9 再会
本日も更新出来ました!
書きたいことはたくさんあるのに、文章力と語彙力が間に合わないのがくやしい……。
よろしくお願いします。
それから数日、私とダレルさんはすっかり仲良くなった。
ご飯のことや薬草のことでわーきゃー言う私達を、ライナスさんが無表情で眺める。
それを見て「嫉妬深い男は嫌われるぞ」とダレルさんがライナスさんをからかい、ライナスさんが嫌な顔をするまでが最近の流れだ。
私達はそんな関係じゃないと言っているのに、ダレルさんは嬉しそうに笑うだけで一向に聞き入れてくれない。
今日も2人に見送られ、治療院へ向かった。
町の人達が森の中の道も雪かきをしてくれたお陰でとても歩きやすい。気持ちいいなぁ。
治療院に着くと、入り口でシェスカが誰かと話している。
見たことがないから旅人かなと思いながら近付く。
シェスカが私に気付き手を振ると、その人もこちらを振り返った。
その人の顔を見て私は思わず目を見開く。
そして身体の芯が冷えるのを感じた。
振り返ったその人は、2番目の兄だった。
私は弾かれるように振り返り来た道を逃げようとした。
が、出来なかった。大声で名前を呼ばれ、身体が硬直する。ただ心臓の音だけがうるさかった。
背後に足音が迫り、すぐ近くで止まった。
「シエラ、生きていたのか」
私はゆっくりと振り返り、兄を見る。
冷たい眼差しを見た途端、息が出来なくなった。
「何をしている。お前のせいで家族がどうなっているか知らずに、のんきに暮らしていたのか」
「あ……」
「帰るぞ」
「い、嫌だ!わた……しは、帰りません。死んだものとして忘れてください」
「わがままを言うな。父は未だお前を探しているし、シューベル卿も見つかるまで待つと言ってくれている」
さぁっと血の気が引いた。
父はわかっていたことだが、あのジジイまで諦めていなかったのか。
少し離れた所で、シェスカが心配そうに見ている。町の人達も不思議そうに気にしている。
このままではいけない。
私ははっきりと伝えようと思った。怖いけど、伝えなければ。
そう決意を固め、勇気を振り絞って顔を上げる。
「私は……帰りません。黙って消えたことは申し訳なく思います。ですが、一時の金銭の為に私の人生を捨てろと言う家族を、私はもう家族と思いません。二度と来ないでください」
「………」
言えた。
家族に対して、こんなにきっぱりと思いを告げたのは初めてかもしれない。
震える足を踏ん張り、私は兄を見つめた。
兄はそんな私を冷たい目で見つめ返す。
そして静かに口を開いた。
「お前がはっきりと拒絶したのは初めてだな。俺とて、あの母親にそっくりなお前が大嫌いだった。何もかもを諦めてただ言いなりになる様を見るのも虫唾が走る。だから俺個人としては、お前がどうしようが正直どうでもいい。金など稼げばいいからな。だが、父達は諦めないぞ」
そうだろうと思う。
そして、見つかった以上この兄は私のことを報告するだろう。
どうしようと視線を落とすと、兄の手から血が出ていることに気付く。
さっきまで全く気付かなかったが、ぽたぽたと垂れているではないか!
