第7話 スプラッターお芝居
「血を、まき散らせ」
ああ、いつ見ても素敵ですわね……。
今日は久しぶりに、仮面の怪人ブラッディが活躍するスプラッターお芝居を観に来ているところです。
今も、ブラッディがいつもの決め台詞とともに、若い男女に襲い掛かり始めたところですわ。
ブラッディが使う武器は巨大なナタ。これも仮面と同様、ブラッディのトレードマークとも言えるものですわね。
開幕した殺戮の宴に、わたくしの瞳はブラッディに釘付けとなってしまいます。
はあ、はあ……。
ブラッディがナタを振るうたびに。赤い血がしぶき、その仮面が返り血に染まるたびに。
わたくしの中に熱いものがこみ上げてきますわ。
……もちろん、気分が悪くなったとかそういう意味ではありません。
あら、隣の席の人はおそらくその理由で外に駆けていってしまいました……刺激が強すぎたのかもしれませんわね、お大事に。
一方、きっとわたくしの顔は上気し、瞳はキラキラとしているのでしょう。
ああ、はしたない。
ですが、この感情に抑えはききません。
あのブラッディの決め台詞を聞いた時、わたくしの決め台詞も生まれる運命だったのです……。
今でもあの時のことがありありと思い出せます。
ミラに誘われ、初めてこのスプラッターお芝居を観たその日。
ブラッディに感化され、目覚めたわたくしはミラと別れた後、さっそくブラッディが被るものとおそろいの、両目の部分に穴のあいた仮面を買いに行きました。
その仮面を眺めつつ一人で帰路についていたところ、わたくしは誰かの悲鳴を聞いたのです。
その時わたくしはとっさに仮面を被って現場へと駆けつけました。
そこには、逃げ惑う女の子とどこから入り込んだのか、追いかけるゴブリンたちの姿があったのです。
わたくしは即座に割って入り、ゴブリンに気合の一撃!
これをあっさりと撲殺します。
そんなわたくしに恐れをなしたのか、後ずさりはじめるゴブリンたち。
もちろん逃がすようなことはしませんでした。
「聖水を、まき散らせ」
決め台詞を口にしたわたくしは、それを手向けとしてゴブリンたちを殲滅したのです。
すべてが終わったあと、怪人ブラッディのように、全身に、仮面に、その返り血を浴びていたことでしょう。
仮面の女エリスがこの世に生を受けた瞬間でした。
なお、助けた女の子はいつの間にかその場から逃げていました。そういえば、わたくしがゴブリンたちを滅多打ちにしている間、彼女の怯えるような声が後ろから聞こえていたような気がします。まあ、無事だったので良しとしましょう。
それ以来、わたくしは聖女の姿と仮面の女の姿で、二重生活を送るようになったのです。
もちろん基本は聖女イリスとしてのふるまいですよ。
仮面の女エリスとして行動するのは主にギルドの依頼を受ける時ですが、王都にモンスターが侵入するといった緊急事態にも、場合によってはエリスの姿で参戦することがありますわ。
おそらく、その時の姿をリチャードに見られてしまったのでしょうね。
そうそう、仮面だけはいつも持ち歩いております。
わたくしがはじめて仮面の女エリスになった時のように、とっさに必要になることがあるかもしれませんからね。




