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第10章 戦いのあと


戦いが終わった。


先ほどまで響いていた激しい音は、もう聞こえない。


壊れた木材が床に落ちる音と、荒い息遣いだけが、静まり返った倉庫の中に残っていた。


ラ―イキョウはゆっくりと周囲を見回した。


アイズラ、コヒナ、カイエン、キュウレイ、そしてクウレン。


みんな、まだここにいる。


「……大丈夫?」


隣から声がした。


アイズラだった。


彼女はラ―イキョウの様子を見ながら、心配そうに尋ねる。


「え? ああ……大丈夫だよ。まだ平気」


ラ―イキョウは少し照れながら笑った。


その言葉を聞くと、アイズラも小さく笑う。


その一方で、コヒナは急いで祖父のところへ駆け寄った。


「おじいちゃん!」


「大丈夫だよ。まだ平気だから」


キュウレイはそう言って、安心させるようにコヒナの頭を優しく撫でた。


「本当に……?」


「ああ。心配しなくていい」


少し離れたところでは、カイエンが傷ついた身体を支えながら、なんとか立ち上がろうとしていた。


そして、クウレンを見る。


「……助かった。ありがとう」


「いや、別に」


クウレンは頭をかきながら答えた。


「たまたま助けただけだ」


「たまたま、ね……」


アイズラが静かに口を開く。


「あなたがいなかったら、私たちは助かっていなかったと思います」


「そうかな」


クウレンは少し笑った。


「それより、まずはみんなの無事を確認したほうがいい」


ラ―イキョウはもう一度、周囲を見回した。


壊れた棚。


床に散らばった木片。


戦いの跡。


それでも――誰も欠けていない。


ラ―イキョウは、胸の奥で小さく笑った。


終わった。


少なくとも、みんなここにいる。


それだけで十分だった。


……だが。


次の瞬間には、いつものラ―イキョウに戻っていた。


「そういえば、クウレンの技、めちゃくちゃカッコよかったな!」


「……え?」


クウレンが驚いたようにラ―イキョウを見る。


カイエンは頭を抱えるようにして、ため息をついた。


「……こいつ、また始まったな。本当にその癖だけは直らない」


「だって、本当にカッコよかったんだから」


ラ―イキョウは真面目な顔で言った。


アイズラは思わず笑う。


「本当に子供っぽいですね」


「え、そう?」


「ええ」


「でも、俺は本気で言ってるんだけど」


「それが余計に子供っぽいんですよ」


「……そうなのか?」


ラ―イキョウが首をかしげる。


その様子を見て、キュウレイも小さく笑った。


「私はもう年寄りだからね。まさかこんなことになるとは思わなかったよ」


「おじいちゃん、まずは休んで」


コヒナはキュウレイの手を握った。


「無理しちゃだめ」


「まったく、心配性だな」


キュウレイはまたコヒナの頭を撫でる。


「自分が何をすべきかくらい、ちゃんと分かっているよ」


クウレンも周囲を見渡した。


そして、穏やかに言った。


「とにかく……みんな生き残った。それでいいだろ?」


誰も答えなかった。


けれど、その言葉に異論を唱える者はいなかった。


――それから、数日が過ぎた。


傷が少しずつ癒え、街もいつもの日常を取り戻していた。


馬車が街道を進んでいる。


その中には、カイエン、ラ―イキョウ、アイズラの三人がいた。


三人ともまだ怪我をしていて、ラ―イキョウとカイエンの身体には包帯が巻かれている。


それでも二人は、何かについて言い争っていた。


「だから、俺はそういう意味で言ったんじゃないって」


「いや、どう考えてもそういう意味にしか聞こえない」


「えぇ……?」


アイズラは二人を見ながら、困ったように微笑んでいた。


しばらくして、アイズラがラ―イキョウを見る。


「ラ―イキョウさん」


「ん?」


「この前は……助けてくれて、ありがとうございました」


「いや、別に。そんな大したことじゃないよ」


ラ―イキョウは照れくさそうに笑った。


「困っている人がいたら助ける。それだけだし」


