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神と人が相席するカフェは、神と人が戦う世界にある。  作者: 蒼い諒


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Ep05 フレイと鹿の角、そしてBLTサンド ①

おじさんが お姫様抱っこ されている

そして

おじさんは 少女 のように叫んでいた


「ひぃーーぃぃーーーー!」

「課長、もうすぐです!」


話は少し、さかのぼる

1時間ほど前、その おじさん

特殊能力管理局の 大下課長 は 例のカフェ に行きたかった


しかし、カフェがあるのは、バベルの塔の50階

塔の内部は神族の兵士がうろついている

つまり、普通の人間は、フラフラしてると殺される


そんな普通の人間、課長

どうにかしてよと、フェンリルの眷属、鈴木に頼んだ


「わかりました、僕が課長を抱いて走ります!」


フェンリルの俊足に追いつける神族はいない

鈴木は、泣き叫ぶ課長を胸に抱き

一気に走りぬいた


「着きました…50階です!」


時速200キロの移動は、課長の肺を圧迫していたが

その風圧がふっと消えると

今度は、吸い込まれるような静寂が、彼を包み込んだ


「ここが…」

課長は鈴木に降ろされ、よろけながらも

そこそこ お高い、黒いスーツの乱れを整える


「…鈴木さん、君の足が光っていない」


「報告どおりでしょう? この階に入った途端

フェンリルの俊足が消える、能力が封印されたんです」


課長は辺りを見回す

確かに、これまでの階層とは明らかに空気が異なっていた

バベルの塔全体を支配していた重苦しい殺気と緊張感が

嘘のように霧散している


だが、課長には「能力の封印」だけはピンと来なかった

元より能力など持たない彼にとって

そこだけは実感できないからである


「神も一般人レベルになる、か、にわかには信じがたいが…」

課長は警戒しながら

鈴木は慣れた足取りで カフェにたどり着いた


額の冷や汗をハンカチで拭いながら

課長はドアに張られた注意書きを見る

「ホントだ、戦闘禁止の張り紙がある…」

「では、開けますね、じっくり視察してください」


カランコロンカランコロン


報告で知っていたとはいえ

店内に入った課長は「うわ…」と思わずにいられなかった


漂ってきたのは戦場の匂いではなく

コーヒーの香りと、年代物の家具の匂い


「いらっしゃいませ」

そして、マスターの佇まいもそうだ

嵐の海に浮かぶ孤島の灯台のようでもあり

絶対的で静かなプレッシャーを醸し出していた


だが、課長の視線は、カウンターの端にいる

一人の男に釘付けになった


「…あれは」


黄金の髪、コバルトの瞳、完璧なラインの横顔

超絶イケメン、豊穣の神 フレイ…だ!


フレイは アップルパイを前にしながら

コーヒーカップを手に、静かに課長らに会釈をする


そして、フレイは思った…

(人間が、来た…)

彼は人見知りなのだ


「空いてるお席にどうぞ」

課長はマスターに促され、席に着いたが

フレイの背後に立てかけられた「それ」を見て

再び彼に釘付けになる


(鹿の角だ…)


「…鈴木さん、あれだ、例の、鹿の角」

課長は声を潜めて囁いた

「以前さ、中川が、あれにやられたと上に報告したら

『鹿の角で死ぬわけがあるか、ふざけるな!』 と、怒られたんだよ…」


「あれは、眷属の間では有名な 神の武器 なんですがね…」

鈴木は苦笑い


しかし、そんな愚痴をこぼしながらも

課長は未だ猜疑心に満ちていた


(本当に、ここでは戦えないのか? この距離なら私でも殺れるのでは?)

課長はスーツの奥深くの拳銃を抜こうとした


「ぐっ…」

課長の全身に凄まじい硬直が走った

拳銃に手が届かないどころか、指一本、動かせない


「フフ……」

マスターが、小さく笑う

課長の拘束が、ふっと解ける


「お客様、ここでは武器は必要ございません、ご注文は何になさいますか?」


課長は圧倒的な「禁止」を身をもって知った

ここは、理屈ではない場所だと


「…失礼、えっと…鈴木さん、何がいい?」

「僕はBLTサンドのセットを」

「では、私もそれを」


マスターは頷き、冷蔵庫から具材を取り出すと

ベーコンは厚切りに

トマトをシュッとスライス

水に浸されたレタスを適度な大きさにし、さっと水切り

迷いなく、途切れなく、調理していく


「BLT…ベーコン、レタス、トマト

シンプルですが、素材の個性が生きる料理で僕は好きなんですよ」

鈴木はカウンターをじっと眺める


マスターが、厚切りベーコンをフライパンに並べる

ジューッ、という激しい音が店内に響き

脂の甘い香りが立ち上がる


「当店は、表面をカリカリ

中はジューシーさを残すように焼きます、そして…」

マスターは真新しい、波型のナイフを取り出した

「サンドイッチの中を潰さずに切れるスライサーです

新調したんですよ、期待して下さい!」


マスターの手際の良さ、脂の匂い、新調されたスライサー

課長と鈴木は顔を見合わせ

当たりを確信した


「ん?」

その時、課長はフレイのチラチラとした視線に気付いた


(そうだ…ここは戦闘禁止の場所、ならば…)


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