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神と人が相席するカフェは、神と人が戦う世界にある。  作者: 蒼い諒


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Ep04 女神フレイヤのパンケーキ論 ②

険悪な空気を再び呼び込んだのは

太田の一言だった


マスターが彼の前にシロップを差し出すと

「いりません」

秒の即答

フレイヤが目を見開く

「シロップを断る? 正気? 信じられない、この人間は」


「マスターには悪いけど、シロップは邪道!」

太田は自信に満ちた顔をすると

「まあ、見てなって」

さっとフォークとナイフを握り

外科手術のように処置を始めた


「まず、バターを二枚のホットケーキそれぞれに

丁寧に隅々まで塗り込んでいく

ほら、生地の余熱で溶け出し、馴染んでいくだろ?」


太田のホットケーキは、周りの景色を映すように

小さな反射を重ね始めた


「バターだけで生地の旨味を引き出す

綺麗な三角形の形に切る

そして食べる、これが…答えだ」

太田は一切れを口に運ぶと、うっすら目が潤んだ


「…ダサい、見た目が最悪」

マリが鼻で笑い、ナイフを手に取る

「ホットケーキはね、見た目が命、答えはこう」


マリは二枚の生地を少しだけずらし、全体の立体感を出した

そして、温かいシロップを波の様にうねらせ、丁寧にかける


「見なさい、シロップの熱でバターが溶けると

2色の美しいマーブル模様ができる…

そして端から切って、シロップに浸しながら食べる

これが一番美味しいのよ、分かる?」


「分からないわ! 本当に人間は何を言ってるんだか…」

フレイヤが呆れたようにため息をつく

「あのね、美味しさとは効率なのよ…御覧なさい」


フレイヤはバターを一旦どけると

ホットケーキを賽の目状に細かく切り分けた

「面積を最大限に増やすの!」

そう言うと、皿の淵ギリギリまでシロップを注ぐ


「ほぅら、たっぷりとシロップを染み込ませて

冷えたバターを少しだけ乗せて食べる

温かさと冷たさの共存、これが真理よ」


「はあ? べちゃべちゃじゃん!」

「あなたの食べ方は貧乏臭いのよ!」

「神の審美眼を理解できないなんて…!」


三人は互いの食べ方を非難し合いながらも

一欠片も残さず食べ終えた、が


やはり、三人は納得がいかない…


「そうだわ!」

フレイヤがある提案をし始めた


「マスター、どれが一番美味しいか、決めて下さる?」


フレイヤの提案に太田とマリは驚いた

「いや…それは」

「ねぇ、マスターも難しいんじゃない?」


「あら? 負けるのが怖いのかしら? 眷属のくせに…」


「なんだと!」

「少なくともアンタには勝てるわ!」


「じゃあ、決まりね…マスター?」

「マスター、俺の食べ方、本当に美味いぜ」

「いえ、本職なら分かってくださるわね?」


「ええっと…困りましたね」

三人の気迫に押されたマスターは

引きつった笑顔を浮かべた


20分後…


奇妙な光景がカウンターに出来上がる

客席にはマスターが座り

3人の流儀でセッティングされた

3皿のホットケーキが並び


太田、マリ、フレイヤの3人が

厨房からマスターを見下ろす


「さあ!どれが一番か、今すぐ決めてくださる?」

圧に満ちたフレイヤの声


その声に苦笑いのマスターだったが

「あぁ、困った…どうにかしたいなあ、本当に」


と、どこか棒読みに喋り始め

何かを確認するように顔を上げると


「その…食べる順番や、お腹の膨れ具合で

判断が鈍るかもしれません…

それはフェアではないですよね?」


「…確かにそうね」

3人が頷いた


「では、同時に食べれば公正ですね」

すると、マスターの体が、ブレるように揺れ

次の瞬間、カウンターの椅子には

3人の「マスター」が座っていた


「「「いただきます」」」


3人のマスターは、それぞれのホットケーキを同時に口に運ぶ

「これは! このバターの風味、最高だ!」

「何を言う、この美しい配置と見た目こそ正義!」

「シロップに溺れたケーキを分からぬとは、愚かな!」


3人のマスターが、己の食べた皿の優位性を主張し

猛烈な勢いで言い争い始めた

罵声が飛び交い、掴み合いが始まりそうなほどの剣幕だった…


そして、その光景を見て毒気を抜かれたのは客たちの方だった

「あの…その、なんか、悪かったわ、そんなに喧嘩しなくても」

「ああ、どれも美味いんじゃないかな?」


「まぁ、どれも美味しいのは確かかもね…えぇ」

さすがのフレイヤも目を泳がせた


「「「うーん、そうですか?」」」

納得の行かない様子のマスターだったが

スッと一人に戻り、腕組みをした


その後、太田、マリ、フレイヤは逃げるように会計を済ませると

「また来るわ」

と、いそいそと店を後にした


三人の頭に共通した事、それは

「ま、他の選択も悪くないのかもね…」

だった


カランコロンカランコロン

ドアが閉まる


「…ありがとう、助かりましたよ」

マスターが誰もいない空間へ目をやると

壁際に揺らぎが生じ

一人の男が姿を現した


ロキだ


「…キミは何者なんだい?

忍び込んだボクをずっと目で追えるなんて」

ロキは肩をすくめ、カウンターの端に座る


「プレッシャー、かけられたから助けてやったけど

今の幻術は『借り』にしとくよ」


ロキの言葉にマスターは、ふふっと笑うと

「オーディンの息子、バルドルを殺害して

幽閉されているあなたが、こんな所にいるなんて

天界も冥界も大騒ぎになりますね」


ロキはニヤリと不敵に笑う

「…わかった、秘密にしてくれるならチャラでいい

…で、俺の分は?」


マスターは店の入り口に「仕込み中」の札を下げる


「では、少々お待ちください

1枚サービスの三段ホットケーキとブレンドでよろしいですか?」


「あぁ、いいね

そうそう、ボクは彼らのような

奇をてらう食べ方はしないよ

美味しく、普通に…食べるんだ」


「普通? それは意外ですね」

混沌を愛するロキに向け

マスターはわざとらしく驚いて見せた


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