第15話 変化したもの
わたくしは、東の冒険者ギルドでポーション作りを行っているところです。
ただ、いつものように集中が出来ず、ポーション作りもなかなか捗りません。
理由はもちろん、先日の遺跡での出来事が頭を占めているからでしょう。
あれ以来、リチャードとは会っていません。
仮面の女エリスとしてはもちろん、幼馴染のイリスとしても。
リチャードはちょくちょく予定もなしにわたくしを訪ねて来て、お茶を飲んでいく傍若無人さを発揮していましたが、それがなくなって久しいです。
物憂げな雰囲気を振りまいているであろうわたくしのところに、クーデリカがやってきました。
「聞いたか? イリス」
「……何をですか?」
唐突すぎるその言葉に、わたくしは力ない声で問い返しました。
「オマエの婚約者だった男……リチャードといったか? 何やらどこかの遺跡で冒険者たちとトラブルがあったらしいが」
……ああ、その話はよく知っております。当事者として遺跡にいたのですから。
さすがにそう口には出せず、クーデリカの続く言葉を黙って聞いておりました。
「発端は北の冒険者ギルドで質の悪い冒険者と組んだことが原因だったようだが……金に目が眩んだのだろうな。素人を遺跡に連れて行くとは」
本当に危ないところでした。わたくしが駆けつけなかったら、どうなっていたことか……。
あの時リチャードを見捨てた冒険者たちの顔はさすがに覚える余裕もありませんでしたが……まあ、リチャードの前に姿を見せることはもうないでしょう。
リチャードにとってあの遺跡で起きたことはショックだったかもしれませんが、遺跡も奏呪も彼の手に余ること。
これに懲りて、手を引いてくれば良いのですが。
そんなことを考えている間にも、クーデリカのしゃべりは続いています。
「その後にな。そのリチャードが、今度は南の冒険者ギルドに頻繁に出入りするようになったそうだ」
「……南の冒険者ギルドですか?」
予想もしなかった言葉をクーデリカから聞かされ、さすがにわたくしも閉ざしていた口を開きました。
南の冒険者ギルドは、どちらかというと初心者向きと呼ばれています。少なくとも、遺跡に関する依頼が飛び込む場所ではありません。
一体何をしに行っているのでしょう?
わたくしの疑問は、すぐにクーデリカが解いてくれました。
「そこにいる駆け出し冒険者の一団に頭を下げてな。……冒険者になりたい。荷物持ちでもいいから仲間に入れてくれと殊勝に頼んでいたそうだ」
「……え?」
「今ではその冒険者たちと組み、言葉通り荷物持ちから始めて冒険のイロハを学んでいるそうだ。本気で冒険者になって、改めて遺跡に挑戦したいのかもしれん。思ったよりは、見どころがある男のようだな」
「そうだったのですか……」
まさか、あのリチャードが。
自分の口元に笑みが浮かんでいるのが分かります。さっきまでの心の重荷が、どこかに飛んで行ってしまったかのよう。
「教えてくださってありがとうございます、クーデリカ」
福音をもたらしてくれたクーデリカに、深々と頭を下げました。
「なに、お安い御用だ。さすがに元婚約者のことは気になるだろうと思ってな」
クーデリカは朗らかに笑うと、用件はそれだけだったのか去っていきました。
その背中をしばし見送って。
わたくしは、ふたたびポーション作りにとりかかりました。
今度は、ちゃんと集中できそうです。




