第11話 ドハマリしているもの
最近、はまっているものがあります。
宝石だとか、化粧品だとか、ゴシップだとか、いわゆる年頃の娘がはまるようなものではありません。
では何にはまっているのかと言いますと……。
薄く切ったじゃがいもを揚げた、ポテトチップスというお菓子にドハマリしてしまいましてね……。
かすかについた塩味が、またたまらないのです。
自室にこもっている時は家族やメイドの目もありませんから、はしたないと思いつつ、寝っ転がって本を読みながらポテチを食べておりますわ。あまつさえ指をなめてる姿なんて、わたくし以外他の誰にも見せるわけにはまいりません。
ポテトチップスを食べることも、わたくしのストレス解消になっております。
これに最近売り出し中の、シュワシュワする飲み物を合わせると最高なのですわ!
たちまち一袋を食べ終えたわたくしは、ポテトチップスの隠し場所である戸棚を開けました。
そして自分の失態に気づきます。
ああ、いけませんわね。いつの間にかストックの数がずいぶんと減ってしまっていますわ……買いだめしておきませんと。
わたくしは外出の準備を整えると、なじみのお菓子屋さんに向かったのでした。
◇◆◇◆◇
「ごきげんよう」
「おお、イリスちゃんか、いらっしゃい」
わたくしが子供のころから通っているお店ですから、店主のおじさまとも気安い仲です。
このお店はお菓子の製造と販売をこの店舗内で行っていますわ。
店内で作業をしていたおじさまのそばへまっすぐに向かいます。
「おじさま、ポテトチップスをまとめて買いたいのですが……」
「おや、また冒険者の友達と宴会でもするのかい?」
「……ええ、その通りですわ」
わたくしにも体面というものがありますので、対外的にはそういうことになっています。
「いつもいっぱい買ってくれて助かるよ! まいどあり! ……と言いたいところなんだけどねえ……」
「……? どうかしたのですか? ま、まさか本日のぶんが全て売り切れてしまいました?」
わたくしは慌ててポテトチップスが並んでいるはずの棚に顔を向けます。
なんと、わたくしの恐れを現実とするかのように、そこにはいつものポテトチップスがひとつも載っておりませんでした。
「売り切れどころか……しばらくポテトチップスそのものを作れなさそうなんだよ」
「……は? な、なぜですか!?」
商品がなかったことにショックを受けていたわたくしに、さらに追い打ちをかけるようなことが耳に飛び込んできました。
わたくしは弾かれたように首を動かし、店主のおじさまに噛みつかんばかりの勢いで尋ねます。
おじさまは困ったようにわたくしを見つめていました。
「いや、契約してるジャガイモ農家のところでトラブルが発生しちゃって」
「ま、まさか盗難とかですか? それは許せません!」
「盗難とは違うんだけど……ある意味もっと質が悪いというか……」
「お、教えてください。何かの力になれるかもしれませんし」
わたくしの懇願に、おじさまはようやく詳しい事情を話す気になったようでした。
「ウィル・オー・ウィプスは知ってるよね?」
お菓子屋の店主から飛び出てくるとは思わなかった名前に面食らいながらも、わたくしは自分の知識を披露するかのようにしゃべりだします。
「ええ、もちろん。小さな青白い焔の姿をしていて、カボチャにとりつくと、そのカボチャがモンスターのジャック・オー・ランタンになってしまう……」
途中で言葉を切り、わたくしはまさかという思いを込めておじさまを見つめました。
そのまさかだよ、と言いたげに頷きます。
「そう。今回、ウィル・オー・ウィプスが収穫直後のジャガイモにとりついちゃってねえ……」
「そ、そんなことがありえるのですか!?」
「俺も初耳なんだけど、本当らしいよ。それでジャガイモが暴れ出し、出荷出来なくなったって」
「な、なんということ……」
許せませんわ!
わたしくのモットーを返上し、血がしぶかない相手だろうがなんだろうが、メイスを振るわせてもらいますわ!
燃え上がるわたくしの闘志を知ってか知らずか、おじさまはのんびりとした口調で続けます。
「そろそろ冒険者ギルドに依頼が出てると思うよ。事件のあった畑の方角的に、たぶん西のギルドじゃないかな」
西ですか! 渡りに船ですわ!
「おじさま、少し待っていてください。今日中に、必ずや事件を解決してみせます!」
「そ、そうか……分かった。待ってるよ」
剣幕にややびびっているおじさまへの挨拶もそこそこに、わたくしは西の冒険者ギルドに急ぎ向かったのでした。
もちろん途中で隠れ家に立ち寄り、仮面の女エリスに変装したことは言うまでもありません。




