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神と人が相席するカフェは、神と人が戦う世界にある。  作者: 蒼い諒


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Ep06 軍神テュールとバタートーストの可能性 ②

「すいません! このお店は、どんなお店なんですか?」


「…礼儀も知らんのか」

テュールは思わず眉をひそめた


マスターは気さくに店のルールを説明すると

自己紹介を促した


「あ、これはすいません、僕はトサカといいまして

最近、ロキの眷属になりまして

どんなもんかと登ってたら、ここを見つけたんです」


「ロキの眷属?」

テュールの表情が 一瞬、神妙なものに変わり

彼との記憶が脳裏に浮かぶ


マスターも、その名前に動きが止まる

ゆっくりと丁寧に、それは何かと尋ねた


トサカの話によれば

ロキは最近、居酒屋などにいる一般人を巻き込み

神と戦うための能力を無差別に与えているのだという


(あの嘘つきめ、何を企んでいる…)

その話を聞いていたテュールは、心の中で毒づく


トサカは席に着くなり、テュールのパンを見ると

「それ、いい匂いですね、僕も同じのを」


マスターは その言葉と焦げた匂いにハッとし

慌ててトースターを開けた


(トースターの中は私の注文した奴…)

テュールは少し不安になった

焦げすぎたパンなど、法に反するからだ

だが、運ばれてきた皿を見て、彼は安堵した


完璧な焼き上がりの厚切りパン

そしてその上で、半分溶けたバターが

白と黄色の美しいマーブル模様をくねらせる


テュールは早速一口、パンを噛み締めた

サクッという小気味よい音

中から溢れ出す小麦の甘み

バターの塩気、油の旨味

完璧な調和を成していた


(美味い…シンプルであるがゆえに

一切の誤魔化しが効かない、これはもはや、一つの理だ…)


添えられたコーヒーも一口

華やかな香りが鼻を抜け、深いコクが喉を潤す

(素晴らしい…休憩と興奮が同時に来ているようだ…)


表向きは静かに嗜んでいるが

テュールの心の中は絶叫に近い感動で満たされていた


一方、トサカの前にもバタートーストが運ばれた

彼は一口食べると「おおっ!」と表情を輝かせたが

直後の行動が、テュールの理解を超えていた


トサカはパンを千切ると、あろうことか

それをコーヒーの中にドボンと浸したのだ


「何っ!?」

テュールは目を見張った


さらにトサカは、コーヒーにミルクを入れ

即席のカフェオレにパンを浸しては口に運ぶ


それだけではなかった

「あ、マスターすみません、追加のトースト!

それとミルクティーと、ホットミルク

…あと、カレーのルーだけってありますか?」


次々と注文を重ね

トサカは全ての飲み物とカレーにパンを浸して食べ始めた


そして、何やら熱心にメモを取っている


テュールは、たまらず口を開く

「おい、貴様あまりそういう食べ方を人前で…

ましてや、作った主人の前でやるのはどうかと思うが」


冷徹な声が店内に続けて響く


「それに、店で出されたものは

その形で味わうのが合理的だ…決まり、と言い換えてもいい

その無秩序な食べ方は、冒涜ではないか?」


トサカは手を止め、テュールを見た

「おっしゃる通りです、ごめんなさい、気分を害しましたよね」

素直に謝罪の言葉を口にする

だが、トサカの手は止まらなかった

書きかけのメモを最後までしっかりと書き留めてから

ようやく彼は静かになった


(謝るが、メモは取るのか…)

テュールは妙な関心を抱いたが

あまりに反抗心がなく、手応えのない反応に合い

正論を吐いたはずの自分の方が悪者のような気になった


一方、トサカはその後

文句を言われたことなど露ほども気にしていない様子

ゆらゆらと食事を終えると

日常の散歩の続きであるかのように席を立った


帰り際、彼はテュールに

「失礼でしたらごめんなさい

その義手、すごく格好いいですね、どこで作ったんですか?」


「……神の国、アースガルズだ」

テュールが短く答える


トサカは「そうなんですか!」と、やや興奮しだす


「機能美はもちろん、アールデコとハルビンのような見た目で…へー」

トサカは義手をあらゆる角度で確認すると

飄々と店を去っていった


「マイペースな…方ですね」

マスターがニコリと笑う


テュールはコーヒーを飲み干すと

「…あの手の人間は、決まりなど守らず

不条理なことも良しとする変わり者だが」


テュールの脳裏に、あの執拗なメモ書きと

迷いのない眼差しが浮かぶ


「何かを成し遂げようとする、妙な情熱を感じた」


(さて、任務完了だ…

オーディンには「奇妙だが、悪くない店だ」と報告しよう)

テュールが席を立とうとした、その時だった


カウンターの隅

マスターが隠れるように何かをしている…


テュールが鋭い視線で覗き込む

「……マスター?」

「あ、いやその…」

「あ、マスター! トーストをカレーに浸して食べてませんか?」


マスターは、照れ笑いをしながら、カレートーストをテュールに見せる


「テュールさんのお気持ちも、とてもよく分かるのですが…

やってみると、ほら、また別の『美味しさの形』って分かります!」


テュールは深いため息をつき

魔法の義手で顔を覆った


神々の法も、人間界の秩序も

ここでは焼き立てのパンの香りに溶けてしまうらしい


「……やれやれだ」


カランコロンカランコロン


テュールは店を後にした

ただ、その手にはマスターから強引に押し付けられた

テイクアウトのカレーが握られていた


「……やれやれだ」


しかし、テュールは心の中でトサカを思い出すと

カフェオレ、ミルクティー、ホットミルク、そしてカレーか…と

忘れないように何度も反復していた


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