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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第五章『世界図書館』編
140/142

第140話『光の先へ』

全員並び、光が指す方向へ進んでいく。


ここは大陸の中だろうか?

端のほうには道のようなものがあったが今はそんなものはなく、枝や倒木など邪魔なものを避けて進んでいく。

見通しも悪く、陽の光も入ってこない。枝葉が頭上を覆い、昼間だというのに森は薄暗かった。

しかも、周りにはたくさんの気配を感じる。


「反省しました。思ったより緊張しているようで、恥ずかしいです」


セリナが歩きながら言う。本当に反省していて、声のトーンも低い。

それを聞いて、セリナが見えない後ろで、リオナルドがうなずいたような気配を感じた。


「ヤモリは足が四本だったのを忘れて、がっついてしまいました……」

「うん、そういう問題じゃないからな。セリナ」


背後で消滅するムカデの魔物。

ムカデは魔法陣の内部にもいたし、驚くことでもない。さっさと片付けて先に進む。

ムカデはアルネスでも『無理』と言われ、そういえばとセリナは思い出したのだ。

欲しいのは、美味しい足の多い生き物だったと。


「私、誓います。これからはちゃんと足の数を把握してから吟味しようと」

「せんでいいっ。あのな、人数確認のための会話とはいえ、もっと充実したものはないのか」

「失礼な。そんな目的のために話しているわけではありませんっ」

「もっと悪いだろっ」


今度は鎧エルンストからのツッコミ。それを聞いてアルネスが『あはは』と笑う。

おかしい。セリナは真剣な話をしているのに。


何体も魔物に襲われながらも、何事もなかったかのようにセリナたちは進む。

魔法陣内部で戦った魔物よりは強いが、このメンバーではそれもどんぐりの背比べ。


「あれ?これ以上は光がないね」


道なき道を進み、光をさえぎるものは全て無くしてやってきた先で、光が途中で切れた。

その場所は、木々に囲まれた円状の草が生えている場所。それだけ。

洞窟があるとか、ダンジョンがあるとか、そういったものはなにもない。


『ここになにがあるの?』


ライラの疑問は全員の疑問でもあった。

特別な気配を感じるわけでもない。一応辺りを見回してみるがなにもない。アルネスが魔力を探っているが、今のところ報告はなし。


どういうことだ……?


セリナが口に手を当てて考える。

唯一見つけたのは、ここにはかつてなにかが建っていたのだろうという痕跡。草の生えかたと、石で出来たガレキがそれを物語っているという。


「もしかして……他の誰かに奪われた……?」


リオナルドがポツリと嫌な言葉をこぼす。

そんなセリナの心中を知らず、リオナルドは言葉を続けていく。


「ここにはかつてなんらかの建物があって、そこに天使の言う大切なものがあったけど奪われ、建物は壊され……今はこの残骸があるだけ、とか?」


あぁぁ……説明されると、そうとしか思えなくなるからやめてぇぇ。


「いやいや待て待て。俺らの冒険のワクワクを返せよ。そんな肩透かし信じねぇぞ、俺は」


鎧エルンストの嘆きにセリナも同意する。

あの天使、あの場所から離れたことがないからこの現状を知らないという可能性がある?


「……待って。なにかあるよ。下だ」


アルネスの言葉にセリナがパァッと顔を明るくし、鎧エルンストの赤い瞳がギュンとアルネスを見る。

地面に手をつけてなにかを感じ取っているアルネスの言葉の先を、二人はジッと待つ。


「あ、違う。これ、誰かが埋めた金塊だ」

『えぇー……』


嬉しそうに振っていた、ライラの三本のしっぽが全てうなだれる。

いやでも、魔法陣外部の金塊は貴重なのでは?と思ったセリナが、アルネスに掘り起こしてほしいとお願いすると、快く受け入れるアルネス。


「どうすんだよ、手詰まりじゃねーか」

「もしかして……今までの道のりにあったという可能性はありませんか?」

「じゃあ来た道帰ってみるか?倒してきた木とかにヒントあったらやべーぞ。一部は消滅させちゃってるじゃねーか」

「うーん。特別な気配は感じなかったけどなー」


鎧エルンスト、金塊を全て回収したセリナ、座ったままのアルネスが頭を抱えて悩む。

戻って天使に『なかった』と文句を言うのも一つの手かもしれない。だが、その天使だってこんなことになっているとは思っていないからこそ、光をここに繋げているようにも思う。


