8 ライナスのお友達
連休なので続けての更新です!
明日も更新予定……きっと!
よろしくお願いします。
その日、ライナスは森の中にいた。
森の動物達から、シエラの兄が近くまで来ていると報告を受けた。出来るならば会わせない方がいいだろう。
魔法を使えばいくらでも対処は出来る。
だが、むやみに人間に対して魔法を使うのは好まなかった。
それに、シエラの家族であることに変わりはない。……どんなに嫌っていようと。
ライナスはふと、数日前のシエラを思い出す。
ソファに座った彼女は、近付いても全く気付かないほど何かを考えていた。
よく観察すると、魂が重く揺らいでいる。
何を考えているのかと声をかければ、笑顔でなんでもないと言う。思わず顔をしかめてしまった。
彼女の心配を取り除いてやりたい。
魔法を使えば簡単だ。だが、そういう問題ではないと思う。
遠回しに気付いていると伝えれば、素直に話し始めた。
家族に連れ戻される不安、皆に迷惑をかける不安がぐるぐるしているようだった。
今が幸せなのだと、手放したくないのだと。
それならば、とライナスは思う。
どの道が最善かを見極め、彼女を守るだけだ。その為の準備は怠らない。
そこで、何故こんなにも彼女に肩入れするのかという疑問が頭をもたげたが、もう2ヶ月も一緒に暮らしているのだ情も湧こうと納得した。
そもそもずっと独りだったのになぜ一緒に暮らそうと思ったのか、シエラに抱く安心感に気付かずに。
—————
翌日、ユースフォードに雪が降った。
明け方からしんしんと降り続く雪が、周りの音を全て吸い取っているかのように静かだ。
私は窓の外を眺めながら、朝食の準備を進める。
今日は治療院がある。
この雪道を町まで歩かねばならないのだが、実は私は雪が好きだ……というか好きだった。
世界を真白く染め上げ、静かで、綺麗で、厳しい雪。
前世では疲れきった心を綺麗にしてくれるような気がして、よく時間を見つけては雪道を散歩した。残念ながら今世で育った王都では雪が降らなかったが。
密かに心弾ませていると、ライナスさんが降りてきた。
「おはようございます」
「おはよう。今日は私も行く。町の様子も見ておきたいからな」
本日はライナスさんも一緒に町に行くようだ。
一瞬雪道の心配をしたが、ライナスさんはずっとここに住んでいるのだ慣れているだろう。
朝食を食べ終え、樫の木に見送られながら2人で家を出る。2頭はこの寒さの中幸せそうに寝ていた。
特に会話もなく、2人の吐く息だけが白い。
「あの、意外と雪道には慣れているので、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ?」
道中、ライナスさんに足元をめっちゃくちゃ見られていて堪らず声をかける。
すんごい心配されている気がする。
「王都で雪は降らなかったと思うが……あぁ、前世か。なるほど、安定した歩きだ」
「はい。仕事に疲れた日、こうして静かな雪の中をお散歩するのが好きでした」
「そうか。そうだな、今度前世の話も聞かせてもらいたい」
「わかりました。でも、あまり楽しい話ではないですよ?」
「構わない」
さくさくと雪を踏む音がする。心地良い。
森を抜けてあと少しで町に入るというところで、どこからか人の声がした。
良く聞き取れないが、助けを求めているような声だ。
私は辺りを見渡し、こんもりとした雪の小山から人の手が出ているのを見つけて凍りついた。
「ぅええええ!?人が!手が!埋まってます!!」
慌てて駆け寄り雪を掘る。必死に掘る。
何とか掘り起こし、無事を確認する。
「だ、大丈夫ですか!?早く温めないと!!」
「わぁ、ありがとー。死ぬかと思ったよ、助かった」
すごくのんびりとした返事が聞こえた気はするが、私は急いで自分のコートを渡そうとした……のだが、横からライナスさんの手によって止められた。
一刻を争うのに、彼が凍死したらどうするのだ。
思わずライナスさんを見ると、激しく嫌そうな顔をしている。
え、なんで?
「あ、ライナスじゃーん。久しぶりー」
「……何をしている」
「やだなぁ、そんな怖い顔しないでよー。お前に会いに来たんだよー」
「いいから早く暖まれ。彼女が心配している」
「あ、ごめんごめん。ありがとねー」
そう言って、彼が手を振るとふわりと暖かくなった。魔法だ!
