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幸せをくれたのは、見ず知らずの魔法使いでした。  作者: ゆめ子


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3 いざ、町へ


翌朝、早朝からしっかりと目を覚まし、鞄に詰めていた動きやすいワンピースに着替える。


今日は町へ行く。

もしかしたらこれから住むかもしれない町だから、しっかりと見てこなくちゃ。


気合を入れて部屋を出ると、キッチンから良い匂いがした。


「おはようございます」

「おはよう」


ライナスさんが朝食を作ってくれていた。

昨日からお世話になりっぱなしだ……いや、看病もして貰ってるからずっとか。

申し訳なく思いながら、促されるままに席に着き朝食をいただく。


「少し早いが、食べ終わったら町へ行こうか」



洗い物をし、2人で家を出る。良い天気だ。

樫の木と2頭に朝の挨拶をしつつ、森を歩いていく。

どうやら町は歩いて行ける場所にあるらしい。


特に会話もなく、15分ほど歩いたところで急に森が開けた。


目の前に飛び込んできたのは小さな川と、橋の向こうに広がる畑と町並み。

聞いていた通り大きくはないが、人の手が行き届いていて綺麗な町だ。


ライナスさんの後ろについて町並みを眺めながら歩いていると、道端に座り込む男性がいた。

よく見ると顔が赤く呼吸が辛そうだ。

私は思わず駆け寄り、声をかけた。


「大丈夫ですか?どうされました?」


男性はのろのろと顔を上げるが、余程辛いのか声が出ない。

私は前世の記憶を頼りにざっくりと熱を測り、脈を診て、呼吸の音を聞く。

ライナスさんはそんな私の様子を静かに見ていた。


「風邪ですかね。ちょっと悪化してます」


自宅に運んで少し処置をした方がいいのだけど……私では運べないと思案していると、ライナスさんがすっと彼を抱えあげた。

そしてスタスタと歩いて行く。


「彼の家は知っている。こちらだ」

「あ、ありがとうございます」


私は慌ててライナスさんの後について行った。


彼の家に着くと、赤ちゃんを抱いた奥さんが出迎えてくれた。

奥さんは「ライナス様!?」と驚きつつも、私達を招き入れてくれた。


……様?

まぁいい、今は彼の処置が最優先だ。


奥さんに断りを入れ、キッチンでテキパキと薬草の準備をする。

森で見つけた時に採っておいて良かった。

しかもこの世界の薬草は、組み合わせ次第で即効性を出せるのがありがたい。

ライナスさんはというと、なんで持ってるの?って顔をして私の手元をじっと見ていた。


煎じ薬を作り、彼の元へ急ぐ。

ベッドの横では奥さんが怒ったような不安なような顔をして彼の汗を拭いていた。


「私が身体を起こしますから、これを飲ませてあげてください」


奥さんが頷くのを確認し彼を起こそうとすると、横からライナスさんの腕が伸びてきて代わりに起こしてくれた。

「ひぇっ!」と小さく声を上げ無表情になってしまった奥さんが、助けを求めるように私を見る。

私はしっかりと頷くと、奥さんは彼に煎じ薬を飲ませ始めた。



その後身体を清めたり、冷やす部位を奥さんに伝えている間に、彼の呼吸が穏やかになってきた。

心なしか奥さんの表情も少し柔らかい。


「後はこの薬を日中にコップ1杯、この薬を寝る前にコップ1杯飲ませてあげてください。突然お邪魔してすみませんでした」

「いいえ、彼を運んでお薬までいただいて……ありがとうございます」

「………あの、すみません、こんなことを聞いてはいけないと思うのですが」

「?」

「どうしてこんな見ず知らずの人間が作った薬を信用してくださるんですか?……あ、いえ、ちゃんと薬ではあるので安心して欲しいのですが、なんと言うか」

「受け入れすぎでしょうか?でも、ライナス様のお連れ様ですから」


そう言って奥さんは素敵な笑顔で微笑んだ。

家を出る時、奥さんは何度も私達にお礼を言ってくれた。




そして再び、ライナスさんと町を歩いて行く。


私はさっきの奥さんを思い出しながら、そっとライナスさんの顔を盗み見た。

なんかとんでもない人に拾われてしまったんじゃなかろうか。



しばらく歩いて、ライナスさんが「ここだ」と足を止めた。


そういえば、町の様子を見るとは言ったが目的地があったとは知らなかった。

示された建物は、周りに比べると少し大きめかもしれない普通のお家。


ライナスさんはスタスタと入って行ってしまい、私は慌てて後を追う。

扉をノックすると、中から明るい返事があった。

ライナスさんは何の躊躇もなく扉を開け中に入っていく。

え、いいの!?

