第21話 予想もしていなかったこと
今日はエリスとして西の冒険者ギルドでの依頼に参加しております。
今は戦いが終わって一休み中。
先ほどの戦闘の結果、仮面を含めて全身が返り血にまみれていました。
今日は大勢の冒険者が参加している大規模な討伐依頼があり、今ももちろんその最中なのですが……。
本来参加するはずだった方が突如参加できなくなり、代理の人をよこしたそうで。
これ以上進む前に、その代理の方を待とうという話になったのです。
「みんな、代理の人が到着したぞ」
わたくしはリーダーの呼びかけに、後ろを振り向きました。
「やっほー、よろしくね!」
……!?
ミ、ミ、ミミミミミミミラ!?
な、なんでこんなところに!?
仮面の下で驚いているわたくし。
ミラがこの姿を見て顔をぱっと輝かせます。
「あなたが仮面の女エリス? 噂は聞いてるよ、はじめまして!」
「は、はじめまして……」
わたくしのぎこちない挨拶に、ミラは怪訝な顔をして首をひねります。
「……なんかどこかで会ったことない?」
「き、気のせいですわ!!」
慌てて全力否定。ミラもその言葉にすぐ疑念の表情を打ち消し、笑顔を浮かべます。
「そうだよね! 一瞬、友達の顔が思い浮かんだけど、あの人がこんな血なまぐさいことしてるわけないし!」
ぐさぐさ。
ミラの無邪気な言葉が、刃のようにわたくしの心に突き刺さります。
ああ、申し訳ありません……あなたの友人の本性は、こんな血にまみれた女なのです……。
落ち込んでいるわたくしに気づいた様子もなく、リーダーは全員にミラを紹介しはじめました。
「彼女はミラと言ってな。主に東の冒険者ギルドで活躍している凄腕の斥候だ」
「みんな、よろしくね! 今日は後方からサポートする予定だけど、前線での戦いもこなせるから、必要なら遠慮なく言ってね!」
彼女の腕前にもちろん不安はないのですが……他のことで不安いっぱいです……。
「では、出発するぞ。ミラさん、敵のことは聞いてるな?」
「うん。リザードマンやら、オーガやら、ワームやら、やばいのを含めてダンジョンからたくさん出てきたんでしょ?」
ワームは、巨大な芋虫型のモンスターです。
人ひとりを軽く丸のみできるくらいの大きなサイズでかなりの強敵ですわ。さすがにわたくしでも一対一で戦うのはつらい相手。
ミラならワームとの戦闘経験もありますし、一人でオーガやリザードマンを倒すことも苦にしません。ありがたい援軍なのは確かです。
ですが、わたくしとしてはなるべくミラには近づかずにこの戦いを済ませたいものですわね……。
◇◆◇◆◇
オーガやリザードマンとの戦いは予想通り、特に問題なく一方的な展開となりました。
しかし、問題はモンスターたちの後方から現れた多数のワーム。
大きな芋虫の群れが押し寄せてくると、残っているオーガやリザードマンの士気もあがったようです。なかにはその巨体に巻き込まれて轢かれるモンスターもいましたが。
これからが戦いの本番。
わたくしたちは素早く陣形を整えました。
ワームと聞いて持ってきたのか、ミラは大型のクロスボウから矢を何本も放ちました。ミラが使っているそれは連射仕様のクロスボウです。
胴体にいくつも突き刺さる太い矢に、ワームは体をよじりますがまだ致命傷にはなりません。
そこに多数の攻撃魔法がさく裂。さすがにその一体は絶命したのか動かなくなりました。
可能なら、近接せずにしとめたい相手ですが、いかんせん数が多い。
まだ無傷のワーム数体がこちらににじり寄ってきます。
わたくしを含む前衛の戦士が前に出てワームたちを迎え撃ちました。
丸のみされるのだけは気をつけねば。
巨体のワームが土煙をあげる中、冒険者の一団は間合いをとりつつ剣をひらめかせ。時にはオーガやリザードマンも討ち取り。
やがて、ワームたちも最後の一体がようやく地に伏せ、何とか勝利。その頃にはオーガやリザードマンもすべて片付いています。
耐久力に優れる大型モンスターとの戦いだけあって、ずいぶんと長くかかってしまいました。
さすがにわたくしを含め全員が疲労困憊しているようです。
ふう、と息を吐くわたくし。
同じように一息つく冒険者たちの中、リーダーである男が目の前の光景を見ながらつぶやきました。
「最近、何だか新しいダンジョンがどんどん生まれて、強いモンスターの数も増えてるな。このままだと討伐が追いつかなくなるかもしれん」
「西はそうなの? 東はそこまででもないんだけど……」
いつの間にかそばにいたミラが受け答えをしています。
リーダーの言葉を耳にしたわたくしは、ここ最近の出来事を思い浮かべました。
東と西、どちらでも活動するわたくしから見ると、確かに西の方がモンスターの数も質もどんどん厄介になってきている気がしますわね。
ダンジョンを生み出す種子は、誰に気づかれるともなく大地に埋まっていることが多いです。
ひとつだけならそこまで問題にもなりませんが、多くの種子が活動しだす時期が被るとさすがに困ったことになります。
そういう時、大量発生したモンスターが王都にまで押し寄せてくることが多いのです。
そうならないよう個別に撃破していきたいものですわね。
ともかく依頼が無事に終了し、西のギルドに戻って来たあと……。
「そういえばエリスさん……あれ? いない……」
こそっと退出し、ミラとこれ以上顔を合わせないようにしたのでした……。




