Ep09 女神フレイヤとチーズケーキと女性への接し方と ②
フレイヤは内心で焦っていた
特徴的な苦みと甘みのバランス
どこかで食べた記憶があるだが、肝心な正体が掴めない
フォークで土台を細かく崩し、観察する
ふと横を見ると
「間違えろ!」と言わんばかりのニヤついた顔で、マリがこちらを見ている
そして、なぜかマスターまでが
キラキラとした期待の眼差しを向けていた
「マスター、何なのよその目は!」
フレイヤが叫ぶと、マスターは困ったように笑い
「いえ、実は、先ほどマリさんにも、隠し味を何か聞いておりまして
お二人なら、きっと分かってくださるかと…」
「コイツ余計なことを!」
マリがマスターを睨むが、時すでに遅し
「何ですって!?
自分が分からない問題を、神である私に解かせようとしたの?」
「神なら分かるんでしょ? それとも、負けるのが怖い?」
「…受けて立つわ、じゃあ、せーので一緒に答えなさい!」
マスターは 「やってしまった……」
と、困惑と後悔の表情でカウンターの奥に引っ込んだが
「すみません、お詫びにヒントを一つ
お二人の関係に望ましい事です」
その言葉に混乱しつつも
最後の一口を、マリは慎重に口に運ぶ
(コーヒー、いや、カカオとも違う…あと何?お二人の関係に望ましい事?)
一方のフレイヤも、パクパクと食べながら必死に考える
(最近食べ過ぎだから、おかわりは避けたい……
でも、分からない、お二人の関係に望ましい事って?)
あ!
二人は同時に
ある「ピン」とくるフレーズに辿り着いた
こういう時、マスターのような「男」が言いそうな、使い古された言葉
「マスター」
「もしかして」
フレイヤが、そしてマリが、嫌そうな顔で答えを吐き出した
「「愛とか、言わないわよね?」」
マスターはパッと顔を輝かせ、満面の笑み
「ご名答!料理の隠し味、愛、なんて…ね」
「「はあぁぁぁ!?」」
店内に怒号が響き渡った
「何言ってんの!?余計なお世話よ!」
「神に愛を説くなんて、傲慢もいいところだわ!」
「っていうか、私が愛のない女だと思ってるの!?」
「セクハラよ!通報するわよ!」
「あ、あの、お二人とも落ち着いて…冗談です」
タジタジになるマスター
だが、彼は懲りずに次のヒントを投下
「本当の隠し味は、お二人が欲しいものです!」
「もしかして」
「マスター」
フレイヤが、そしてマリが、苦々しい顔で答えを吐き出した
「「若さ、若さの象徴、リンゴとか言わないよね?」」
「ご名答!若さの象徴、乾燥リンゴをキャラメリゼして…」
先ほどを上回る大爆発が、マスターの話を遮る
「はあぁ!? 女=若さが欲しいと思ってんの!?」
「美しさは若さじゃないのよ!この世間知らず!」
「軽くセクハラどころか、完全な侮辱だわ!」
二人の美女による猛烈な反論の嵐
「あー…疲れた、もういいわ、おかわり!飲み物も一番高いの!」
「こっちもおかわり!マスター、今日は覚悟しなさいよ!」
大慌てで おかわりを用意するマスター
だったが、その後、二人の美女から
「女性に対する接し方と、言葉選びのデリカシー」について
二時間以上にわたる説教を受ける羽目になった
その後ろで、ゆっくりとドアが閉じる
オーディンがそっと入店を試みようとしていたが
店内に充満する、二人の凄まじい「女子力(物理)」に気圧され
入り口で静かに引き返していった
「…今日は、やめとくか」
本日だけ
ラグナロクの戦場よりも恐ろしい場所が
この塔の50階には存在していた




