↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/19

第14章 ある一日の仕事


大広間には、まだ二人の言い争う声が響いていた。


「お前、誰のこと言ってるんだ?」


「君に決まってるだろ」


「またそれかよ!」


ライキョウはカイエンを睨んだ。何か言い返そうとした、その時だった。


背後から、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「ライキョウ、ここはどうだった?」


二人は同時に動きを止めた。


ライキョウが振り返る。


そこにはアイズラが立っていた。


腕の中には一匹の猫がいて、先ほどまでの二人の言い争いなどまるで気にしていない様子だった。


「えっと……」


ライキョウは大広間を一度見回した。


「結構いいところだと思う。ただ、ちょっと広すぎるかな」


そう言いながら、彼はカイエンを見る。


「それに、そもそもこいつが先に言い始めたんだぞ」


カイエンは腕を組んだ。


「俺は事実を言っただけだ。君はこの屋敷の中で迷子になっただろ」


「だからって、いつまでも言う必要ないだろ!」


アイズラは二人を見つめ、それから小さく笑った。


「二人とも、結構気が合っていると思うけど」


「そんなことない!」


二人の声がほとんど同時に響いた。


アイズラはくすりと笑う。


「そう?」


ライキョウはすぐに顔を背けた。


「……」


何と答えればいいのか分からなかった。


しばらくして、アイズラが穏やかな声で言った。


「もしここが気に入ったのなら、いつでもここにいていいよ」


ライキョウが振り返る。


「え?」


「これまでのことのお礼だと思ってくれればいい」


ライキョウは数秒、その場に立ったまま動かなかった。


そして、少しぎこちなく笑った。


「いやいや、大丈夫だって。俺、慣れてるから」


けれど、心の中ではまったく違うことを考えていた。


これでやっと……外で寝なくて済む。


平静を装おうとしているのに、口元にはどうしても笑みが浮かんでしまう。


そんなライキョウを見て、カイエンが口を開いた。


「さて。俺は仕事に行かないとな」


「仕事?」


ライキョウが振り向く。


「何してるんだ?」


カイエンはすぐには答えなかった。


ただ、ライキョウを見る。


「やってみるか?」


「え?」


「俺が毎日やってる仕事だ」


ライキョウの目がすぐに輝いた。


「何を?」


カイエンはそのまま歩き出した。


「来れば分かる」


ライキョウはほとんど迷わなかった。


「本当か? 俺もやってみたい。最近、全然体を動かしてなかったからな」


カイエンは数歩進んだところで立ち止まった。


「後悔するなよ」


ライキョウは拳を握る。


「絶対に後悔しない!」


アイズラは二人の後ろから、静かに見送っていた。


「もし無理そうなら、ちゃんと休んでね」


ライキョウは振り返る。


「分かってるって。自分が何をしてるかくらい分かってるよ」


すでに先へ進んでいたカイエンが声をかける。


「そこで話してないで、やるなら来い」


「分かった!」


ライキョウは急いで後を追った。


---


廊下の様子が少しずつ変わっていく。


最初は、先ほどまで見ていた明るい色の壁と大きな窓が続いていた。


だが、奥へ進むほど、人の声がはっきりと聞こえてくるようになった。


足音。


物を置く音。


近くの部屋から聞こえてくる小さな話し声。


ライキョウは歩きながら周囲を見回していた。


今回は、もう自分がどこにいるのか覚えようとはしなかった。


ただ、カイエンがどこで仕事をしているのか、それが気になっていた。


やがて、二人は足を止めた。


カイエンが前を見る。


「ミユラ」


近くにいた少女が振り返った。


「はい、カイエン様」


カイエンは周囲を見回す。


「今日のリストは?」


ミユラは頷いた。


「はい。少々お待ちください」


彼女が一枚の紙を取り出す。


ライキョウは最初、それほど気にしていなかった。


紙が広げられるまでは。


片方の端は、まだミユラの手の中にある。


もう片方の端が、ゆっくりと落ちていく。


床に触れた。


ライキョウは下を見る。


黙った。


視線が、紙の長さに沿って少しずつ下へ移動していく。


……まだ終わらない。


ライキョウは瞬きをした。


ミユラを見る。


そして、また床を見る。


「……何これ?」


ミユラは相変わらず落ち着いていた。


「こちらが、本日中に終わらせなければならない仕事の一覧です」


ライキョウは息を呑む。


「……こんなにあるのか?」


