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神と人が相席するカフェは、神と人が戦う世界にある。  作者: 蒼い諒


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Ep12 神々をも惑わすザクロソーダ ②

「マ、マスター?」

鈴木をはじめ、オーディンもトールも課長も

普段と様子の違うマスターに全員が驚く


それに気づいたマスターは

「失礼…何でもありませんよ」と、微笑んだ


ともかく、互いに求めていた情報は得られた

緊張感からの解放と、長話の疲労が、4人に押し寄せる

(人間2人の精神的消耗は凄まじかったが…)


「ふぅ…喉が渇いたな、せっかくカフェにいるんだ

何か冷たいものでも頼むか」

トールがそう言うと、オーディンも鈴木も課長も

一様に「冷たい飲み物を」と言い出す


すると、マスターが、ふっと目を細めて提案する


「では… 『ザクロソーダ』 などいかがでしょうか

今の皆様に、これ以上なくぴったりな特別なドリンクです」


「ザクロソーダ? 初めて聞くな…」

4人は物珍しさもあり

また、その魅力的な響きに誘われて注文することにした


「かしこまりました、では、特製な一杯を…」

マスターは流れるような手際で準備を始める


キンキンに冷えたロンググラスへ

透き通った氷が隙間なく滑り込む


そこに、濃厚で妖艶な赤みを帯びたザクロシロップ

グラスの底に沈む赤は、まるで絞りたての血液のよう


さらに、味を引き締めるためのレモン果汁

そして、冷えた強炭酸水をパチパチと音を立てながら静かに注ぐ


マドラーを入れ、軽く、1回だけステア

仕上げに、ミントの緑を添え、ライムを絞り、ローズシロップを少し

そして、深紅の色彩が極限まで際立つ

カシスシロップをそっと落とした


グラスの中で、透明な炭酸とカシスが混ざり合い

美しくも禍々しい 「深紅」 のグラデーションが完成する


「どうぞ…特製ザクロソーダです」


目の前に差し出された魅惑的な赤色に

4人は興味をそそられた


「ほう、美しいな…」

「これは、美味そうだ」


疲労とドリンクの魅惑も重なり

誰もが疑うことなく、一口飲んだ

シュワリとした炭酸の刺激のあと

濃厚な甘みと鋭い酸味が喉を駆け抜ける


――直後、異変が起きた

「う、熱い…!? なんだ、身体が異常に熱く…」

課長が胸元をかきむしる


鈴木は足元がフラフラ

トールは頭を押さえ

オーディンは顔が紅潮していく


そして全員、気分がとてつもなく良くなり

強烈な多幸感が頭を満たしていく


「貴様…これに何を混ぜ…」

オーディンは激昂し、マスターの胸ぐらを掴もうとする

その瞬間、マスターの姿が陽炎のように揺らめく

「ハハハ!どうだい!」

そこに立っていたのは、バリスタ服をルーズに着崩した

――ロキ!

マスターの姿をしていたのは、彼の幻術だった


「ロキ…ッ!貴様…マスターはどこへ!」

トールが叫ぶが、身体に力が入らない


ロキはカウンターに腰掛けると、楽しそうに足をぶらぶらさせた

「いやぁ、ボクくらいになると、この階のルールなんて、たやすい

それよりも、キミたちのために一肌脱いだ事を感謝してほしいね」


ロキは満面の笑みを浮かべ続ける

「そのザクロソーダ…嘘や建前が一切つけなくなる特製ハーブ

…心のブレーキを破壊する 『真実の薬』 を入れておいたんだ

神も人も、腹の内を隠して綺麗に情報交換? 虫が良すぎるだろ?

さぁ、剥き出しの本音で話なよ!」


ロキは、4人が互いの憎悪を爆発させ

醜く罵り合う地獄絵図を期待した

だが、薬の効果は、ロキの予想を遥かに超える形で発現した


最初に叫んだのは、オーディンだった

彼は顔を真っ赤にしながら、大声でぶちまける

「じゃあ、言ってやる! 頼むから人間よ滅べ!

あと、巨人族は俺の事をいつまで根に持ってるんだよ、しつこい!

