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真実は誰が決めるのか

 ――再び、この場所に立つことになるとは思わなかったわ。


 まったく――


 

 今度は王城の大広間。

 第二回公開聴取。

 

 ……はい。

 

 嫌な予感しかしません。


 前回ロクなことになってないからね。


 

 私は証言席に立つ。

 構造的には学園の広間と同じ場所。

 違うのは、一つだけ。

 今回は――私が“裁く側”だということだ。


 ……人生、何があるか分かりませんね。


 視線を巡らせる。

 そこにいるのは。

王太子アルベルト。

 カイン先輩。

 ルイス。

 ノア先輩。

 全員が、こちら側に立っている。


 皮肉だよなー。


 ついこの前まで、誰もいなかったのに。

 今は、やたら増えました。

 

増えすぎじゃない?


 正直、少しうざったい。

 

 ――扉が開く。

 リリアーナが入場する。

 静かに。

 まっすぐに。

 その目は――折れていない。


 

「……エミリア様」


 

「リリアーナ」


 

 短い呼応。

 それだけで、空気が張り詰める。


 

あ、こりゃ絶対荒れる空気。


 

 審問が始まる。

 罪状。

 民衆扇動。

 暴動未遂。

 統治妨害。


 ……はい、フルコース!


 だいたい全部乗せ


 証拠は揃っている。

 ・暴動寸前の状況

 ・群衆の異常な同調

 ・彼女の発言記録

 論理的には、逃げ場はない。

 ――が。

 

問題は、論理じゃないんだよなー。


 リリアーナが口を開く。


 

「私は、ただ助けたかっただけです」


 

 静かな声。

 けれど、届く。


 

「泣いている人がいたから」


 

 ざわめき。


 来たな。


 第一波:共感


 

「苦しいって言っていたから」


 

 空気が揺れる。

 一人、また一人。

 “同情”が生まれる。


はい、連鎖開始


 私は内心で冷静に分析する。

感情誘導、軽度発動。

 範囲:広間全体

効果:共感の増幅

 

 ……本当に便利な能力だよ。これ。

 

敵に回すと最悪だけど。


 リリアーナは続ける。


 

「間違っていたかもしれません」


 

 その言葉で、一瞬、緊張が緩む。

 ――が。


 

「でも」


 

 顔を上げる。


 

「見捨てることは、できませんでした」


 

 その瞬間。

 空気が、傾いた。

 ぐらり、と。

 観衆の感情が、彼女に流れる。

 

はい、完全に始まりましたー!

 

 能力、再発動。

しかも今回は――


場が密閉されているので逃げ場がない。


 最悪だ。


 前列の貴族が眉をひそめる。

 後方の市民が涙ぐむ。

 判断が、揺らいでいる。

 アルベルトが小さく息を呑む。

 カインが拳を握る。

 ルイスが目を細める。

 ノア先輩は――


 

「興味深い」


 

 メモを取っていた。

 

この人だけ通常運転です


 私は一歩、前に出る。

 そして。


 

「――論点を整理します」


 

 ぴたり、と。

 空気が一瞬止まる。

 リリアーナがこちらを見る。

 私は淡々と続ける。


 

「あなたの動機は理解しています」


 

 一瞬の間。


 

「ですが、それは罪状の否定にはなりません」


 

 ざわめきが戻る。

 だが、先ほどとは違う。

 少しだけ、“考える余地”が戻った。

 リリアーナが反論する。


――空気が、止まる。


 

 「……教えて、ください」


 

 その一言で、場の意味が変わった。

 さっきまでここは“裁きの場”だった。

 でも今は違う。

 ただの――分岐点だ。


 ほんと、毎回極端なんだよねこの子。


 1か10しかない。

 

 私は内心でぼやきながら、一歩前に出た。

 リリアーナは膝をついたまま、こっちを見ている。

 その目はもう、人を動かすための目じゃない。

 ただ、縋るでもなく――ちゃんと立とうとしてる目だ。

 

 ……まあ、それなら。


 

「いいでしょう」


 

 ざわっと空気が揺れる。


 後ろ、うるさい。

 

 誰が「え?」って言ったの、今。

 

 たぶんルイス。


 

「ただし条件付き」


 

