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断罪の結末は

――静寂が、ゆっくりと戻ってくる。

 さっきまであれだけ揺れていた空気が、

 嘘みたいに落ち着いていく。

 誰も、すぐには口を開かなかった。


 ……まあ、そうなるよね。


情報量、多かったし。


 私は小さく息を吐いて、視線を正面に戻す。

 リリアーナは、ちゃんと立っている。

 もう、さっきみたいに崩れそうな顔はしていない。

 泣いてはいるけど。


 ――目は、逸らしていない。


 それで十分。


 

「以上です」


 

 私は、淡々と告げる。


 

「被告リリアーナの行為は、結果として群衆の判断を奪い、暴動を誘発しかけました」


 

 1拍後。


 

「よって、無罪とはいたしません」


 

 ざわめき。


 

 当然だ。

 “断罪ではない”と言っておいて、無罪ではない。

 その中間を取るのは、一番面倒なやつだから。

 

まあ、簡単に許したら意味ないし


 

「ですが」


 

 私は続ける。


 

「悪意によるものではなく、未熟さによる過失と判断します」


 

 視線を、まっすぐに向ける。


 

「よって――」


 

 一息ついて。


 

「監督下での活動制限、および是正指導を命じます」


 

 場が、静まり返る。

 理解が追いついていない顔が多い。


 ……まあ、そうだよね。


要するに“保護観察+教育”なんだけど……。


 

 言い方って大事。

 貴族社会的に。


 

「監督責任者は」


 

 一瞬、間を置く。

 後ろから、妙に嫌な予感の視線が刺さる。

 主に四人分。

 振り返らない。

 絶対に振り返らない。


 

「――私が務めます」


 

 決定。


 

 ざわっ、と空気が揺れた。


 

 後ろ。

 なんかすごい納得した顔してる。


 いやなんでよ。


いやいやいやいや、ちょっと待って!


 普通ここ止めるか、誰か名乗り出るでしょ!?


 内心でツッコミが止まらない。


 今の流れで「よし、エミリアに任せよう!」ってなるの普通におかしくない?


 

 アルベルト、めっちゃ頷いてる。

 カインも「妥当だな」みたいな顔してる。

 ルイスは笑ってる。

 ノアはもう記録してる。


 ……お前ら。


 

「異議は?」


 

 形式的に問う。

 誰も手を挙げない。


 でしょうね。


うん。わかってた。


 

「では、決定といたします」


 

 小さく、木槌の音。

 ――それで。

 すべてが、終わった。


 人がはけていく。

 ざわめきが遠ざかり、広間に静けさが戻る。

 残っているのは、数人だけ。

 リリアーナは、まだその場にいた。


 

「エミリア様」


 

「何でしょう」


 

 振り返る。

 彼女は少し迷ってから、言った。


 

「……ありがとうございます」


 

 一拍置いてから、私は、少しだけ考える。

 それから。


 

「お礼を言われることはしていません」


 

 淡々と返す。


 

「あなたは罰を受けています」


 

「はい」


 

「私は、それを執行する側です」


 

「……はい」


 

 でも。

 彼女は、ちゃんと頷いた。

 逃げない。

 それならいい。


 

「ただ」


 

 一瞬だけ、言葉を選ぶ。


 

「あなたが学ぶ意思を示したことは、評価します」


 

 リリアーナの目が揺れる。


 

「その言葉、忘れないでください」


 

「……はい」


 

 小さく、でも確かに。

 彼女は答えた。

 ――足音。


 

「ずいぶん厳しいな」


 

 カイン。


 

「当然です」


 

 即答。


 

「甘くしてまた暴走されたら困るので」


 

「違いない」


 

 苦笑している。

 ルイスが横から口を挟む。


 

「でも、ちゃんと拾ってるよね」


 

「拾っていません」


 

「拾ってるよ」


 

「拾っていません」


 ……なんなのこのやり取り。

 

 アルベルトは少しだけ柔らかい顔で言った。


 

「見事だった、エミリア」


 

「役目ですので」


 

 さらっと流す。

 褒められても困る。

 本当に。

 ノアが最後に一言。


 

「記録、完了」


 

「今回の事例は、制度設計に反映可能」


 

 ……この人は最後までブレない。

 逆に安心する。

 私は全員を一度見て。

 そして、視線を外した。

 ――終わった。

 本当に、ようやく――あの歪みから始まった一連の騒動が。

 区切りを迎えた。

 

……長かった


 正直、それが一番の感想。

 達成感とかじゃない。

 ただの疲労。

 でも、ほんの少しだけ。

 ほんの少しだけ――

 世界は、まともな方向に戻り始めている。

 感情だけでも、理屈だけでもなく。

 その両方で、進む方向に。

 ……面倒だけど。

 本当に面倒だけど。

 たぶん、これが一番壊れにくい。

 私は踵を返す。


 

「では、これで失礼いたします」


 

 誰にともなく告げて、歩き出す。

 背中に視線を感じる。

 いくつも。

 でも、もうそれは。

 敵意でも、疑念でもない。

 ただ―― “見ている”だけの視線。

 評価でも、断罪でもない。

 選び直そうとする人間の視線。

 

……やりにくいな、これ


 少しだけ、苦笑する。

 そして、小さく、息を吐いた。

 ――公開聴取編は、これで終わる。

 けれど。

 物語は、まだ続く。

 なにせ――


私の仕事、増えてるし……

 

 ほんと、誰だよこれ決めたの。

 

 あとでちゃんと抗議しよう。


 無理だろうけど……

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