Ep07 ロキ カフェを開業する ①
「え?…店が、増えてる…」
鈴木は思わず声を漏らした
カフェ「ウィルド」の真向いに
昨日まで存在してなかった 「異物」 が鎮座していたからだ
それは、どこにでもある大衆チェーン店のようで
看板もどこかで見たことがあるようなカフェだった
店名は「カフェ・ロキ」
「鈴木さん、これって…」
鈴木の背後からマスターが声をかける
「あ、マスター、いつ出来たんですか、これ?」
鈴木も問い返すが
その声も届いていないくらい、マスターは困惑顔だった
「ロキ…あなたは何を企んでいるのですか?」
予想外の出来事に胸騒ぎが滲む
「入って、みますか?」
鈴木の声にマスターはうなずくと
二人は警戒を最大級に引き上げながら、店へと足を踏み入れた
カラン……と、安っぽいベルの音が響く
店の内装は外観と同じく、どこかで見たようなチェーン店な感じ
ただ店内は広く、カウンター席にテーブル席もあった
「いらっしゃいませ~っ!」
迎えたのは、場違いなほど可愛らしい二人のメイド
そしてその奥
カウンター内にウィルドのマスターとよく似た服装
にこやかであるが、決定的に何か歪んだ雰囲気の ロキ がいた
「やあ、マスター、いらっしゃい」
ロキは彼自身の思う、最も紳士的な態度で迎えた
「キミの店に感銘を受けてね、僕も始めてみたんだ
それに…ボクみたいに神々に追われる身としては
この 『戦闘禁止階』 ってのは、最高に居心地が良くてね」
鈴木は息をのんだ
この男が、神々にも、そして巨人族にも 一目置かれる存在のロキ…
「ン? そこの人間さん、ボクは味方だよ…鈴木君、だったかな?」
ロキは自分を凝視する鈴木に親しげに語りかけた
「ロキ、あなたは いったい…」
マスターの声を遮るようにロキは
「まあ、ともかく座って、オーダー頼むよ」 と、促した
釈然としない思いを抱えつつ、二人は席に着き
メニューにある、ロキ・チーズケーキセットを頼んだ
「ありがとうございます!」
二人の可愛らしいメイドが声を揃える
「マスター、ご存じですか? ロキの眷属」
「えぇ…先日、トサカというロキの眷属の方が来ました」
二人は小声で話し始める
「あのロキさん、いろんな所で眷属の人間を増やしていて
その者たち、民兵やゲリラのように参戦してるのですが
多くの場合、戦闘力が低く、単純に犠牲が増えているんですよね…」
「おや、ひどい言い草だね…
彼らだって必死に神々を倒そうと頑張っているのに」
ロキは肩をすくめる
鈴木は 聞こえているのか…と目を細める
「お待たせいたしました~!」
コーヒーとチーズケーキをテーブルに置き
二人のメイドは笑顔で去っていった
(何か、どこか微妙な店だな…)
鈴木は内心思いながら、一口食べるが
(…味も、微妙だ)
チラりと横を見ると
そこには、スプーンを口にくわえたまま、同じく微妙な表情のマスター
ケーキにコーヒー、食器と、見た目は整っている
だが、そこにはウィルドのような「魂」が欠片も感じられなかった
その時だった
店のドアが乱暴に開かれ、赤銅色の顔をした巨漢が姿を現した
最高神オーディン、そして、その背後にはトール
「ロキ…ッ!貴様ァ!」
オーディンの怒号が、安っぽい店内を震わせた
最愛の息子を殺したヤツが、目の前にいるのだ
オーディンは叫びながら一気に飛びかかろうとしたが
「ヌォォ……!?」
一瞬で彼の体が動かなくなる
「ダメだよ、オーディン…ここは、ボクの店だ
それに、この階のルールを忘れたのかい?」
ロキはカップを拭きながら、余裕たっぷりに話す
「貴様…卑怯な真似を……!」
顔を真っ赤にして抵抗し続けたオーディンだったが
ルールには抗えなかった
結局、彼はロキを睨みつけたまま
荒々しく店を飛び出していくしかなかった
だが、トールは違った
彼は一言も発さず、静かに、重厚な足取りで
一番奥のテーブル席に腰を下ろした
そこに、大声で能天気な声が入り込んできた
「うおっ、すげえ!ウィルドの横に新店できてるじゃん!」
太田だった
少しすると、いつものように呆れ顔のマリ
そしてまた少しすると
どこか浮世離れした、フワフワとした トサカが入ってきた
「いらっしゃい、若き眷属の皆さま、今日はサービスデーですよ」
ロキがスマートな響きで声を出す
太田は警戒心ゼロでカウンターに陣取ると
「マジ? じゃあ、ロキ特製DXホットドッグ と ロキ・コーラ!」
「私は…パンケーキ・ロキスタイル と ロキティー…て、いうか
ここ、内装の趣味が悪くない?」
マリは毒づきながら周囲を見渡す
「私は、ロキ・モンブラン…それと、お水でいいです」
トサカは相変わらず周囲を観察しながら注文する
やがて運ばれてきた料理を、太田は勢いよく頬張ったが
(…ん?なんだこれ、ソーセージがなんか…練り物っぽい?)
(やだ、このパンケーキ、冷凍をチンしただけのモサモサ食感ね)
マリが眉を寄せる
(…マロンというかサツマイモ…あるいは、着色されたペースト)
トサカは無表情に咀嚼
そんな客の表情はどうでもいいロキ
続けてなにやら持ってきた
「さあ、ご来店の方にはこれをプレゼント!」
それは、『神々のこれまで』 と題された薄い小冊子
(ロキ、あなたは…)
マスターは内容を察すると、頭を抱えた
そこには…




