見学希望者
「へぇ、先輩もやるねぇ。それで、その希望者はまだ来てないのか?」
「ええ、普段からあまり時間を守らない人のようでしたから……」
誠の表情が少し曇ったところから、その人物がどういう輩か想像がついた。普段から学校の方針に反逆しているトリーズナーだ。一般世間では不良とか、ヤンキーとか呼ばれたりしている。最近ではDQNという呼び方も増えているようだ。
「まぁ、会員を集めるためだから、我慢も必要だな」
辺りを見回して、友里の姿が無いのもその見学者が影響しているのだろう。友里は男らしい男は苦手そうだしな。
「別にそんな意味で言ったわけではありません」
誠の切り返しにいつものようなキレが無い、流石に不安なのだろうか。相手がこうだと今一張り合いが無い。胃壁にも優しいのでいつもこの調子でいてもらいたいものである。
健吾も席に座って、見学希望者が来るのを待つ。目の前では誠が写真集に目を落として、ずっと黙っている。そういえば、こうして暇になるのも久しぶりだ。大抵、誠の言葉に翻弄されて、胃壁の心配ばかりしていた。何となく、教室で利明が言っていた言葉の意味が分かった。
暫く待つこと、十数分。ようやく、会室の扉が開いた。
「すっげー! マジかよ! ウケルぜ」
「噂は本当だったんだな! おい、あいつエロ本見てるぜ!」
入ってきた見学者は二人、頭の悪そうな会話を繰り広げている。絵に描いたような不良共に、健吾は頭痛を感じ始めた。未だにこんな奴らがいる事が逆に新鮮だった。
「ほら、先輩。見学者にご指導ご鞭撻を」
うろたえる誠を促す。健吾にとっては、ただの笑える連中だが、気弱そうな誠には効果絶大な様子で怯えているようにも見える。何となく罪悪感を覚えるが、自分が逃れる為なのであえて手は出さない。
誠は読んでいた写真集を机に置くと、立ち上がり自己紹介を始める。
「ようこそ、女体研究同好会へ。私は会長の鬼瓦 誠です。今日はよろしくお願いします」
あんな不良相手にも誠は頭を下げて挨拶する。誠の心境は分からないがこれが健吾なら「ゲット アウト ヒア!」の一言で済ますことであろう。
「まことちゃんね。よろしく、まことちゃん。ギャハハハハハハ!」
「なー、あっちでこっちを睨んでる奴がいるんだけど、あいつの紹介は?」
不良の一人が健吾を指差してくる。
母親に人を指差すなと、教えられなかったのだろうか。あまりの不快さに、自然と眉間に皺が寄って来る。
「ひっ!」
指差していた不良は、怯えたような声を出して、その指を引っ込める。こういう時には自分の顔が便利だと思ってしまうが、それは駄目な考えだ。
「アレは、正式な会員では無いですが、協力してもらっています。古代 健吾、君達を同じ一年生ですよ」
誠がこちらに視線を向ける。その目は余計な事をするなと、言っていた。弱みを握られているので、一応微笑んでみる。すると、不良の二人はあからさまに目を逸らした。失礼な連中だ。
「あの本棚の本、読んでもいいっすかぁ?」
「俺達も興味あるんすよぉ」
不良はニタニタといやらしい笑みを浮かべながら、誠に訊ねる。先程から健吾に視線を向けない所を見ると、不良達は健吾をいないものとして扱っているようだ。
「ええ。構いませんよ。ですが、取り扱いには丁寧にお願いします」
誠が言葉を終える前に、二人は写真集を乱暴に引き抜くとその場で読み始める。
「うわっ! エロっ! こんなのが学校にあっていいのかよ! マジエロイ!」
「マジだ! すっげー乳。あ、俺、勃起してきた」
不良の片方はその場で股間を弄り始めた。その様子は不快の一言だった。一刻も早くこの会室から消えて欲しかったが、会員確保のためと思うと発言は控えるべきだ。
誠を横目で見ると、明らかに不快を表情に表していた。それでも、何も言わずに我慢している姿は立派である。
不良達は笑いながら写真集を一通り読むと、その写真集を投げ捨てる。
「飽きた。会長さぁん、この同好会、女子がいるって聞いていたんですけどぉ、いないんすかぁ?」
「そー、そー、女体研究同好会だったら、女体を研究させろよぉ」
投げ捨てた写真集は床に落ち、ページが潰れてしまう。それを見た誠の眉がピクリと動く。誠の言う事など、あの二人はまるで聞いていない。入会したとしても、大変な事になりそうだ。だが、健吾には関係ない事なので黙ってその様子を眺め続ける。
「彼女は私達と同じ、会員です。研究対象では無いので、そういう事は――」
誠が連中を注意していると、タイミングよく教室の扉が開かれる。
「遅れちゃったわ。ごめんなさいね、着替えに時間がかかっちゃったの」




