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神と人が相席するカフェは、神と人が戦う世界にある。  作者: 蒼い諒


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Ep10 フレイと逆クリームソーダ ②

フレイは頭を抱え、カウンターに突っ伏した


そのあまりの落ち込みように

レモンケーキを運んできたマスターが、困惑しながら声をかける

「どうされたんですか、フレイさん?」


フレイは顔を伏せたまま

一連のドミノ倒しを、絞り出すような声で吐露し始めた


自分がどれほど主体性を欠いていたか

そして何より、大切な剣を手放してしまった己の無自覚さ

それが、神と人類の最終決戦に

どれほど悪影響を及ぼしているかを、激しく嘆いた


その、愚痴とも懺悔ともとれる言葉を

静かに聞いていたかほるが

フレイを見つめ話しかける


「それは、フレイさんが

『繁栄』と『愛』を選んだからでしょう?

決して、愚かではありませんよ」


「え…?」

フレイが顔を上げる


かほるは、青ではなく、緑のクリームソーダを見つめながら続ける

「私も同じです

私も…世界の繁栄と

大切な人たちへの愛を選んでいるから、今ここで戦っています」


敵であるはずの人間

そんな少女から掛けられた、予期せぬ肯定の言葉


フレイの心が、じわじわと崩れながらも喜びで満たされかける

しかし

かほるはストローを小さく回し、その表情を少し暗くした


「…でも、それは戦いの果てにあるもの

愛のために他者を殺し、血を流し合っているのが現実

そう考えると、私の選択は、実際はただの愚かな行為なのかも…」


「戦いとは…うぅ……」

フレイは再び、テーブルに深く沈み込んだ

救われたと思った直後に突きつけられた

戦いの矛盾

彼の繊細なメンタルは、再び深い底へと叩き落とされた


店内を包む、重苦しい静寂――


カウンターの向こう

マスターがふっと微笑んだ


彼は拭きかけの皿を置き、ある提案をし始めた


「フレイさん、どうでしょう

先ほどの、かほるさんみたいに

『気分を新たにする注文』 をしてみませんか?

どんなご注文でも、私が形にしてみせます」


フレイはゆっくりと顔を上げ、マスターの目を見た

『気分を新たにする注文』?


自分の意思で、今の自分の状態を言葉にする

流されるままだった過去を捨て、新しい自分になりたい!


フレイの胸の奥で、小さな、しかし確かな火が灯った

彼は まっすぐマスターを見据え、告げた


「…ならば、『真っ新な気分』での再スタート

そして、『新しく成長したい』という私の意思を、形にしてほしい」


「かしこまりました」

マスターはニコリと笑うと

迷いなく、そして、手際よく

不思議な飲み物を作り始めた


やがて、フレイの前に差し出されたのは

あまりにも奇妙で

そして美しい一杯だった


「どうぞ、フレイさんのためのメニューです」


それは、通常のクリームソーダとは

完全に構造が逆転したものだった


グラスの下部を満たすのは

純白に澄み切った、真っ新な 『ホワイトソーダ』


そしてその上には

これから大きく芽吹く若葉のような

鮮やかな 『メロンシャーベット』 が、堂々と冠として乗せられている


―― 『逆クリームソーダ』


「わあ…!」

それを見たかほるが、目を輝かせて歓声をあげた


「すごいです、マスター!

私のクリームソーダと 『対』 でありながら

並べると綺麗な 『ペア』 みたいに見えて、すごく素敵!」


かほるの素直な称賛と嬉しそうな笑顔

フレイの胸は、今までに感じたことのない高揚感で満たされた


他人の命令に従って得た安堵ではない

自分が言葉を選び

自らの意思で注文したからこそ得られた

本物の喜びだった


「ありがとう、マスター …いただきます」


フレイはしっかりとグラスを掴み

逆クリームソーダを口にした


パチパチと弾けるホワイトソーダの爽快感が喉を駆け抜ける

濃厚なメロンの甘みが、彼の心に確かな輪郭を与えていく


(ああ…美味い、これが、自分で選択する結果!)


喉を潤す液体の冷たさの中

フレイは、自分の内側で何かが決定的に変わる

パチパチという音を聞いた


ただ流されるだけの中間管理職だった神は、もういない

自分の足で立ち、自分の意思でこの世界と向き合う


そんな 『主体性』 が、彼の中で力強く目覚め始めていた


二つの異なる色彩のクリームソーダが

陽光を浴び、カウンターの上で静かに煌めいている


神と人が、確かに互いの意思を認め合った

小さな時間が、そこには流れていた


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