第22話 アルベールの提案
「みんな、ちょっと話がある」
ある日、東の冒険者ギルドの中で。
アルベールが改まった声でわたくしたちに声をかけました。
「どうしたのだ? アルベール」
クーデリカが怪訝な顔をして彼に尋ねます。
「いや、実はな。西の戦いに参加したミラの話を聞いて思いついたことがあってな。それをちょっと聞いて欲しいんだ」
アルベールの頼みに従い、ミラも含めて全員が円卓に座り、リーダーである彼の顔を見つめます。
全員の意識が自分に向いたことを確認すると、アルベールは重々しい様子で口を開きました。
「西のギルドに仮面の女エリスという凄腕の冒険者がいるのだろう? その子を俺たちのパーティーに引き入れたいと思うんだ」
んほおおおおおおおおおおおおお!?
……あやうく、変な声を出すところでした。
何を言っているのでしょうかアルベールは!?
「ええ? なぜです?」
リーダーの突然の提案にさっそくカクタスが疑問を呈します。アルベールはカクタスだけでなく、全員に聞かせるようにぐるりと円卓上を見渡しました。
「俺たちは五人パーティーだが、常々六人欲しいと思っていたんだ」
「まあ確かに六人で活動している冒険者パーティーは多いが……」
アルベールの答えを聞いたクーデリカがあごに手をあてて思案中のよう。言われてみれば、五人で行動しているのはこの辺だとわたくしたちくらいですね。
「うちの場合、斥候のミラに前衛を兼任してもらってるだろう? ミラはどちらかというと中距離、遠距離の方が得意だ。前衛が一人入ればミラを後ろに配置して遊撃手となってもらえる」
「あー、たしかに。あたしもそっちのほうが役に立てそうかも」
先日ミラがワーム相手に高威力のクロスボウを撃ちまくっていたのは記憶に新しいです。普段のナイフで戦う前衛では、あの破壊力を発揮するのは確かに難しいでしょうけど。
「それに以前、ライトニングハウンドにイリスが急襲されたことがあるだろう? 六人なら、そういう危険なことが起こることも滅多になくなると思うんだ」
アルベールの言葉に、全員がわたくしの方に振り向きました。あの時のことを思い出したのか、その瞳にはどことなく申し訳なさが感じられます。
あああああああなんという無用な気遣いを!!
「そのエリスという女はかなりの実力者だと聞く。俺たちの仲間に加わっても、お互いに過不足なく補えると思うんだが、どうだ?」
「確かに、アルベールさんの言うことももっともですね……検討する価値はあるかも……」
「ふうむ……ワタシも、そのエリスという娘にちょっと興味が出てきたな……」
だんだん雲行きが怪しくなってきました。
な、何か、良い反対意見を出さなければ、まずいことになってしまいます。
その時、先日の西での戦いで見聞きした出来事がわたくしの脳裏によぎりました。
「あ、あの……噂で聞いたのですが、近ごろは西の方のモンスターが強力になってきているそうです」
「あ。確かにそれ、この前戦いに参加した時に現地のリーダーの人も言ってたよ。実際ワームの群れも出て来たし」
「ですです! 仮面の女エリスには、西を守ってもらうべきかと! そう思いますわ!」
ミラの援護射撃に内心喝采を送りながら、熱弁を奮うわたくし。
その甲斐あってか、さっきまでの雰囲気ががらりと変化したのを感じます。
全員、お互いをうかがうように視線を投げ合っていました。
幸い、誰も現在の五人に不足を感じているわけではないので、アルベールの提案に強く賛成する者はいないようです。
結果を受けて、アルベールが残念そうにつぶやきました。
「そうか……イリスとエリスが揃ったら完璧だと思ったんだが……」
「……まさか名前の響きが良いからそうしようと思ったわけじゃないですよね?」
カクタスのツッコミに、アルベールはすばやく目を逸らし。
「……そんなことあるわけないだろう……はっはっは」
……本当に考えていたのかもしれません。そんな思いつきでずいぶんと冷や汗をかかされてしまいました。
仲間たちの冷たい視線に気づいたのか、アルベールは途端に真面目な顔になりました。
「しかし、西のモンスターが強くなっているのか。いざという時に連携がとれるよう、連絡を密にしておいたほうがいいかもしれんな」
ごまかすための思いつきっぽい発言ですが、内容そのものは悪くありません。人望のあるアルベールなら、そういった根回しなんかも問題なくこなしてくれるでしょう。
その言葉を最後に今日は解散となり、イリスとエリスが出会ってしまうという不可能な事態に直面せずに済んだのでした……。