アイズラは少しだけ目を細める。


「あなたにとっては小さなことかもしれません。でも、私にとっては、とても大きなことでした」


「……そう?」


「はい」


そして、アイズラは穏やかに続けた。


「もしよかったら……私の家に来ませんか?」


「え?」


ラ―イキョウは目を丸くした。


「遊びに来てほしいんです」


「いや……それは、ちょっと……」


ラ―イキョウは困ったように両手を振った。


「たぶん、あまりよくないと思う」


すると、カイエンがすぐに口を挟んだ。


「アイズラに招待されるのは名誉なことだぞ。誰でも招待されるわけじゃない」


「そうなの?」


「そうだ」


「そんなに難しいのか?」


「着けば分かる」


カイエンはそれだけ言った。


ラ―イキョウは首をかしげた。


「……?」


それから、しばらく馬車に揺られて――。


三人は目的地に到着した。


ラ―イキョウが馬車から降りる。


そして、目の前を見上げた。


「…………」


そこには、とても大きな屋敷が建っていた。


大きい。


とにかく大きい。


ラ―イキョウがこれまで見たことのないほどの大きさだった。


建物の造りは古く、どこか昔の貴族の屋敷を思わせる。


けれど、不思議なことに――どこか見慣れた現代的な雰囲気もあった。


ラ―イキョウはしばらく呆然としたあと、思わず口にした。


「……これ、家って呼ぶの?」


「家じゃなかったら何なんだ?」


カイエンが真顔で答える。


「いや……」


ラ―イキョウは屋敷を見上げた。


「こんなの、家っていう規模じゃないだろ……」


アイズラはそんなラ―イキョウを見て、柔らかく笑った。


「ようこそ。ここが、私の住んでいる家です」


ラ―イキョウはもう一度、巨大な屋敷を見上げた。


――一方、その頃。


街から遠く離れた場所に、古びた黒い城があった。


周囲には明かりがほとんどない。


静かな闇の中を、二つの黒い影がゆっくりと城へ入っていく。


重い扉が閉じる。


その先に、十一人の人影があった。


部屋の中央には一つの椅子。


そして、その椅子に一人の人物が座っている。


静かな声が響いた。


「私が持ってこいと言ったものは、もう持ってきたのか?」


二人の黒衣の男は、その場で跪き、頭を下げた。


「申し訳ありません、聖主様」


一人が震える声で答える。


「……失敗しました」


「失敗?」


椅子に座る人物の声に、わずかな疑問が混じった。


「確か、私はちゃんと交渉しておけと言ったはずだが?」


「はい……ですが、何人かに邪魔をされました」


「何人か?」


その言葉に、聖主は少し興味を示した。


「それは……何か特別な者だったのか?」


「一人……おかしな奴がいました」


「おかしな奴?」


「まるで、こちらの位置や行動をすべて読んでいるようでした」


もう一人の男が続ける。


「ですが、それ以上に問題だったのは――聖騎士が介入したことです」


「聖騎士……」


その言葉を聞いた聖主が、わずかに反応した。


「……クウレンという男か?」


「はい」


二人は答えた。


「聖主様。どうか、我々のために――」


そのときだった。


「……ぐぅ」


静かな部屋に、寝息のような音が響いた。


「…………」


十一人の人影が一斉に沈黙する。


椅子に座っていた聖主は――いつの間にか眠っていた。


しばらくして、ゆっくりと顔を上げる。


「ああ……ごめん」


何事もなかったかのように、聖主は言った。


「さっき、少し寝てたみたいだ」


そして、首をかしげる。


「それで……どこまで話した?」


二人の男が答えようとした、その瞬間。


空気が変わった。


部屋の中に、言葉では説明できないほどの圧力が生まれる。


十一人の人影が、息を呑んだ。


そして――


次の瞬間。


二人の黒衣の男の姿が、そこから消えた。


「…………」


誰も声を出さない。


ただ、部屋には重い沈黙だけが残っていた。

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