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神と人が相席するカフェは、神と人が戦う世界にある。  作者: 蒼い諒


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Ep13 女神フレイヤと三杯のコーヒー ②

「こんにちわぁ、あれ? なんか今日、雰囲気違いますね」


現れたのは

長髪で痩せ型の男

ヨレたTシャツにジーンズ

動きに覇気はなく

どこからどう見ても戦士には見えない


(ロキの眷属…確か、トサカとか呼ばれている男…)

フレイヤは呆然とした

これもウートガルザが見せている幻術?

悪趣味ね、と、彼の顔を見る


しかし、当のウートガルザ

目を見開き、驚愕の表情で固まっていた

「…なぜ? なぜ、人間がここに?」


「え? いや、普通にドア開けて、はい」

トサカは二人の視線など、どこ吹く風

フレイヤとウートガルザの間の席に

ごく自然に腰掛ける

そして、いつも通りメニュー表を眺めだした


「…お前、どうやって、ここに入り込んだ?」

ウートガルザは そう言いながら考え直す

完璧な幻術へ「普通に入ってきた」など ありえない

「……いやお前の能力は、もしや 『次元』 に関するものか?」


トサカはメニュー表から顔を上げ、少し感心したように

「すごい、よく分かりましたね、そう、なんか 『次元の間』 っていうか

空間の隙間みたいなところを、移動できるんですよ、僕」


飄々と語るトサカの言葉を聞き

ウートガルザは頭を抱え、深く大きなため息をついた

「なるほど…そうか、しかし…なんてことだ

私の幻術が、こんな人間に破られるとは…」


ウートガルザの落胆ぶりを見て、フレイヤは驚く

(…この男、本物なの!? あのウートガルザの幻術を、ただの人間が!?)


しかし、そこは、ウートガルザ

彼はすぐに落ち着きを取り戻すと

「…まあ、いい、フレイヤ、不確定要素が混ざったが

この男がいても、ゲームの進行には問題ない、始めよう」


ウートガルザが指をパチンと鳴らす

「ゲームの内容は単純だ

そこにいるマスターが、三杯のコーヒーを同時に君の前に出す」


すると、覇気のないマスターは

白いカップを3つ、フレイヤの目の前に並べた


「ただし、その三杯のうち、どれか一杯には必ず

神をも絶命させる 『ヨルムンガンドの毒』 が入っている

君がその毒入りはこれだと当てるか

あるいは毒のない二杯を口にして生き残ることで

この幻術は解除される…」


ウートガルザは淡々と告げる

「さあ、命を懸けた三択だ」


ウートガルザが言うのならば

本当に毒は入っているのだろう

しかし、ラグナロクに消極的とはいえ

こんな理不尽なゲームで命を落とすわけには…


その時、隣から「あのー」と力の抜けた声が割り込んできた

「マスター、僕、ハニートースト、あと、アイスコーヒーで」


トサカが元気に注文を飛ばすが

マスターはピクリとも動かず、虚空を見つめる


「あれ? マスター、どうしたんですか?」

トサカが困惑したように首を傾げる


一方、フレイヤは必死に思考を巡らせる

三杯のコーヒー、見た目も、匂いも

そして、立ち上る湯気すらも完全に同一

「……ウートガルザ、ヒントは?」


「そんなに甘くはない…ルールは以上だ、選びたまえ」


冷酷にはね返され、フレイヤは唇を噛んだ

(どうすればいい…?

飲まずに当てる?

それとも、二分の一の確率に賭けて、二杯に口をつける?)


額に冷や汗がにじむ

フレイヤの精神は極限まで追い詰められていった


そこへ、再びあの声

「マスター!あの、僕、ハニートースト頂きたいんですが!」

トサカが元気に注文を繰り返す


「うるっっっさいわね、この人間!!

人が命懸けで悩んでる時に、トーストトーストって!!」

フレイヤの凄まじい怒号が店内に吹き荒れる


だが、トサカは怯えるどころか

不思議そうに飄々と尋ねてきた

「え?

あれ?

