第16話 急襲!!
今日は久しぶりに聖女として東の冒険者ギルドで討伐依頼を受け、王都の外に出てきました。もちろんいつもの仲間たちと一緒に。
ブレイズハウンドとブリザードハウンドに加え、ライトニングハウンドまで混ざる猟犬の混成部隊が相手です。
ライトニングハウンドは口から電撃を放つモンスター。
他の二種が吐き出すブレスよりも着弾が早く、冒険者にとって厄介な相手です。
しかし、それはわたくしの結界がなければ、のこと。
ライトニングハウンドの電撃ですら、わたくしにかかれば少しビリビリする程度に弱められるのですわ。
もはや残る敵もわずか。今回も完全なる勝利。
……などという油断が、わたくしだけでなく仲間の中にもあったのかもしれません。
最後に残った一体のライトニングハウンドが、その名の通り雷光のような素早い動きで前衛の間をジグザグに駆け抜け。
わたくしに牙を剥いて飛び掛かってきました!
「イリス!」
悲鳴のような仲間の叫びが聞こえるなか、猟犬の口から涎がしたたるのが見えるほど、スローモーションになった世界で。
「きゃああああああああ!!」
わたくしは悲鳴をあげながら、手に持つ王笏でしたたかに猟犬をぶちのめしました。
ライトニングハウンドは、聖女と呼ばれる女に殴られたことからは想像も出来ないほどの距離を吹き飛びます。
「……」
慌てて駆け寄ろうとしていた仲間たちが目を白黒させて、吹っ飛んだライトニングハウンドとわたくしとの間で何度も視線を往復させています。
……王笏が折れてしまいましたが、そんなことがどうでも良くなるほどの沈黙があたりを支配しました。
「び、びっくりしましたわ……ぐ、偶然急所に入ったみたいですわね」
慌てて取り繕うように言葉を吐き出すわたくし。
怯えるように折れた王笏を両手で持ち、身体をぶるると震わせる演技も忘れません。
「そ、そうなんだ……」
「急所に入ったからって、あんなに吹っ飛ぶか……?」
わたくしの言葉を聞いた仲間たちは納得いかないのか、しきりに首をひねっています。こ、このままではいけません!
「くうっ……」
わたくしは悲痛な声を出しつつ、王笏を持つ右腕を左手で押さえます。
「ど、どうした?」
たちまち仲間たちが心配そうな視線を向けてきました。予想通りの反応です。
「先ほどの衝撃で、腕をつよく痛めたようです……痛たたた……」
「そ、それはいけない。早く癒しの魔法を! 俺たちは後回しで構わないから!」
「……それでは、お言葉に甘えて」
慌てるアルベールの声に内心ほくそ笑みながら、自分に癒しの魔法を用います。
もちろん実際は痛くもかゆくもないのですが、ちゃんと魔法はごまかさずにかけておくことにしましょう。
ふう……どうやら、みんなの意識を逸らすことが出来たようです。
そのまま流れるように、仲間たちに残るわずかな傷も全てわたくしの魔法で癒し終わりました。
敵も先ほどのわたくしの一撃で最後の猟犬が討たれましたし、完全なる勝利と言えるでしょう。
……折れてしまった王笏を除いては。
ミラが、悲しそうにわたくしの手にあるそれを見つめてきます。
「王笏、折れちゃったね……」
「そうですわね……新しいものを買いませんと」
「じゃあ、明日にでも、あたしと一緒にアイテムショップに行く? ちょうど武器を新調する予定だったんだ」
「あら、良いですね」
「おお、それならワタシもついて行くぞ! 何か掘り出し物があるかもしれん!」
盛り上がる三人の女たち。
残る二人はどうするのだろうとアルベールを見やると、その顔には半笑いが浮かんでいます。
「俺は遠慮しておく。女性の買い物は長いからな」
これまでにそういう経験が多かったのでしょうか。疲れが滲んだような声音でした。
「僕も明日はちょっと用事がありまして……」
カクタスもやんわりと同行しないことを宣言。
女同士三人でのお買い物ということになったようです。
明日が楽しみですわ。




