Ep07 ロキ カフェを開業する ②
ロキの小冊子
そこには、神々が かつて巨人族に対して行ってきた
非道の数々がイラスト付きで書き連ねられていた
・ 壁の建設費用を未払い
・ 怒って一方的に虐殺
・ 知恵の蜜酒を強奪、などなど
「まぁ、思ってた通り…かな」
鈴木は冷静に受け止める
「あら…神様も、結構ひどいことするのね」
マリがページをめくりながら呟く
「これ、本当の話かよ? お金を踏み倒しとかブラック企業じゃん」
太田が目を丸くする
「…神も人も同じ、奪い奪われ、飽きれば捨てる、メモだな」
トサカは水を飲み干すと手帳を広げる
冊子を読む人間たちを観察するロキだったが
彼らの感想は、期待したような「憎悪」ではなく
どちらかと言えば、「同調」に近いものだった
「なんだ…思うような 混沌 にはならなかったか…」
ロキが少しだけ、つまらなそうに呟く
トールは離れた席で、それを静かに聞いていた
その後、眷属たちは、「微妙」な食事を済ませると
マスターを引き連れ、口直しと言わんばかりにウィルドへ
そして
最後に残されたのは、トールとロキの二人
いつの間にかメイドたちの姿も消え
店内には静寂が落ちる
「ロキ…」
トールが口を開く
ロキは、それまでのふざけた態度を捨てると
少しだけ神妙な顔つきになった
そして、店の奥からメニューにはない料理を運ぶと
トールの前に置いた
それは、木製の器に入った山羊肉のスープと、無骨な大麦パン
「…食うか?」
ロキはトールから一つ席を離して座ると
自分も同じものを食べ始めた
トールは黙ってスープを口に運ぶ
その味は、共に過ごした旅や、宴の記憶を呼び起こす
「いろんな事をしたな、ロキ…」
トールの低く、重い声
「あぁ、キミはいつも、真っ直ぐに暴れていたね」
「暴れていた? じっと耐える事も俺はした」
「女装の時かい? でも最後は暴れたじゃないか」
「フン…ロキ、もう止めにしないか?」
「何をだい?」
「復讐だ、お前が人間に吹き込んでいる真実は、ただの復讐だろう」
「復讐? 違うよ、ボクはただ、帳尻合わせをしているだけだ
キミたちがしてきた、輝かしい神話…のね」
ロキは、窓の外、はるか雲の向こうを見ながら答える
「…お前の詭弁は、聞き飽きた」
トールはそう言いながら、スープを最後の一滴まで飲み干した
「だが、このスープの味だけは
これだけは、あの頃のアースガルズと同じだな」
「この店はニセモノだけど、ボクはあの頃も、今もホンモノさ」
ロキは自嘲気味に笑いながら続ける
「キミだって、あの頃も今も、あのハンマーを強く握っているだろ?」
「そうだ、だが、このスープを飲んで手が緩んだ、正直に言うよ」
その言葉にロキは何も返さなかった
「…来て良かった、また話そう」
トールは、静かに、重厚な足取りで店を去った
一人残されたロキは、空になった木の皿を見つめ
少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた
「柄にもないことをするもんじゃないな
…いや、でも、これがボクでもあるか」
翌朝、マスターがウィルドの外へ目を向けると
そこにはもう
「カフェ・ロキ」の安っぽい看板も建物も
影も形もなくなっていた
まるで
一夜限りの悪い悪夢が
朝日に浄化されて、消えたかのように




