動き出した運命
今は四月の中旬。寒かったり、暖かかったりして、中々服装が定まらない微妙な時期。
今年、県立中山田高等学校に入学したばかりの古代 健吾にとっては、特別な時期であった。
新しいクラスメイト達、慣れない授業、見知らぬ教師達……、挙げ始めるときりが無い程の新しさに溢れていた。授業が終わったというのに、未だに緊張が解けない。
さっさと帰って今日の授業の復習でもしようかと、席を立つ。だが、それを止めるように、あまり特徴の無い友人が立ちはだかった。
「なぁ、健吾お前、部活何に入るつもりなんだ?」
友人の名前は双葉 利明。小学校の頃からの付き合いで、高校では今の所、唯一の友人である。色々と器用な奴で、一緒にいると助けられる事が多い。その為、健吾は利明と長い間友人として付き合っていた。
髪を染める事も無く、髪も短く整えたその外見は、一見優等生風にも見える。だが、本人は何をやらしても無難にこなすだけで、真面目に物事に取り組まない。結構いい加減な奴だ。その辺りが、付き合っていて疲れない。
「オレは部活に入るつもりなんてねーよ。めんどくせーしな」
健吾は鞄に手を掛けると、そのまま持ち上げる。自分はもう帰ると行動で示す。そんな健吾に向けて、利明は声をかけた。
「部活をやらないって事は、本当に辞めるのかい? 剣道を」
「その為にこんな偏差値の高い高校に来たんだ。当然だろ」
健吾は肩に鞄をかけると、教室から出て行こうとする。そんな健吾に利明は再び声をかける。
「高校生でいられる時間って、実は結構短いんだよな。俺は自分なりの青春を探すとするよ」
利明はいつもと同じように、へらへらとしながら笑っていた。こういうところが無ければ、優等生として、教師から好かれていただろう。
「利明は部活どーすんだよ」
「そりゃあ、先ずは見学かな? この高校、結構面白い部活や同好会があるみたいだし、色々楽しませ貰おうかなぁって」
別段利明が入る部活に興味はないので、聞くだけ聞いて健吾は教室を後にする。
『来たれ新入部員! 君の情熱を白球に賭けてみないか?』
教室を出てすぐの廊下の壁には部活勧誘のポスターが貼られていた。
野球のユニフォームを着た二人が、ボールを投げたり、バットを振ったりする姿が、躍動感に溢れて描かれていた。
部活には興味が無いので、ポスターを無視して歩くが、校舎内は部活勧誘一色だった。
そこらじゅうから部活に関する声が聞こえてくる。部活に所属する者も、何処に入ろうか迷っている者も、部活、部活、部活。健吾は少々うんざりしながら、下駄箱を目指す。
「全く、部活なんて、何が楽しいんだ。あんなものは、才能がある奴がスポットライトを浴びる為だけにあるもんだろ……」
健吾は独りごちる。別段意識したつもりもないのに、そんな言葉が口から零れる。
この学校に入った理由は、剣道部が無かったから。ただそれだけのはずだ。他の人間が部活を楽しもうがどうしようが、自分の知った事ではない。
階段を下りるとすぐに、下駄箱が見えた。
自分の下駄箱から、まだ新しいローファーを取り出して、さあ帰ろうと玄関を見ると、動きが止まってしまう。
校舎内だけでも五月蝿かった勧誘が、玄関先ではさらに過激になっていた。玄関から出て帰ろうとする新入生を捕まえて、勧誘するつもりなのだろう。どうして、ここまで必死になって部員を集めているか知らないが、いい迷惑である。
「あそこを使うとするか……」
健吾は踵を返すと、ローファーを持ったまま校舎内に戻って行く。新入生は知らないであろう、近所に住む自分だけが知る回り道を目指す。
職員室の近くにあるアルミ製の扉。教師が中庭に出るためによく利用されるものだが、生徒が使ってはいけないという決まりは無い。
扉に鍵はかかっている事はなく、ノブを回して扉を開ける。そして、手に持っていたローファーを地面に置き、靴を履き中庭に進んでいく。
中庭は植え込みが多数あるが、その根元は雑草が茂っており、とても手入れが行き届いているとはいえない。中庭は表にあるわけでもないので、来客者の目に付く事もあまり無い。
利用する教師も生徒も少ない為、手入れをする必要がないのだろう。そのお陰で、学校を快く思っていない生徒が、まれに集まっていたりする。
中庭を通って、裏門を目指す。流石にこんな人気の無いところで、部員の勧誘を行っている部活は無いらしい。
健吾は気楽に中庭を歩いていると、目の前にページの開いたグラビア写真集が健吾の目の前に現れた。どこかの馬鹿が置き忘れていった物かもしれないし、教師が落としていった物かもしれない。
だが、そんな事は知った事ではない。
問題は開いているページである。
写真の少女は青いビキニタイプの水着を着用している。青い水着、小麦色の肌、白い歯、そのコントラストは非常に写真写りがよく、見ているだけで胸が熱くなる。正直にいうと、熱くなっているのは胸だけでは無いが、明言は避けておく。
少女のプロポーションも文句無い。ボインと突き出した胸、キュッと引き締まったウェスト、むっちりとした太もも。手にとって近くから見たいという衝動に駆られるのは、もはや男の性である。
健吾は生唾を飲み込む。こういったものは友人づてに見せてもらうことがあるが、今まで見てきたもののどんな少女より魅力的であった。自分の好みではない事を差し引いても、これは最高のグラビアだ。今、これを逃せば確実に後悔する。




