、なるよね。


 この流れなら。


 

「あなたたちは、変わりました」


 

 一拍の後。


 

「それは事実です」


 

 沈黙。


 

「ですが」


 

 私は続ける。


 

「だからといって、私がそれに応える義務はありません」


 

 はっきりと言う。


 

「私の選択は、私が決めます」


 

 視線を逸らさない。


 

「今は、誰も選びません」


 

 完全な沈黙。

 でも。

 逃げるような沈黙じゃない。

 受け止める沈黙。

 アルベルトが、ゆっくりと息を吐いた。


 

「……そうか」


 

 カインが、頭を掻く。


 

「分かってたけどな」


 

 ルイスが、小さく笑う。


 

「やっぱりね」


 

 三人とも、ちゃんと理解している。


 

 だから。


 

 それでいい。


 

「では」


 

 私は踵を返す。


 

「解散してください」


 

「それは無理だ」


 

 三人同時。


 え……なんで?


ほんとに何なのこの人たち……。


 

 私はもう一度ため息をついた。

 ――平穏は、まだ遠い。

 本当に遠い。

 でも。

 背中に感じる視線は、もう嫌なものじゃない。

 ただ――

 “選ばれないと分かっていて、それでも向けられる視線”。

 ……正直、扱いに困る。

 すごく困る。


ほんと、どうしてこうなった


 心の中でぼやきながら。

 

 ある日の中庭。

私は3人の男性に呼び出されていた。

 正確には4人?

 並んでいたのは例に漏れず。

 アルベルト王太子。

 カイン先輩。

 ノエルだった。

 

 ――静かになった、はずだったのに……。


 私は膝から崩れ落ちそうな悲壮感を必死に堪えている。

 内心頭を抱えて。

 中庭の空気は、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに落ち着いている。

 

 ……落ち着いている、はずなんだけど。

 

なんでこの空気、まだ終わってない感じなの?

 

 私は軽く息を吐く。

 目の前。

 撃沈したはずの三人が――復活している。

 早い。回復が異様に早い。


 

「で?」


 

 腕を組んだまま、カインが口を開く。


 

「“現時点では”ってことは、未来はあるってことだよな?」


 

「言質取りに来るの、やめていただけます?」


 

 即答。


 

 ルイスが苦笑する。


 

「いやでもさ、ゼロじゃないって分かっただけでも進歩じゃない?」


 

「その解釈は自由ですが、責任は取りません」


 

「厳しいなあ……」


 

 アルベルトは一歩前に出る。

 相変わらず姿勢がいい。

 無駄に王子っぽい。


 

「では、問おう」


 

「何を改善すれば、君に選ばれる?」


 いや面接じゃないんだけど


 思わず額に手を当てる。


 

「……選ばれる前提で話が進んでいるのが問題です」


 

 三人、同時に固まる。

 

 うん、そこから。


「まず前提を訂正します」


 

「私は“誰かに選ばれる側”ではありません」


 

 一拍の間。


 

「私が選びます」


 

 沈黙。

 空気が少しだけ変わる。

 

 ……まあ、そうなるよね。


 ルイスが小さく笑う。


 

「分かってたけど、ちゃんと言われると刺さるな」


 

 カインはニヤッとする。


 

「いいじゃねえか」


 

「その方が燃える」


 

燃えないで……お願い……。


 アルベルトは真面目に頷いている。


 

「ならば尚更、努力のしがいがある」


 

方向性は間違ってないけど、面倒くさい。


 その努力……いらないですから、私にティータイムをください。


 私は軽く肩を落とした。

 そのとき。


 

「記録」


 

 静かな声。

 ノア先輩。

 まだいる。

 というか、ずっといる。


 

「三名、競争状態へ移行を確認」


 

「長期戦の可能性が高い」


 

「エミリア様の負担増加、確定」


 

 私は即座に振り向く。


 

「……ノア先輩」


 

「はい」


 

「他人事みたいに言わないでください」


 

「事実です」


 

「知ってます」


 

 ため息。

 ほんとこの人、ブレない。

 ルイスがぼそっと言う。


 

「一番容赦ないの、あの人だよな」


 

「同意だ」


 

「認めたくはないが……そうだな」


 

 三人、なぜか一致団結。


そこで団結しないでほしい


 

 私は視線を逸らす。

 ――で。

 結局。

 話は終わった、はずだった。

 はずなんだけど。


 

「エミリア」


 

 呼ばれる。

 ルイス。

 さっきまでの軽さが少しだけ抜けている。


 

「一個だけ、聞いていい?」


 

「内容によります」


 

「俺さ」


 

 一拍あけて。


 

「完全に可能性ゼロ?」


 

 空気が静まる。

 カイン先輩も、アルベルト王太子も、黙る。

 ノア先輩は――記録してる。


 

この人ほんとにさあ……


 

 私は少しだけ考える。

 そして。


 

「ゼロではありません」


 

 ルイスの目が、わずかに見開かれる。

 他の二人も同じ。

 ……でも。


 

「ただし」


 

 一拍置く。


 

「現時点では、限りなくゼロに近いです」


 

「落差がひどい!!」


 

 ルイスが思わずツッコむ。

 カイン先輩が笑う。


 

「いいじゃねえか、“近い”んだろ?」


 

 アルベルトも頷く。


 

「希望はある」


 

ちょっとポジティブすぎない?


 

 私は軽く頭を押さえた。

 そのとき。

 ふと。

 視線が合う。

 ノア先輩。

 いつもの無表情。

 でも。

 ほんの一瞬だけ。

 わずかに、視線が柔らかい。

 ……気のせいかもしれないけど。


 いや、この人が分かりやすいわけないか


 私は視線を逸らす。

 そのまま、背を向ける。


 

「では、解散でよろしいですね」


 

 三人同時。


 

「それは無理だ」


 

――うん。言うと思ってた。


 

 歩き出す。

 背後で何か言い合っている。

 たぶん順番がどうとか。


 ……ほんと、元気だな。

 

 少しだけ、口元が緩む。


面倒だけど――悪くない。


 風が吹く。

 中庭の木々が揺れる。

 騒動は終わった。

 世界は少しだけ、まともになった。

 でも。

 人間関係は――むしろ、ややこしくなっている気がする。


ほんと、なんでこうなるかな?


 

 小さく息を吐く。

 けれど。

 足取りは、少しだけ軽い。

 ――その後ろで。


 

「記録追記」


 

 ノアの声。


 

「対象、微笑を確認」


 

「感情変化、軽度上昇」


 

「――継続観測」


 

 誰にも聞こえない声で。

 ただ一人。

 静かに、そう呟いた。

 私は歩き出した。

 たぶん。

 この面倒な日常も――

 しばらくは、続く。

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