声が少しずつ小さくなる。


「俺、なんかもう後悔し始めてるんだけど……」


隣に立っているカイエンには、驚いた様子などまったくなかった。


「だから言っただろ」


ライキョウが勢いよく振り向く。


「でも、そんなこと最初に言ってなかっただろ!」


「俺は事実を言っただけだ」


「お前……!」


ライキョウは歯を食いしばった。


リストを見る。


そしてカイエンを見る。


最後に、袖をまくり上げた。


「……分かった」


カイエンが眉を上げる。


「絶対にやってみせる。お前に負けるなんて、信じられないからな」


カイエンは数秒黙っていた。


そして、ただ一言。


「なら、どっちが上か勝負だな」


---


仕事が始まった。


最初のうちは、ライキョウもまだ元気いっぱいだった。


だが、しばらくすると、思っていたほど簡単なものではないことに気づき始めた。


食事の準備をしている途中、ライキョウは一個のリンゴを手に取った。


ナイフを入れる。


スッ。


皮が一枚、落ちた。


ライキョウはリンゴを見る。


半分にはまだ皮が残っている。


そして、残りの半分は……。


とても綺麗とは言えない状態だった。


もう一度やってみる。


スッ。


今度はさらにひどくなった。


ライキョウは手を止める。


向かいでは、カイエンが作業を続けていた。


手にしたナイフが一定のリズムで動いている。


一本の長い皮が、ほとんど途切れることなく落ちていく。


カイエンの手の中にあるリンゴは、まるで最初から皮など存在しなかったかのように綺麗だった。


ライキョウはそれを見つめた。


カイエンもライキョウを見る。


二人とも何も言わなかった。


ライキョウはゆっくりと、自分のリンゴを置いた。


「……不公平だ」


カイエンは平然と尋ねる。


「どこが?」


「お前、上手すぎるだろ」


「これも技術だ」


「だったら俺だってできる!」


ライキョウは新しいリンゴを手に取った。


今度こそと、息をするのも忘れるほど集中する。


ナイフが少し進んだ、その瞬間――


「痛っ!」


ライキョウはすぐに手を引いた。


指に小さな傷ができていた。


近くにいたミユラが、すぐに駆け寄ってくる。


「お怪我をされたのですか?」


「大丈夫!」


ライキョウは手を背中に隠す。


ミユラは彼を見る。


「少なくとも、もう少し気をつけてください」


ライキョウは自分の手を見る。


少しして、小さな声で呟いた。


「……ただ、勝ちたかっただけなんだ」


ミユラは小さくため息をつき、ライキョウの傷を手当てしてから作業へ戻った。


---


庭へ出た頃には、太陽の光がさらに明るくなっていた。


開けた空間に出たことで、ライキョウは少しだけ気分が楽になった。


手に道具を持ち、目の前の植木を見る。


「これは絶対簡単だ」


カイエンはすでに反対側から作業を始めていた。


スッ。


一本の枝が綺麗に切り落とされる。


そして次の枝。


一定のリズムで作業が続いていく。


ライキョウは数秒それを見た。


そして、自分も作業を始める。


スッ!


一本の枝が落ちた。


ライキョウは動きを止めた。


残った木を見る。


それから、足元に落ちた枝を見る。


ミユラが後ろから近づいてくる。


彼女は枝を見る。


ライキョウを見る。


「……どうして何をするにも、もう少し気をつけてくださらないのですか」


ライキョウはすぐにカイエンを指差した。


「たぶん、こいつのせいだ」


カイエンが振り返る。


「俺は何もしてないだろ」


「お前がやってるのを見てたら、俺も早くやりたくなったんだ!」


「それは君の問題だ」


「お前……!」


ミユラは二人の間に立ち、しばらく黙っていた。


そして、落ちた枝を拾い上げる。


「……とにかく、続けましょう」


---


仕事は続いた。


ライキョウはやればやるほど、どんどん熱くなっていった。


だが、その分だけ体力も少しずつ削られていく。


しばらくすると、両腕が重くなってきた。


道具を抱えて数歩歩いたところで、足を止める。


「はぁ……」


ライキョウは膝に手をついた。


「……まだこれだけしかやってないのか?」


誰も答えなかった。


少し前では、カイエンが相変わらず作業を続けている。


ライキョウはその背中を見る。


そして、ゆっくりと身体を起こした。


「ダメだ」


もう一度、歩き出す。


道具を落とすこともあった。


せっかく終わらせた場所を、やり直すこともあった。


そして片付けをしていた時、一つの花瓶がうっかり――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。