Ep03 オーディンと女子高生と昭和プリン ②
「ふふ、違います、昔、日本にあった時代の呼び名です
そう呼ぶことで、種類として分かりやすくしたり
ブランドみたいに価値をつけたりしているんだと思います」
「古い時代? お前のような子供が古い時代を好きなのか?」
オーディンの問いに、かほるは少し首を傾げ
「いえ、古いから好きなんじゃなくて
私が好きなものが、ただそう呼ばれているだけです」
そう言い終わるとオーディンを真っ直ぐに見つめた
「おじさん、その『暗殺者のパスタ』
好きだから、食べてるんですよね?」
「…なぜ私がこれを好きだと?」
「だって、もう3皿目でしょう?」
オーディンの皿を指差しながら、いたずらっぽく笑う
オーディンは、おかわりの度に皿を重ねていた
それは達成感を得るため
そして、パスタがメニューから消える名残惜しさ
それらから来る行動だった
「おじさんは今が大事な人なんですね」
「そう見えるか?」
「メニューから消える日に3皿も重ねるなんて
今、この時を大事にしている証拠です」
「ほほう…」
「私も今が大事、好きなものがどう呼ばれても
今、私が好きなものを、手に入れたいの」
彼女はそこで一度言葉を切り、少しだけ声を落とした
「だって、戦争中なのよ
一時間後に私はいないかもしれない
でしょ? オーディンさん」
カフェに沈黙が降りた
別の場所では、今も神と人が血を流している
ここを一歩出れば、彼らは敵同士だ
殺し合う
オーディンは瞳を細め、小さくため息をつく
少女の言う通りだ
明日の命すら保証されない戦いの最中
「今」この味を噛みしめる事は
重要な儀式にも値する
そして彼は、ラグナロクの予言で
自身の死を宣告されていた
「…おかわりだ」
オーディンはキッとマスターを見据えた
「えっと…4皿目、ですか?」
「あぁ、今が大事…なのでな」
「あ、ごめんなさい、変な空気に…」
かほるが申し訳なさそうに下を向く
「あの…おじさんたちにも、私たちにも、戦う理由があって
でも、だからこそ、『今』を楽しまないと もったいないかな、と」
かほるは早口で喋り
コーヒーを一口飲み
息をついた
「あの、昭和プリン、おかわり お願いします!」
かほるの声にマスターは、軽くうなずくと
冷蔵庫からプリンを3個、取り出した
「お待たせしました…そして、これは私の奢りです」
オーディンの前にひとつ
かほるの前にひとつ
そしてマスターの前にも、黄金色のプリンが並べられた
「マスター、これは?」
かほるが不思議そうに尋ねる
マスターは二人の客を見据え
静かに、しかし重みのある声で
「今、この楽しみを全員で共有しませんか?」
最高神と眷属の人間
いや、おじさんと少女
二人は同時におかわりへ手を伸ばした
戦場の中腹に浮かぶ小さなカフェには
カラメルの苦い香りと
「今」が満ちていた




