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その後の話。2

……翼視点……



 沢山の人間が騒ぐライブ会場で、歌いきった俺達は控室へと戻る。

 そこには、俺達のマネージャーが目に涙を浮かべて拍手していた。30代後半の、結構やり手の人らしい。年収はいいけど、地味な印象の彼は絶賛彼女募集中だそうだ。彼女いない歴20年、学生の時に彼女が1回出来ただけっていう話を何度も聞かされている。本当は俺らにも女の子紹介して欲しいけど、女子高生だから無理ってあきらめてんだとか。代わりといってはなんだが、芸能界で売れたら女の子紹介してとか言っている。自分でなんとかしろよと思いつつ、それらしき人がいないか探しちゃうのは、もはやくせみたいみなってる。

 晴翔をずっと応援してたしな。こういう雰囲気の男の人って世話焼きたくなるんだよなぁ。


「今日のライブ、素晴らしかったよ!もうアルバムの話もあがってるよ!シングルの売れ行きも好調だし、このまま順調にいけば、あれはランキング載るね。今から楽しみだよ」


 ニコニコと笑ってイキイキしている姿を見せれば、多少女の人も好きになるんじゃないかなーと思う。仕事の事となるとキラキラしてるのに、いざ私生活になるとボロボロなのな。もったいない。やればできる人なのに、女の人も見る目ないよなーとは思う。


「だはは!あーまじで来るとこまできちゃったって感じ?」

「ふふ、なんだか実感わかないねぇ」


 淳也と要が汗を拭いながら会話をしている。

 でも確かに、あんまり実感はわかないかも。ちょっと人数が多くなったかなー?くらいだ。これからはライブ会場も別の大きな所に移動するみたいだから、そっちになったら、多分緊張したりするんだろうな。

 ぼーっとしていたら、がしっと肩に腕を回された。こんな事をするのは淳也しかいないし、確認してみたらやはり淳也だった。


「翼ー!お前の歌も変わったよな?」

「うんうん、そうだよねぇ。妙に艶っぽくなったっていうか。迫力が段違いになった」

「え、そ、そう?」


 艶……?良く分かんないけど、2人が言うならそうなんだろう。歌う時は、いつも大好きな子を思い描いている。それがたぶん、そういう事に繋がってるんじゃないかなって。失恋で成長なんて、したくなかったんだけど。


「ああ、それは思ってた。前も仕上がってたけど、グッと伸びたっていうか。何かあったのかい?」


 事情を知らないマネージャーがさらっと聞いてくる。


「あー!失恋したんだよ翼ー!それで伸びたんだな!」

「ちょ、淳也……思ってても言わないのが暗黙の了解じゃなかったのかい?」

「あー……だははは!!忘れてた!!!」


 ったく君はもう……と要が呆れている。

 ふふふ……2人の優しさに乾杯したい気分だよ。でも淳也がぶちこわした、おのれ淳也。


「えー!金城くんみたいな子でもふられるの!?じゃあ僕とか付き合うの不可能じゃないか!!」


 俺みたいなって……俺そんなにモテるように見えるの?今までそんなにモテた記憶ないんだけど。つーか振られてるし。


「まぁでも、その思春期の心の痛みっていうのは、歌に深みを増すから。良い経験をしたと思って、前へと進んで行こうか。その女の子に見返してやれ、こんなに良い男振った事を後悔しろってな」


 おお……マネージャー、なんかかっこいい。

 んー……まぁ、恥ずかしいけど、今回発売したシングルって、間宮さんの事歌った曲なんだよねぇ……。まぁたぶん、要にはバレてるけど。せめて歌う事はさせて欲しいって言ったら、「今回だけですよ」と謝罪と共に了承を得た。それがまた綺麗な声だった。もう近くで聞かせて貰えないかと思うと、切なかった。

 でも後ろばかり見ていられない。応援してくれている人達のためにも、仲間のためにも。それに……プロ入りを認めてくれた両親のためにも。

 俺の事、認めてくれてたんだって、ライブにも何度か足を運んでくれてたって。

なんかこう……胸にジーンときた。やってて良かったって心の底から思った。

 成績も落とす事なく、むしろ好成績を叩きだす様になって、それでも歌う事をやめていない事に段々と認めてくれるようになったと言っていた。これは、透のおかげかもしれない。

 そういえば、プロ入りすると断言したのも透だっけ。すごい……予言者だねって、要が騒いでたのは未だ記憶に新しい。ほんと、幸運の女神かもな。晴翔はきっと、透の隣で幸せにされるんだろうなぁ……うらやましい。

 ま、俺の分まで幸せになってもらわないと困るけどね!




