第6話 闇落ちしないために
あははははははは! 気持ちいいですわ!
今日は、いつもよりわたくしの心の内が荒ぶっているようでした。
わたくしの振るうメイスがうなりをあげ、モンスターの頭を叩きつぶし、そのたびに真っ赤なものや、その他のなんやらかんやらが周囲いっぱいに飛び散ります。
もちろんわたくしの全身は、仮面を含めてすでに赤く染まっておりますわ。
この前の戦いのストレスが思ったより溜まっていたのでしょう……うう、恥ずかしいことですわね。
噂では、闇落ちというものがあるそうです。
主に、聖女などを務めている者が、負の感情に支配されて心を病み、堕落してしまうようなことを指しているとか。
それならばきっと、この仮面の女エリスとしての活動は、わたくしが闇落ちしないために必要なことなのでしょう。
そう考えると、やはりわたくしがやっていることは正しいのだと思えてきます。
赤い聖水が、この大地だけでなく、わたくし自身も清めてくれるのです。
この地にはびこるモンスターはホブゴブリンを主力としたゴブリンたち。
あたりにはゴブリンたちが死屍累々と横たわっていました。いつの間にやら、そばにいた魔物どもを殲滅してしまったようです。
次の獲物を求めなければ。
「くっ……」
そんな時、仲間のあえぐような声が聞こえてきました。
そちらに首を巡らすと、ちょうど一人の冒険者がホブゴブリンと戦っているところでした。
ホブゴブリンのくりだした棍棒が体をかすめて傷を負ってしまったみたいです。返す刀で眼前の敵は倒したものの、彼の足に残された傷が痛々しいですわ。
「大丈夫ですか? ヒー……」
おおっと! いけません。あやうく聖魔法を使うところでした。
わたくしは仮面の女エリスの時にはただの撲殺戦士なのですから、魔法を使うわけにはいかないのです。
聖女の時の癖が染みついているからか、とっさに魔法を使って彼の傷を癒してしまうところでした。
ふう、危ない危ない。
わたくしは彼のそばに駆け寄り、その顔と傷とを覗き込みました。
幸い、彼の顔色は悪くありません。傷も、大怪我というほどではないようです。
「ポーションはお持ちですか? 無ければこれを使ってください」
わたくしは懐からポーションを一つ取り出し、彼に差し出しました。もちろん、わたくしが自作したポーションです。効果は覿面、聖女印のポーションです。……もちろん、聖女印は冗談ですが。
全身血まみれの仮面を被った女が近づいてきたからか、彼はのけぞりました。
そういえば、この人は今日初めてわたくしとパーティーを組んだ人でしたわね。
まだわたくしの姿に慣れていないのでしょう。ぜひとも早く慣れていただかなくては。
「あ、ありがとうエリスさん。助かるよ。でもこれくらいならかすり傷だし、俺もポーションは持ってるからね。自分にとっておいてくれ」
「そうですか。分かりました。ではもう少し、お互いに頑張りましょう」
「ああ!」
二人で頷き合い、戦場を見回します。
まだ離れた場所で仲間たちが戦っているのを見ると、どちらからともなく駆け出し、戦線に加わりました。
まもなく、モンスターをすべて駆逐することができました。
全員集まって健闘を讃え合います。
今日もまた、仮面の女エリスとしての活動を無事に終えることができました。




