第2話 ポーション作り
今日は、王都の東にある冒険者ギルドにやってきました。聖女としての自分が必要とされてますわね。
リチャードの婚約破棄という事件はあったものの、日常は変わらず続いておりますし、わたくしの責務がなくなるわけではありません。
ちなみに、仮面の女エリスとして活動するときは西の冒険者ギルドを拠点にしています。
仮面を被ったうえで、装備も変えておりますが、知り合いに出会ったら気づかれる可能性もありますし。
本当は口調も変えたほうがいいのでしょうけど、いまいちしっくりこなくてエリスの時もこの喋り方ですわ。
東の冒険者ギルドに顔を出したわたくしを、なんだか気づかわしげな雰囲気が出迎えました。
怪訝な顔をしたわたくしのそばに、友人のミラが駆け寄ってきます。ちなみに、ミラはわたくしをスプラッターお芝居に誘ってくれた娘ですわ。
「イリスさん、話は聞いたよ……その、なんて言えばいいか……」
どうやらわたくしに関するゴシップがここにまで伝わっているようですわね……。
悲しそうなミラを前に、努めて柔らかい笑みを浮かべました。
「どうかお気になさらず……わたくしが至らないせいですから……」
本当にわたくしのせいなのがつらいですわね……これでは誰に文句をつけるわけにもいきません。
ああ……今すぐ西に行って仮面をつけ、八つ当たりでモンスターどもを叩き潰したい衝動が沸き上がります。
しかし、そうもいかないのが現実というもの。
今のわたくしはローブをまとい、腰にはメイスではなく王笏を提げています。
ローブも王笏も、わたくしの魔力を上げる効果がありますが、さすがにこの格好で前線に立つことは出来ません。
東のギルドでは、聖女としての役割を期待されているのですから。
しばらくわたくしとおしゃべりしていたミラは、やがて他の冒険者に呼ばれました。
どうやら、すでに依頼を受けていたようです。
呼んだ相手に返事をしたミラがわたくしに向き直り、小さくガッツポーズを見せました。
「それじゃ行ってくるね、イリスさん!」
「ええ、お気をつけて。ミラ」
ミラを見送り、わたくしは一人でギルドの受付の前へと足を向けます。
「やあ、イリス。今日はポーション作りの依頼が入っているんだが、お願いできるか?」
そこにいた東の冒険者ギルドのマスターに挨拶すると、さっそくこの答えが返ってきました。
ミラは先ほど出て行ってしまいましたし、いつもわたくしが固定メンバーとして優先的に組んでいる他の方も、今日は来ていないようです。ポーション作りに専念するとしましょう。
「ええ、もちろん構いませんわ」
依頼を快諾すると、わたくしはギルドの一画に腰を下ろしました。
ポーションを作るのは聖魔法によるもの。
癒しの魔法で直接傷を治すことはもちろん可能ですが、その力でポーションを作ることも可能なのですわ。聖別された水があらかじめ必要なのですけどね。
もちろん他にもポーションを作れる方はいるのですが、わたくしの作るポーションが一番効果があると言われています。
そのこともわたくしを聖女という地位に押し上げた一因なのですが……。
さすがに手を抜くわけにもいきませんからね。出来得る限り、最高級のポーションを生み出してみせますわ。
目の前には聖別された水入りのビン――ポーションの前身となるものがずらりと並んでいます。
癒しの魔法は人を対象に効果をあげますが、ポーションを作る時は練り上げた魔力を、聖別された水に流しこむイメージですわね。
これが、はっきり言ってかなり集中力を要しますし、疲れるのです。しかもずっと座り作業ですし。
ああ、ストレスが……。
早く、仮面の女エリスとなってメイスを振るいたいものですわね……。
そんなことを考えながらも、ひとつひとつポーションを生み出していったのでした。
……依頼にあったポーションをすべて作り終えたころには、すっかり日も暮れておりました。わたくしはひとりで帰路につきます。
ポーション作成作業をずっと行っていたせいで、わたくしの気力はもはや残りわずか……。
帰宅してすぐパジャマに着替えると、天蓋付きのベッドにバタンと横になりました。
間もなく睡魔が襲ってきます。
ああ、明日は待ちに待ったお休みの日……仮面を被って、このストレスを発散……しましょう……。




