第12話 ジャガイモ退治
ウィル・オー・ウィプスにとりつかれたジャガイモを退治してほしい。
そんな珍しい依頼を前にして、冒険者たちが集まって喧々諤々していたところに。
冒険者ギルドの扉をバーンと開け、ずかずかと入って来た一人の女……。
もちろん、わたくし仮面の女エリスです。
「その依頼、わたくしが受けますわ!」
わたくしが依頼ボードに向かって歩くと共に、人垣が割れました。
空いたスペースを通って依頼ボードの前でくるりと反転し、該当の依頼票を斜め後ろに伸ばした手で示して大声で宣言します。
「参加者を募ります! 多ければ多いほど助かりますわ!」
わたくしの言葉に、冒険者たちがざわざわします。
依頼料がちょっと安いしな……。
ジャガイモか……たくさんいるだろうし面倒くさそうだ……。
しかし、その反応はポジティブなものではありません。
ええい、ならば!
「わたくしが報酬を上乗せしましょう!」
懐から金貨が入った袋を取り出し、皆の前でかざしました。
ずしり、と重そうなその袋に、全員の瞳が釘付けになります。
仮面の女エリスとして活動し、貯めたお金。こんな時に使わずして、いつ使うというのか!?
それを見て、冒険者たちはがぜんやる気になったようでした。
「報酬さえちゃんともらえりゃ、不満はないぜ!」
「俺も参加しよう。ウィル・オー・ウィプスがジャガイモにとりつくなんて、初めてだからな。どんな感じなのか興味が湧いてきた!」
たちまち、さっきまでしぶっていた彼らが我も我もと手を挙げます。お金の魔力は凄いですね。
「ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げるわたくし。
こうして十を上回るメンバーが揃い、わたくしたちは急ぎそのジャガイモ畑へと向かったのでした。
◇◆◇◆◇
辿り着いたジャガイモ畑では、いくつものジャガイモが空を浮遊していました。ジャック・オー・ランタンのような目と口を持って、です!
さすがにこの目で見るまでは半信半疑だったのですが、もはや疑いようはありません。
ウィル・オー・ウィプスがジャガイモにとりつき、ジャック・オー・ランタンのようなモンスターになるというのは本当のことだったのです!
「マジかよ……」
となりで仲間の一人も呆然としていました。
もちろんわたくしも未だショックの渦中にいましたが、ぼうっと見ているわけにはいきません。
早く退治し、悪しき霊を払わなければ。
わたくしはメイスを構え、モンスターたちの群れの真ん前に歩を進めました。
空飛ぶジャガイモのモンスターたちが一斉にわたくしの方を見つめます。
無数の顔が見つめる中……わたくしは、メイスを天にかざして厳かにこう告げます。
「聖水を、まき散……らす必要はありません。ただ、ポテトチップスの贄となってください」
それが戦闘の合図でもありました。
わたくしは狂戦士のようにジャガイモの群れへと飛び掛かります。
遅まきながら、仲間の冒険者たちも突撃してくれました。
ここに、冒険者たちとジャガイモたちとの乱闘が始まったのです!
予想していた通り、ジャガイモの一体一体は恐ろしい敵ではありませんでした。
敵の噛みつき攻撃はそこまで痛くなく、こちらの攻撃は一撃あたれば粉砕、もしくは真っ二つになります。
ただ、数が多い。
畑一面でとれたジャガイモが全てモンスターと化していたのだから、当然です。
それでも泥臭い戦いを繰り広げた結果。
しばらくして、なんとか全滅させることが出来たのでした……。
仲間の一人が汗を拭きながら、散らばっているジャガイモの破片を見下ろして呟きました。
「ふう、ようやく終わったな。もったいないけど念のため処分するか?」
この発言には比較的温厚なわたくしもぶちぎれオリハルコンです。
「ジャガイモの声が聞こえませんか!? 食べてほしいと言っているのです!!」
「お、おう……」
「そ、そうだな……」
わたくしの剣幕に皆さん若干引き気味でした。
負けずに言葉を続けます。
「ジャック・オー・ランタンだって倒したあとは食べることが出来るのですから、このジャガイモだって食べることが出来るはずですわ!」
「……なるほど」
「……一理ある」
ようやく納得してくれたようですね。
無事に説得できた仲間たちと協力し、ジャガイモたちの中でも比較的原型を留めているものを必死で集めることしばし。
箱に詰め、台車に載せて、まずは冒険者ギルドに運びこみます。
そして、そこから改めておじさまのお店へ輸送をする手筈を整え、無事に送りだしました。
ふう、これであとは隠れ家に向かって変装を解いてから、いつものイリスとして訪れるだけですわね……。
今回一緒に戦った仲間たちに改めて感謝の言葉を述べ、ポケットマネーから上乗せした依頼料も払い、わたくしは西の冒険者ギルドを出ました。
隠れ家で着替えを済ませ、お菓子屋さんへと向かいます。
「おお、イリスちゃん!」
店主のおじさまが喜色満面の笑みでわたくしを迎えてくれました。
「さっき西の冒険者ギルドからたくさんのジャガイモが届いたよ! 解決してくれてありがとう!」
その言葉に、わたくしも大輪の花のような笑顔になります。
「お安い御用ですわ。それで、ポテトチップスには使えそうですか?」
「調べてみたけど、品質には問題ない……いや、それどころか、普段のポテトチップスより美味しいものが出来上がるかもしれないな」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。これも、ウィル・オー・ウィプスがとりついたせいなのかね。世の中、おかしなこともあるもんだ」
「完成するのが待ち遠しいですわ!」
おじさまとわたくしは未知のポテトチップスを頭に思い浮かべ、お互い笑いあったのでした。
完成後、大量にポテトチップスを購入し、家へ持ち帰りました。
もちろんさっそく袋をあけ、シュワシュワする飲み物と一緒に食べることにします。
一枚を口の中に放り込み、小気味の良い音をさせてかじると、わたくしは心の内で歓喜の声をあげました。
店主のおじさまが予想していた通り、本当にいつものポテトチップスより美味しいものが出来上がっていたのです!
これもウィル・オー・ウィプスの魔力なのでしょうか。
またジャガイモにとりついてくれないかな、などと不埒な考えがちらりと芽生えたほど。
ふふふ、いけませんね。そんなことを考えては。
現金な自分に苦笑しながら、袋の中のポテトチップスをむさぼり始めたのでした。