お姉さん、もしかして、分からない?」


トサカはぽんと手を叩いた

「要するにこれ、毒当てのトンチクイズですよ!」

「トンチ……?」

ウートガルザが眉をひそめる


トサカは席から立ち上がると

迷いなく、コーヒーへと手を伸ばした

「ちょっと失礼」

「な、何を!?」


フレイヤの制止も聞かず

トサカは三つのカップのうち

二つのカップのコーヒーを、残る一つの中へと

躊躇なくドボドボと注ぎ込んだ


溢れそうになりながら

一つのカップに、なみなみとまとめられた

三杯分のコーヒー


トサカはそれを指さすと、満面の笑みで叫ぶ

「はい!毒入りはこれ!」


一瞬、店内の時間が完全に停止した


ウートガルザは口を半開きにしたまま固まり

フレイヤは我が目を疑った


「…いやお前、何を言っているんだ?」

ウートガルザが、苦笑いを浮かべながら続ける

「私が言ったのは、三杯のうち 『どれか一杯に毒』 という話

それでは、ゲームにならないだろう?」


「いやいや、神様」

トサカは首を横に振り、興奮ぎみで

「さっき、ルールは以上って言いましたよね?

『混ぜちゃダメ』 なんて、一言も言ってませんよ

この中には、確実に毒が入ってます、だから、これが毒入り大正解

あれ? 神様ともあろうお方が、どうなんでしょうね」


「な……っ」

ウートガルザの顔から余裕が消え失せる


その様子を見たフレイヤの脳内で、何かが閃いた

(…そうよこの男の言う通りだわ!)


フレイヤはすかさず立ち上がり

ウートガルザを指差して、勝ち誇ったように叫ぶ

「そうよ、ウートガルザ!

あなたさっき、確かに『ルールは以上』って跳ね返したわ!

言ったわ! 絶対に言ったわ!

巨人族の王が、人間相手に自分の言葉を覆すつもり?」


「う、うーん……」

詰め寄るフレイヤに

さすがのウートガルザも、完全に言葉に詰まる


ルールを厳格に適用すれば

確かにトサカの行為を禁止する文言はなかった

だが、こんな力技で…


しかし、これ以上反論するのも見苦しい

「……分かった、今回は私の負けだ、今の解答を認めよう」


ウートガルザは諦めたように微笑む

「では、幻術を解く、フレイヤ、そして人間よ…また会おう」


その声を最後に、世界がガラスのように砕け散った


気がつけば、フレイヤとトサカは

本当の 『カフェ・ウィルド』 の扉の前に立っていた


辺りには、本物のコーヒーの香りが漂っている

ウートガルザの気配は、影も形もない


「……トサカ、と言ったかしら」

フレイヤは、少し調子を狂わされながらも

神族としての気品を保ちながら声をかけた


「今回は、その突飛な行動に救われたわ

だけど、人間に借りを作ったままなのは寝覚めが悪い

この借りは必ず返すわ、望む報酬を言いなさい」


しかし、トサカは面倒くさそうに頭を掻くと

あっさりと首を降る

「僕、そういうペナルティ制みたいなの

すごい苦手なんで、いいです、はい」


断りながら、トサカは飄々とした足取りで歩き出す

「待ちなさい!」

フレイヤは思わず食い下がった


「ペナルティ制って何よ!

私はお礼をしたいと言っているのよ

神の恩恵を受け取ることが、そんなに不満?」


トサカは足を止め、振り返る

「だって、お姉さん」


トサカはいつもの様子で続ける

「借りがあるってだけで、僕が優位っていうの嫌だし

借りがあるからって理由で、長期的な関係性を維持するのも嫌

僕は、いつでも自由でいたいんです」


フレイヤは完全に調子を崩され、思考が追いつかなかった


「今回は面白かったね、今回はうまくいったね

…それだけで十分です、何もいらないです、はい」


そう言い残し、トサカはフェ・ウィルドの店内へと消えていった

そして、あの声が聞こえる

「マスター、僕、ハニートースト、あと、アイスコーヒーで」


一人、フロアに取り残されたフレイヤは

呆然と店内の灯りを見つめていた


(借りがあることでの、優位性…長期的な、関係性の維持…そして自由)

トサカが放った言葉が

彼女の胸の奥に、深く、冷たく突き刺さっていた


そして、フレイヤは、自分がなぜ

このラグナロクに、いまいち乗り気になれなかったのか?

それがぼんやりながら見えて気がした


「自由…自由ね、人間に教えられるなんて、本当に癪だわ」

彼女はゆっくりと歩き出し、カフェのドア手をかけた


ラグナロクの結末がどうなるかは分からない

だが、それは確実に不確かなのだ


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