 私は淡々と続ける。


 

「まず一つ。“泣いてる人は全員救う”は禁止」


 

「えっ」


 

「えっ、じゃないです」


 

 即ツッコミ。


 

「それやると、今回みたいに爆発しますから」


 

 ちらっと周囲を見る。

 さっき暴走しかけてた人たちが、すっと目を逸らした。

 

 うん、分かってるならいい。


 

「でも……見捨てるのは」


 

「見捨てろとは言ってません」


 

 かぶせる。


 

「順番つけろって言っています」


 

 一拍置き。


 

「命に関わる人から。そこは迷わないでください」


 

 リリアーナが息を詰める。

 

 ……きついよね。

 

 分かるけど、ここ曖昧にするとまたやらかす。


 

「次」


 

 指を一本立てる。


 

「助けたあと、どうなるかまで考える」


 

「……どうなるか」


 

「今回どうなりました?」


 

 しん、と静まる。

 あえて言わせない。

 自分で思い出させる。


 

「……暴動、になりかけました」


 

「そう」


 

「それ、救いって言えますか?」


 

 リリアーナが黙る。


 ……うん、その顔でいい。


 

「気持ちはいい。でも結果がダメなら、それはただの自己満足にほかなりません」


 

 ちょっときつめに言う。

 ここ甘くすると、意味ないから。

 そのとき。


 

「補足」


 

 横からノアが入ってくる。


 

 ……タイミング、ほんとブレないなこの人。


 

「感情誘導の同調率、臨界値を超過していた」


 

「発言直後、判断停止を確認」


 

「複数同時対象への共感は危険」


 

 淡々と爆弾投下。

 会場、ちょっと引いてる。

 

 うん、分かる。


 すごーく分かるよー!


 

「要するに」


 

 私はまとめる。


 

「一人ずつやって。あと喋りすぎない」


 

「はい……」


 

 素直。

 今はそれでいい。

 後ろで小さく笑う声。


 

「随分スパルタだな」


 

 カイン。


 

 腕組んで見てる。


 

 ……あんたに言われたくない。


 

「放置して暴走するよりマシです」


 

「耳が痛い」


 

「でしょうね」


 

 ルイス、完全に笑いこらえてる。

 あとで絶対何か言う。

 アルベルトは――なんか真面目な顔で頷いてる。


 いや何その“勉強になりました”みたいな顔……

 

 どこで使う気?


 私はため息を一つ。

 視線を戻す。

 リリアーナはまだ膝をついてる。


 

「立ってください」


 

「……はい」


 

 ゆっくり立つ。

 ちょっとふらついてるけど、踏ん張ってる。


 ――いいね。


 

「最後に一つ」


 

 私は言う。


 

「あなたのそれ、危険ですが」


 

 一拍置く。


 

「ちゃんと使えれば、私にはできないことができます」

 

 ざわめき。

 

 そりゃそうか。

 

 私が他人を評価するの、珍しいし。

 

 リリアーナが固まる。


 

「……私に?」


 

「そう」


 

「だから」


 

 少しだけ、声を落とす。


 

「学んでください。壊さないやり方」


 

 一呼吸置いて。


 

「次やったら、止めます」


 

「全力で」


 

 会場の空気がピリッとする。

 リリアーナは、少しだけ笑った。

 泣きながら。


 

「……はい」


 

 その返事は、ちゃんと届いた。

 

 ――これで終わり、じゃない。

 

 むしろここから。


 ほんと、なんで私が教育係みたいなことしてんの


 ちらっと後ろを見る。

 アルベルト、カイン、ルイス、ノア。

 全員、妙に納得した顔してる。

 

 ……いや待って。


 その「いい感じにまとまったな」みたいな空気、やめて。


 仕事増えてるの私だけだからね?

 

 ちゃんと分かってる?


 分かってないよね。


 知ってた。

 

 私は小さく息を吐いた。


まあ、もういいけど……


 

 感情で動くやつと、

 理屈で固めるやつ。

 本来、相性最悪。

 でも――並べることは、できるらしい。

 面倒だけど。

 本当に面倒だけど。

 ちょっとだけ。

 ほんのちょっとだけ。

 悪くない、って思った自分が一番めんどくさい。

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