「……あれはなんだ?」


希望の光が差し込んだのは、リオナルドのその一言だった。

全員でリオナルドがさす方向を見ると、そこには一つの木があった。

特に変わった雰囲気もない木で、リオナルド以外は首をかしげる。

だが、セリナは気づいた。

リオナルドが眼鏡をかけていること。そしてさした指の先は正確には木ではなく、その木になっているなんらかの実だということ。


「リオさん、あれが気になるの?食べたいの?」

「あのな……セリナじゃないんだから」


どういう意味かな?


セリナの心のツッコミは置いといて、リオナルドが木へと歩いていき、なっている実の一つを剣で斬って落とし、手でつかむ。

それを全員が群がって見た。


見たことのない実だ。リンゴに似ているが一回り大きいし、色は黒く瘴気が漂っている。

これくらいならセリナの防御魔法でなんとかなるが、本来なら近づけもしないだろう。

しかし、これくらいのものは今までの道のりで見てきた。


「どう気になるのですか?リオナルド様」

「これの一番内側に魔力でも瘴気でもない、なにかが見えるんだ。あの光と同じような力の……」


言われてじっくりと調べてみると……なるほど、わずかだが光の線と同じような力を感じないでもない。

セリナでその程度だ。アルネスも同じようで眉をひそめながら観察しているし、こんなのわかるわけがない。


「んで、どうするんだそれ?」

「持って帰ったところで、こんな瘴気まみれのもので世界図書館が開くとは思えないよね」


鎧エルンストとアルネスの会話を聞きながら、セリナが口に手を当て考える。

瘴気まみれ……瘴気まみれの実……


「ならば、実を光と同じに変えてしまえば良いのでは?」


世界図書館は、魔力でも瘴気でもない、精霊の力で動いた。

それと同じ理屈ならもしかして……


「やってみても良いかもしれませんね」


アルネスが同意する。

セリナがリオナルドを見るとうなずき、ライラはすでに魔力回復の瓶を取り出し待機し、鎧エルンストは腕を組んで立っていた。


「失敗してもまだ実はなってるし、一つくらいいいんじゃねーか?」


鎧エルンストの言葉でセリナの心は決まった。

リオナルドがひらけた空間の真ん中あたりに実を置き、スッと離れていく。

ここなら見晴らしが良いし、なにかあってもすぐに対処できる。さすがだ。

セリナは実の近くに座り、その横にライラが待機する。

セリナとライラ、二人が目を合わせてにこりと笑う、その合図が終わるとセリナは実に向かって両手のひらを向け、目を閉じた。


大丈夫。ただ力を流し込むだけ……


セリナの胸元のギンバイカが揺れる。

少しずつ、少しずつ力を注ぎ、浄化させていく。


「綺麗……」


アルネスが感嘆の声をこぼした。


黒くよどんだ草が少しずつ本来の力を、色を取り戻し、瘴気は優しい力に包まれ眠るように消えていく。

恐怖を感じさせた木々のざわめきが、その場の全員を祝福しているような声に聞こえてくる。

木々が脅すのをやめた今、陽の光が差し込み、水滴がキラキラと光の粒となって辺りを優しく彩る。


そう……

その光景は、おとぎ話で出てきた『聖女』様の祈りによる安らぎのようだった。


やがて実を浄化し終わったセリナが目を開く。

ライラがすぐにセリナに回復の瓶を渡してきたので、それを飲みながら辺りを見回し、先ほどとは違う光景にセリナ自身も驚いた。

世界図書館のような場所へと変化していたら、驚かずにはいられない。


「さすがですセリナ様っ!」


アルネスが楽しそうにセリナに近づいてくる。

リオナルドが、優しくセリナの背中をさすり、それに合わせてゆっくりと深呼吸をすると息が整ってきた。

鎧エルンストは、奥で親指を立てている。


「では……この実を持って帰ったらいいんでしょうか?」


ふぅ、とため息を一つついたセリナがそう言った。

その時だった――


『久しぶりに力を感じる……誰だ?』


その声は、先ほど金塊を掘った時に出来た、地下への穴から聞こえてきたのだった。

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