オッパイ談義
校舎の二階の空き教室。今は数多のコスプレ衣装と、写真集で埋め尽くされ、完全に女体研究同好会に占拠されている。
健吾は今日も中庭で強制下校時刻まで新入生を待ち伏せるかと思うと、気が滅入ってくる。会室の前で健吾は立ち止まっているだけで、扉を開ける気が起きない。
だが、時間が経てば経つほど、入部を決めてしまう生徒は増える。ゴールデンウィーク前に何とかして一人、贅沢を言えば二人程欲しいところである。気合を入れなおす為に、両手で頬を叩く。そして、気合を入れて会室への扉を開く。
「うぃーす。ご機嫌ようさん」
会室の席で写真集を眺めている誠へと挨拶をする。誠の手にある写真集の表紙はかなり際どい水着を着た少女が、扇情的なポーズを取っている。そんなものを堂々と見るこいつは、頭の回路が常人とは違うような気がしてならない。
「御機嫌よう、健吾」
冗談で言った挨拶に合わせてくれた。案外のりのいい奴だ。
「健吾は巨乳スクール水着をどう思いますか?」
唐突な質問をぶつけられる。以前にもこんな事があった時、回答を拒否していたら、女体研究の一環という事で、無理矢理回答させられた。今回も同じようなことなのだろう。
「別にいいんじゃねーか? 最終的にはその人物に合ってるかどうか、という問題だと思うぜ」
健吾の回答に誠は失望したと言わんばかりの表情で、首を横に振る。
「健吾はオッパイ星人でしたね。君に訊いたのが間違いでした。君はオッパイさえ大きければ、後は何でもいいのですから」
この男は何を言っているのか。この世にオッパイが嫌いな男性はいない。そんな当然な事をオッパイ星人だなんて間違っている。
「じゃあ、貧乳しか認めないのかよ?」
その問いに即答されると思いきや、誠は瞳を閉じて少し考える。
「それなら、質問などしません。この世には、正道と邪道があります。今回の場合、貧乳スクール水着が正道で、巨乳スクール水着が邪道です」
真面目な顔でスクール水着談義をするその姿は、妙に滑稽だった。どうして、こういう話題を真面目にすると、笑いがこみ上げるのか不思議でしょうがない。
「正道は誰もが認める組み合わせですが、邪道の組み合わせも存在する以上、そこに魅力を見出す者がいる筈です。私はその魅力を知りたかったのですが、結局はオッパイ星人の作り出した捏造でしたか……」
今までの会話の流れだと、まるで自分が巨乳スクール水着を推薦したみたいじゃないか。まぁ、オッパイは無いよりはあったほうがいいよな。特に掌に収まるくらいがちょうどいい。
「何だよそれ、まるで巨乳を嫌っているみたいじゃないか」
「そうですね。巨乳は好きではありません。ただ、脂肪が胸に集まっているというだけ
で、あそこまで評価される事が理解できません」
先程とは違い、誠は即答する。何故か巨乳というより、オッパイ自体に恨みでも持っているような言い方である。
誠は貧乳派か。オレ達が分かり合える日は、一生訪れないだろうな。
「まぁ、オッパイ談義も悪くないが、さっさと会員勧誘に行こうぜ」
最近、この手の会話に慣れすぎてしまって、何が口にして恥ずかしい言葉か分からなくなってきた。本格的に変態の道を歩んでいるような気がする。
「今日はその必要はありません。見学希望者が二人いたので、今日は彼らを招いて活動を行いたいと思います」
活動って何をするんだと突っ込みたかったが、それより重要な言葉が耳に入ってきた。見学希望者。少なくともこの何だかよくわからない同好会に興味を持ってくれているという事だ。上手く取り込めば会員二人ゲット。残りは一人。これなら、自由になれそうだ。