私は思わずシェスかを呼んで、治療薬を持って来て欲しいと伝える。
そして自分の髪を結んでいたリボンを外し、兄の手を縛って止血する。
兄は意外にもされるがままだった。
「何をしている」
「手当をします。いくら嫌いな人でも、私はここの治療院を任されている身ですから怪我人がいるなら治療するまでです」
「それで恩を売ったつもりか」
「どうとでも」
そんなやり取りをしている間に、シェスカが消毒薬と軟膏、包帯を持ってきてくれた。
手際よく処置をする。
「礼は言わないぞ」
「受け取りたくもありません」
「………」
兄が私を観察している。
痛いほどの視線を感じるが、ここで負けてはいけない。
するとそこへ、ライナスさんとダレルさんが突然姿を現した。
ライナスさんは兄を見、するりと私と兄の間に身体を滑り込ませる。
私の視界いっぱいにライナスさんの背中が広がった。
今や、ライナスさんと兄が険しく見つめ合っている状態だ。
「魔法使いか。邪魔だ、俺は今妹と話している」
「彼女は今、私が保護している」
「だから何だ?お前を通せということか?」
「………」
「……はぁ、今日はもう行く。待たせてる品物もあるからな。だが、見つけたことは報告させてもらう」
そう言って、兄は私と手当をした己の手を見比べると踵を返した。
兄の姿が見えなくなった頃、ようやく緊張から開放された私はその場にへたり込んでしまった。
シェスカが慌てて私の傍に駆け寄ってくる。
ライナスさんも心配気に見つめている。
町の人達からも安心と心配の気配を感じるが、私はすっかり力が抜けてしまって顔を上げられなかった。
クラクラする。
だから、ダレルさんが険しい表情で兄を見ていたことに気付かなかった。
治療院を開ける状態じゃなくなってしまった私は、みんなからの進言で今日はお休みすることになった。
申し訳ないと言うと、シェスカが自分に出来る範囲で良ければと今日一日対応してくれるらしい。頼もしい。
家に帰ろうとするも立ち上がれないでいたら、ライナスさんが抱き上げてくれた。
は、恥ずかしいのですが。
町の人達もそんな暖かい目で見ないで欲しい。
私はぐちゃぐちゃな心を宥めるように、そっとライナスさんに掴まった。
家に着くと、優しくソファに降ろされた。
すぐさまダレルさんから暖かいお茶が差し入れられる。
ひとくち飲んでほっと息をつき、やっと呼吸が出来るようになった。
お礼を言おうと顔を上げると、2人が険しい顔をしている。私は苦笑するしかない。
「お見苦しいところをお見せしました。助けてくださり、ありがとうございます」
「いや……私こそすまない。あの者が近くにいることは知っていた。だから、もっと早く助けに入れば苦しい思いをさせなかった」
「いいえ、来てくださっただけでも心強いです」
「……そうではない。あの者の真意を知る為あえて少し泳がせた。すまない」
ライナスさんは深々と頭を下げた。
ライナスさんは、兄が私をどうするのかを見極めていたという。
それはきっと、私にとっては家族であるからという心配りだろう。
確かに怖かったが、ライナスさんの行動を酷いとは思えなかった。
「それでも」と改めて感謝を伝えると、ライナスさんは困ったように私の頭をぽんぽんとしてくれた。
すると突然、ずっと険しい顔で考え込んでいたダレルさんが口を開いた。
「ライナス、あの男に付いていた魔力は感じたか?」
あの男とは兄のことだろう。
兄は普通の人間だ。魔力なんてない。
不思議に思ってダレルさんを見る。
ダレルさんは私をちらりと見、ライナスさんに視線を戻す。
「あの魔力を俺は知っている。ずっと追っていた……あいつの」
「兄は只の人間だと思うのですが……」
「そうだな、あの男は人間だ。ただ、あの男を介して覗き見をしていた者がいた。あの魔力は……」
兄を介して覗き見?
よく分からないが、兄はダレルさんが追っている魔法使いと面識があるということだろうか。
ライナスさんを見ると、やはり険しい顔をしていた。
「シエラ、明日からは私かダレルのどちらかが町まで一緒に行く。決して1人にはならないように」
「は、はい」
何が起こっているのかはわからないが、その魔法使いと兄に面識があるなら、もしかしたら再び兄と対面しなければいけないかもしれない。
迷惑をかけないように、気合いだけはしっかり入れておこうと心に誓ったところで私の気力が切れた。
ふらりと傾く私の身体を、ライナスさんの手が支えてくれる。
「今日はもう休もう」
その声を遠くで聞きながら、私は意識を手放した。




