6 治療院完成
2週間が経ち、治療院の補修が終わったとのことで早速見に来てみた。
今日はライナスさんも一緒だ。
それにしても怒涛の2週間だった。
1人目の患者さんとなったおばあさんの噂を聞いて、たくさんの人が来てくれた。
怪我をした人、熱がある人、蛇に噛まれた人……流石に蛇に噛まれた人には焦った。毒蛇じゃなくて本当に良かったと思う。毒の治療はまだ私には無理だ。
とはいえ、外から来た私が気になったのだろう、来てくれた人の3分の2はただお喋りをして帰っていったように思う。
興味を持って貰えるのはありがたい。
しかもみんな良い人達だった。
ちなみに、ライナスさんからの昼食の差し入れは毎日あった。
お手間だからいいと断ったのに……申し訳ないと思いつつも、毎日励まされている気がして元気が出た。
「あ、シエラー!」
治療院の前でシェスカと町長さんがこちらに手を振っている。
というか、2人の背後に立派な建物が見えるのですが……小屋の補修というレベルを超えてませんか?
白い壁に緑の屋根、入口はちょっとした小路があり可愛い花まで植えられていた。
「シエラさん、どうです!治療院が出来るって喜んで町のみんなで張り切っちゃって!」
「あの、なんて言うか、こんなに素敵な建物をありがとうございます!」
「ははは、喜んでもらえて良かった!さあさあ、中も見てください」
興奮気味の町長さんが入り口の扉を開けてくれる。
私は思わずライナスさんを見る。ライナスさんは静かに頷くと、そっと私の背中を押してくれた。
中に入ると広くはないが綺麗な待合室と受付があった。奥にはカーテンで仕切られた部屋があり、そこが診察室のようだ。トイレもある。
まだ作業をしていた1人が手を止め、こちらへやってくる。
シェスカの旦那さん、リークだ。
治療院のきっかけをくれたリークともすっかり仲良くなった。
「どうかな?風通しが良いように壁は無くしたんだ。でもプライベートはしっかり確保してある。まぁ、話し声は聞こえちゃうけどね。外の花は子供達とじじばば達が植えていってくれたよ」
「すごい……私なんかの為にこんなにして貰って、本当にいいのかな」
「なんかなんてことはないから大丈夫よ!シエラは凄いわ、自信を持って!」
「君がここに来て得た信頼が、みなを行動させたんだ。自信を持っていい」
嬉しくて泣き出した私を、みんなが慰めてくれる。
ライナスさんは微笑みながら私の頭をぽんぽんしてくれた。
最近、私が疲れ切っている時や頑張っている時にしてくれる行動だ。少し恥ずかしいが、私は私で落ち着くのでそのまま受け入れている。
胸がいっぱいで涙が止まらない私は、驚愕の表情で固まる3人には気付かなかった。
というわけで、本日は休診して治療院を整えることになった。
カルテ用の紙を用意したり、タオルや薬草の入れ物やら、準備は大変だけど手伝ってくれるみんなもいて楽しい。
ライナスさんは建物を見て回っている。そんなに見るところはないはずだけど。
お昼をだいぶ過ぎた頃、何とかひと区切りつけられた。あとは家から残りの器具を持ってくるだけだ。
そこで本日は解散となったので、私とライナスさんは一度家へ戻ることにした。
みんなと別れ、森の中を2人で歩く。
「仰っていた通り、本当に良い町ですね。みんな優しくて明るくて……本当にありがとうございます。お仕事頑張ります!」
「無理はしないように。手に負えないことがあったらすぐに私を呼ぶといい」
「はい、わかりました」
「それと、治療院に保護魔法をかけておいた。有事の際はあの建物に逃げ込めば安全だ。ただ万全ではない。もしもの時のために、君の手でも発動出来る魔法もかけてある。後でやり方を教えよう」
「へ?私でも魔法を使えるんですか!?」
「厳密には使えている訳ではない。発動のきっかけを外部に依存させているだけなので、使用されるのは私の魔力だ。いや、きっかけを君が行うのだからある意味君が魔法を使ったということになるのか……」
ライナスさんは、何やら難しい顔をして考え始めてしまった。
「後で教えてください」と、これ以上は専門的な答えになりそうな予感がして思わず締めくくる。
何かが起きた時とはいえ、魔法を使えるかもしれない。楽しみだ。
出来れば使わないままの方が良いのだろうけど……
そんな私達のやり取りを、植物達が静かに聞いていた。
—————
治療院が本格的に始まりバタバタバタと過ごしているうちに、あっという間に1ヶ月が過ぎた。
もうすぐ冬がやってくる。
北に位置するこの町はすでに肌寒い。でも私の心は暖かかった。
町の人達ともすっかり仲良くなり、今ではみんなの名前もばっちり覚えた。
1人目の患者さんだったおばあさん、ソフィアさんとはお茶友達だ。
治療院も好調で、患者さん自体はそこまで多くないけど、お喋りや相談事なんかにも乗っている。心のケアも大事だからね。
やっとシェスカにもお給料を払えるようになったし、それを受けてシェスカももりもり知識と技術を学んでくれている。
ライナスさんとも穏やかな生活を送っている。
平和だ。怖いくらいに。
順調な生活に慣れてきてゆとりが出来たせいか、そんなことを考えてしまう。
元々私は、今世の父に売られそうになっていたようなものなのだ。きっとあの父のことだ、私を諦めてはいないだろう。
もし、ここにいることがバレたら。もし、連れ戻されたら。もし、町の人達やライナスさんに迷惑がかかってしまったら。もし………一度考え始めると不安がどんどん膨らんでキリがない。
不安な気持ちのまま、私はソファから外を眺めていた。
今日は治療院はお休みだ。
外はどんよりとした曇り空。きっとこの不安はそのせいだろう。
目の前にそっとカップを置かれて、はじめてライナスさんが近くにいたことに気付いた。
ココアから暖かな湯気がたっている。
「ありがとうございます」
「どうした?」
「なんでもありません。ちょっとぼーっとしてました」
そう笑顔で返したら、ライナスさんの眉間にシワが寄った。
「………魂は心と繋がっている。どうした?」
はっとした。
そうか、ライナスさんには私の不安がお見通しだったのか。
なんだかちょっと恥ずかしい。正直に話そう。
「えと、今までのことを考えてました。ライナスさんに拾ってもらって、町の人達と知り合って、仕事をさせて貰って……幸せだなぁと」
ライナスさんは頷きながら静かに聞いていてくれる。
「それで、幸せ過ぎて不安になりました。父は恐らく私のことを諦めていないだろうなと。みんなに、ライナスさんに迷惑をかけたらどうしようと……」
「……ひとつ確認をしておく、ここで暮らしていきたいか?」
「はい。家には絶対に帰りたくありません」
「そうか。ならば何も心配はいらない。必ず守ろう」
そう言って、ライナスさんは私の頭をぽんぽんとした。
私とは違うちょっと骨ばった優しい手の感触に、不安な気持ちが解けていった。




