第14話 グリフォンとの戦い
猛るグリフォンがわたくしへ向かって前腕のかぎ爪を振るいます。
いつもなら素早く回避するところですが、背後にリチャードをかばっている以上、そうもいきません。
左腕の丸盾を、さらに右手のメイスもろとも支える構えでその一撃を受けます。
そしてわたくしを襲う強い衝撃!
「くぅっ……」
わたくしの仮面の奥から、くぐもった声が漏れました。背後でリチャードの切迫した気配が伝わってきます。
なんの、これしき……!
よろめきはしたものの、なんとか体勢を崩さずに済みました。
そのグリフォンの胴体に、側面から放たれた魔法の矢が突き刺さります。仲間の援護でしょう。
グリフォンのくちばしから悲鳴があがりました。
しかし、それくらいで倒れることはありません。さすがは幻獣。
わたくしも追撃を放ちますが、先ほど防戦していたこともあり、腰の引けた一撃になってしまいました。命中こそしたものの、かすり傷に留まります。
ですがこの間に、仲間の前衛である戦士たちもようやく駆けつけ、戦線に加わってくれました。
一人が槍を突き刺し、その胴体に傷を負わせます。
しかし、向きを変えて振るわれたグリフォンの爪が彼にヒット。肉が裂け、赤い血が飛び散りました。
慌てて、仲間の聖魔法の使い手が癒しの魔法を行使し、彼の傷はある程度塞がります。
準備もなくこんな戦いに巻き込んでしまった仲間に申し訳なさを覚えつつ、わたくしもメイスを思い切り叩きつけました。
今度こそグリフォンの胴体に命中。
肉がひしゃげグリフォンが絶叫をあげながらのけぞります。並のモンスターなら致命傷となっているはずですが、まだ倒れる兆しも見えません。
それどころか怒り狂ったグリフォンが激しく跳ねながら爪を横に薙ぎ払い、わたくしを含めた前衛がその身に傷を受けました。
即座に攻撃魔法が飛んでグリフォンをひるませ、ほぼ同時に飛んできた回復魔法により仲間の傷が癒されます。
こちらが一撃当てれば、向こうも誰かに一撃を当ててくるような、緊迫した戦いが長く続いたものの、最終的にはわたくしたちの連携攻撃が勝ったか、ようやくグリフォンは倒れ、動かなくなったのでした。
途中から回復も追いつかず、ほぼ全員が傷だらけとなったわたくしたち。
それぞれがポーションを懐から取り出そうとしたり、疲れて床に座ろうとしたりする中。
わたくしは、リチャードの方を振り向きました。
そこにはまだ、へたりこんだままの彼の姿があります。
わたくしはゆっくりと、彼の眼前まで歩を進めました。
わたくしを見上げるリチャード。
その顔は、涙やら、鼻水やらで汚れてくしゃくしゃとなっていました。
貴族生まれの美しい容姿は、もはや見る影もありません。
見下ろすわたくしに向かって、ようやくリチャードが口を開きました。
「あ、ああ……エ、エリスさん……た、助けてくれてありがとう……僕は君に」
言葉の途中で、わたくしは彼を遮るようにぴしゃりと言い放ちます。
「あなたは、この場所にいる資格がありませんわ」
「……!!」
リチャードの顔が、絶望するかのように激しく歪みました。
おそらく人生で初めて受けた、完全な拒絶。
呆然としたようにわたくしの顔を見つめています。仮面に隠された、エリスの顔を。
ちくりと、心が痛みました。
でも、これはリチャードのため。
心を鬼にして、手を差し伸べるようなことすらしません。
一歩間違えれば、リチャードは命を落としていたのですから。
わたくしはそれだけを言うと、彼に背を向け、仲間たちのもとに向かいました。
勝手な行動を取ったこと、謝罪しなければ。
わたくしは彼らに謝り、手持ちのポーションを差し出しました。
彼らにかけた迷惑に比べれば、これくらい安いものです。
そうこうしているうちに、この場を立ち去る一人の足音が、わたくしの背後から聞こえました。
でもわたくしは、結局最後までその方向を振り向くことはなかったのです。
その後、気を取り直し、遺跡を可能な限り探索しました。
あまり大きな遺跡ではありませんでしたが、グリフォンが守っていただけのことはあり、貴重な品々をいくつか手に入れることが出来ました。
一応、危険な目にあっただけの価値はあったと言えるでしょう。
ただ、リチャードが求めていた奏呪というものは、どこにも存在しませんでした……。