びっくりして凝視していると、彼が私を見る。
「ライナスが女の子と一緒にいるの初めて見るかも……初めまして、ライナスの友達のダレルです。いやぁ、本当に助かったよー。余所見してたら着陸に失敗しちゃってさー、しかも思ったより深く突っ込んじゃったんだよね。魔法で出れば簡単だったんだけど、この辺で魔法使うとライナスが怒るからさ。いやーまいったまいった。あぁ、お嬢さんのお名前を聞いてもいいかな?」
「シ、シエラです」
怒涛のお喋りに圧倒されてしまった。
ダレルさんは「シエラちゃんか!可愛い名前だねー」なんてまだ喋り続けている。
ライナスさんのお友達……お友達いたんだ。
そんな斜め上のことを考えている私をライナスさんはじとっと見る。
ごめんなさい。
「で、何の用だ?」
「ん?あ、そうそう。あー……シエラちゃん、ちょーっとライナス借りてもいい?」
ライナスさんは私のものではないのだけどと思いつつ、頷く。
「治療院はもうすぐそこですから、お仕事頑張ってきますね」
ライナスさんは心配げに見ていたが、私はそう言ってここで別れることにした。
ダレルさんにぺこりと挨拶し、治療院へと向かう。
ライナスさん達の話は気になるが、私が聞くべきことではないのだろう。私は私のやるべきことをしなければ。
シエラを見送り、ライナスはダレルを横目で見る。
「なるほどなー。あの子か」
「何がだ?」
「手っ取り早く話すと、今回俺が来た理由はある魔法使いを捕まえる為なんだ。その魔法使いは人間をコレクションするような奴で、この辺りに次の標的がいるという情報を掴んだってわけ」
「彼女か」
「多分な。あんな魂は見たことがない」
「それで?そいつの居場所は分かっているのか?」
「それがなかなかに賢いやつでさー、全く。だからお前に相談しに来たんだけど、まさか標的と思われる子と一緒にいるとは思わなかった。ってか何?誰も寄せ付けなかったお前がやけに仲良さそうじゃん!しかも女の子と!え、どういう関係?なんで教えてくれなかったの?」
「黙れ」
「友達じゃーん!」
「うるさい」
「まぁ、冗談はさておき。十中八九、次はあの子だろうな。やつの居場所が分からないからな、しばらくお前の家に邪魔するぞ」
昔からダレルには何を言っても無駄だった。自由人すぎるのだ。
それをよく分かっているライナスは、ひとつため息をついた。
だが、もし彼女が狙われているならちょうど良い。こんな奴でも、魔法使いとしての腕は確かだ。
彼女の安全がより守られるなら。
一旦話が終わったので、ライナスは当初の予定通り町の様子を見て回ることにした。
何故かダレルも着いてくる。
最後に治療院を覗き彼女の安全を確認して、家へ戻る。
ダレルがずっと「何か治療院だけ防御凄くない!?どんだけあの子大事にしてるの!?あのお前が!?」とうるさかった。
今日もよく働いたーっと家に帰ると、ダレルさんがいた。
「えぇ!?一緒に住んでるの!?どゆこと!?ちょ、ライナス!!」
ライナスさんは完全無視を決め込んでいる。というか、足はもう2階に向かっている。
まぁ嫌そうだけど邪険にはしないし、たぶん仲は良いのだろう。
私は荷物を置き、ダレルさんとお茶を飲みながら簡単に経緯を説明した。
予想に反して、ダレルさんは真剣に聞いてくれた。
「シエラちゃん、大変だったんだねー。ライナスはいつも無表情だけどちゃんと優しいから、安心して過ごせばいいよ。今まで自由がなかった分、新たな人生を楽しまなきゃ」
「ありがとうございます」
「それにさ、俺、ライナスのことは随分昔から知ってるけど、ちょっと雰囲気が柔らかくなったよね。多分シエラちゃんのおかげだと思うんだ。あいつ誰に対しても一歩引いてるから心配だったんだけど、なんか安心したわ。……人間も魔法使いもさ、独りじゃ生きていけないから」
「ダレルさんはライナスさんのお友達なんですよね?」
「そ、学院時代からの友達」
「学院……」
「人間には知られていないけど、魔法使いだけが住んでる町もあってさ、そこに魔法学院があるの。んで、まだ魔法を上手く使えない若い奴らは学院で魔法の使い方を教わるんだ」
私はライナスさんが初めて出会った魔法使いだけど、世界には魔法使いだけが暮らしている町があるらしい。
そこではみんな魔法を使って暮らしているのかな……想像出来ない。初めましての世界だ。
その後、ダレルさんは学院の授業のこととか、当時のライナスさんが何回先生を泣かせたかとかの話をしてくれた。
特に私が飛び付いたのは、薬草学についてだ。
羨ましい、受けてみたい!
ダレルさんはお喋りが好きなだけあって話が面白く、ついつい盛り上がってしまった。
私はライナスさんが降りて来たのを見て、慌てて夕飯の準備をする。
どうやら、ダレルさんはしばらくこの家に滞在するらしい。
聞くと、ダレルさんは魔法使い相手に警察のようなお仕事をしていて、この付近で調査をするために訪れたようだ。
3人での食事は本当に楽しかった。
しばらく賑やかになるなと、私は笑顔になった。