あー、それはそうと、『暗殺者のパスタ』 がまた食べたい!

なんでバルドルは帰ってこないんだ!冥界はケチだ!

トール!お前、いつも暴れすぎなんだよ!馬鹿力の脳足りんが!」


「なんだと!親父ぃ!」

トールが、ろれつの回らない口で反論

「言わせてもらうぞ!

周りの奴ら弱すぎだ、殴ったらすぐに死んじゃう!

どうしてあんなに脆いんだよ!? 俺のせいか?

この前、ロキが出してくれたスープ

あれ本当は、めちゃくちゃ美味しかった!もう一度飲みたいなぁ…

あとオーディン、お前はワガママすぎるんだよ!

知識が欲しければインターネットでもしてろ!」


「おいおい、神様連中が何言ってんだ!」

課長が、ネクタイをむしり取りながら叫ぶ

「上司の命令で、命がけで来たけどねぇ!

私はただの普通の人間なんだよ!今すぐに家に帰りたい!

神々さぁ、お前ら怖いんだよ!給料は安いし!

ストレスでどうしても食べちゃう!太った!

眷属の奴らは全員ワガママばかり!言われた通り戦え!」


「課長!僕だってありますよ!」

鈴木が狂ったように笑い、拳を突き上げる

「僕の能力はスピードだけですよ!

でも、もっと褒めてくれてもいいじゃないですか!

休日をください、休日を!

あと、神もその軍勢も、好戦的すぎてマジで引くわ!

そんなに戦いたいなら、お家でテレビゲームでもしてろよ!

ついでに言うなら、管理局の上層部はアホばっかりだ!」


「ハハハ!いいぞ、その調子だ!」

ロキは大爆笑した

……しかし、何かがおかしい


4人はお互いの「ド直球の本音」をさらけ出し

叫び、暴露し合っているのだが

そこには陰惨な憎悪が全くなかった


むしろ、すべてを吐き出したことですっきりとした

居酒屋のような空気が店内に流れ始めていたのだ


「お前、太るの気にしてんのかよ!」

「ゲームってなんだ、今度教えろ!」

「アースガルズにネット引きたい」

挙句の果て、お互いに笑い合いながら、残ったザクロソーダを

「これ美味いな」

と、ゴクゴクと飲み干している


「…なにこれ?」

ロキは急につまらなそうな顔をした

もっと、ドロドロとした裏切りと絶望の泥仕合になると思ったのに

ボクの苦労は何だったんだ、と肩を落とした


その時

「――お客様、当店での悪質な悪戯は、利用規約違反です!」

店の外から、ホンモノのマスターが

冷酷でありながら美しい形相で乱入する

直後、マスターの身体から青白い光が放たれると

「ワッ、待っ――」

ロキは一瞬で消えた


ハァ、と息を吐いたマスターは、カウンター内に戻ると

手早く、特製の解毒薬を振る舞い、4人は落ち着きを取り戻した


マスターは全員に向けて深く頭を下げる

「申し訳ありません…

ロキに、このフロアのルールの脆弱性を突かれてしまいました

すでにルール改修しておりますが、心よりお詫び申し上げます」


「いや…まぁ、いいさ」

正気に戻ったオーディンは、何か気恥ずかしさ感じていた


他の3人も同じだった

お互い、顔を見合わせられない空気…


それを吹き飛ばすようにトールが強い語気で話す

「そうだ、マスター、ロキの奴はどこへ?」


「これ以上の妨害を防ぐため、上階へと飛ばしました

おそらく…5フロアくらい上かと」


「わかった、行くぞ!あの野郎、今度こそお仕置きだ!」

「待て!ワシも行く!」

神の二人は立ち上がると、威勢よく店を後にした


カランコロンカランコロン……


静けさを取り戻した店内で、鈴木はその背中を黙って見送る

開戦当初、人類を滅ぼしに来た絶対的な「恐るべき殺戮者」

そんな神々への印象が、今や自分の内側で崩れている事に気づく


(もしかしたら…)


鈴木は空になったザクロソーダのグラスを見つめ

何やら深く考え込むのだった


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