……間宮視点……


「わ、わー!可愛いです!可愛いです!」


 ふわふわのフリル付きのメイド服を着てもらって、思わずはしゃいでしまう。白く陶器のような肌に、ぷるんとみずみずしい赤い唇。そして人形のように整ったその可愛らしい顔。

 どれをとっても完璧な女の子にしか見えない。

 文化祭の出し物の準備の季節だ。その流れで、水無月くんが女装すればいかがか、という話題が水無月くんのクラスで持ち上がったらしい。

 その意見には大いに大賛成!いつもいつも思ってたんだよなぁ、めっちゃ綺麗って!まるで人形みたいだって!

 そのクラスのやつに頼み込んで、女装の手伝いをまかせて貰う事になった。というより、水無月くんが私ならいいと言ってくれたのが決定的だったようだ。なんという信頼率、親友と思われてるっておもっていいのかな。

 お人形のように着飾られている水無月くんを見て、俺のテンションが最高である。

 脱がせるときはちょっと抵抗を受けたが、自分で着るというので、服を渡して部屋から出て着替えて貰った。後ろの紐は括れないので、俺が括ってあげた。

 しかし、何度見ても女の子にしか見えないなぁ。この白い太ももとか、すごいえろい……おっと、邪な目で見たら嫌がられるな。いかんせん、このナリで生きて来てもはや十数年になるからなぁ。女って便利なとこあるわ。胸とか揉んでも事案にならないし。まぁ、そのかわり、彼女が出来ないんだが。くっそ、なんでイケメンに生まれなかった。美少女に生まれてもなんも嬉しくない。


「嬉しそう、だね……」

「えっ!あ、う、うん!ありがとう!すごく嬉しいです!」


 水無月くんに話しかけられて慌てて返事を返す。残念な事に今の俺は女なのである。いくら落ち込んでもこれを覆す事ができない。せめて木下さんくらい身長があれば、男の恰好も似合ったんだけどな。ちんちくりんで胸もあるし、どうみても美少女顔だからどうしようもない。

 でも……はぁ。似合うなぁ。ほんとにこの子男の子なのかなぁ。もったいないなぁ。男の娘って存在できたのかぁ。すげぇなぁ。そういえばこの子も攻略対象者なんだよなぁ、そりゃあまあ綺麗だわ。


「僕は……こういうかっこ、好きじゃない」

「わ、わー!そ、そうですよね……ご、ごめんなさい……」


 わー!確かにそうだ!女装して楽しい男なんていない!いや、俺は割とエンジョイしてるけど、もはや俺は女だし!ノーカン!

 わたわた慌てていると、口元を緩めた水無月くん。


「でも、間宮さんが喜んでくれるなら……いいかも」

「み、水無月くん……!」


 頬を染めて恥ずかしそうにそんな事言われたら落ちない男はいない。かわいすぎるうううう!その化粧と服でそれ言うの反則すぎる!!

 はっ……!かわいいけど、この子男だよ……!騙されんな!

 水無月くんは私の顔を見て、くすくす笑っている。それが天使すぎて顔が熱い。


「……こういうの見るの、好きなの?」

「うっ、うん……」


 や、やめて!小首を傾げないで!純粋そうな顔でこっちみないで!結構ヨコシマな感情で見てるから!

 きゅっと手を握られて、ビクリと震える。

 俺よりも少しだけ背が高い水無月くんがかがみこんで、覗き込むようにこちらを見て来る。あざといよ!その覗き方!上目づかいとか、完全に自分の可愛さを理解してる!?


「そんな顔……するんだ……」

「えっ、えっ、ど、どんな、でしょう?」

「気にしないで……なんか、分かった」

「えっ、えっ?」


 オロオロしつつ、今どんな顔をしているか考える。う、うん、顔熱い……たぶん絶賛赤いと思う。

 や、やばい。だってめちゃくちゃ可愛いんだって!緊張しない方がおかしいだろ?男なら!あ、いや、女だけど、心は男だから。だーヤヤコシイな!

 とにかく、可愛過ぎるってことだ。

 俺の鍛え上げたメイク術も侮れないな!

 落、ち、着、け?

 水無月くん男だから、いくら可愛過ぎてムラムラしても男だから。

 水無月くんは、握った俺の手をそっと自分の唇に押し当ててきた。それが、想像以上に柔らかくて、え、ちょっとまって、なにされ。


「りっぷが……べたべたするから、気持ちわるくて」

「あ、あーーーーーー!そうね!そそそそ、そうですね!」


 うわあああああ!いいい今、心臓とまるかとおもった!?

 バクバクしつつも、袖で拭おうとするのを止める。

 服についたら色が取れにくいし、唇に傷でもついたら大変だ。


「とってくれる……?」

「あっ……は、ははは、はい!了承しました!」


 震える手を何とか抑えつつ、コットンを取り出して唇に押し当てる。拭きとる際、肌に負担をかけないクレンジングを少しだけつけておく。

 そっと、柔らかい唇をなぞっている間、ずっと心臓がうるさかった。

 可愛くて、人形みたいで、良い匂いがして。


「お、終わったよ?」

「ん……ありがと」


 そう言って、そっと俺に笑いかけてきたその笑顔に、俺は。

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