まぁここに立っていても仕方ないので、小さく「お邪魔します」と声をかけ私も後に続いた。


「ようこそいらっしゃいました、ライナス様。それに、そちらの方は初めましてですね」


朗らかな笑顔と共に、ライナスさんと同じ歳くらいの男性が迎えてくれた。


「私はここの町長をしております、ゲイルと申します」

「初めまして、シエラと申します」

「ゲイル、この町に彼女が住めそうな家はあるか?」


挨拶もなく唐突に切り出しましたね。

もうちょっとこう、順序とかあるのではないでしょうか?

そんな私の視線など気にもせず、ライナスさんはゲイルさんの返事を待っている。

ゲイルさんも慣れているようで「家ですか」と呟きながら考え込んでいる。


「あいにく現在空き家はありませんね。住居には使えない小屋なら空いてるのですが……」

「そうか。では、その小屋で治療院を開くことは出来るか?」

「治療院ですか?確かに町にはお医者様がいないのでありがたいですが、建物を少し直さなければなりませんね。2週間程お時間をいただければ、修繕も清掃も出来ると思います」

「ならばよろしく頼む。医者は彼女が務める」


町長さんはきっと良い人だ。

ライナスさんの突然のお願いを前向きに叶える方向で答えを出していく。


……って、え?え、待って?私の話でした!?


関係ない話かと思っていたが、突然私が登場してきた。


「あ、あの!!」


私はたまらず声を上げた。

2人してきょとんとしないでいただきたい。


「治療院とはどういうことですか!?私がやるんですか!?というか町長さんも疑問に思ってください!!」

「君の先程の手際を見ていたが、充分に通用する腕だと思う。ここで生活をする上で、仕事があった方が安心だろう。故に治療院を開くのはどうだろうか?」


確認とは先にするものですよと言いたい。

なんかどっと疲れが出てきた。


「はぁ……治療院を開くのはそうですね、私としてはありがたいです。この町に医療者がいないのであれば、多少はお役に立てると思います。ですがまだ住むとは決めていませんし、何より住む家がないのであれば難しいです」

「そうだな、町はこの後見て回るとして、家は……ふむ、私の家に住めば良い」


あまりの驚きに、思わず目をかっぴろげてライナスさんを見てしまった。

町長さんも驚いたようだがすぐ表情を和らげ私を見、ちょっと固まってしまっている。

あ、これは引かれているかもしれない。

ライナスさんだけはいつも通り、無表情だ。


「何も問題はあるまい。研究の為により近くで君を観察出来るなら、こちらとしてもありがたい」


この人天然なのかな?それとも気付いてないのか?見知らぬ男女がひとつの家に住むんだぞ?

今までみたいにお世話になるのとは違う、一緒に住むのだ。別にそういう関係になる訳じゃないけど、抵抗とかないのだろうか……

ライナスさんの無表情を見ていると、そんなことを考えても無駄な気がしてきた。


「シエラさん、事情は分からないが私達はあなたを歓迎するよ。何もないのどかだけが取り柄の町だけど、だからこそ町のみんなもおおらかで気の良い人間ばかりだ。それにライナス様の研究に協力してくださるなら、私達としても嬉しい」


町長さんは優しい顔で私を見つめた。

確かに、町長さんといいさっきの奥さんといい、とても良い人そうだ。そんな人達がいる町ならば良い町だろう。

ここへ来るまでの短い間だったけど、既に私はこの町を少し気に入っていた。


少し悩んだが、住む家がないなら仕方ない。ライナスさんの好意に甘えることにしよう。

わざわざ家を建ててもらうのは申し訳ないので、空き家が出来たら引っ越すつもりだと伝えると、町長さんは喜んでくれた。



ひと通り話をまとめると、町長さんの家を後にする。

町長さんは別れ際、この町の簡単な地図を渡してくれた。生活必需品や食べものを売っているお店などが記されている。

そして、ある家に赤文字ででかでかと「息子の家。可愛い孫がいる!!」と書いてある。

微笑みながら、町のみんなと少しずつ仲良くなろうと決めた。


「私は家に戻る」

「わかりました。私は町の様子と治療院予定の建物を見てから戻ります」


ライナスさんは頷くと、そのまま森の方へ歩いていってしまった。





さて、町の散策開始だ!


住むとなるとまず着替えが必要だ。タオルとかもいる。他にも買わなければいけない小物がたくさんある。

何しろ私の荷物は手で持てる鞄1つしかないのだ。幸い、お金は結構貯めてあるので事足りるだろう。


私は気合いを入れて、商店街と書かれた方向へ歩き出した。





めちゃくちゃたくさん買ってしまった。


いや、必要だったのだ。仕方ないのですよ。

町の人がみんな親切でサービスしてくれるものだからちょっと多く買ってしまった気もするけど、可愛くて動きやすい服も見つけられたし大満足だった。

ライナスさんの名前を出すとみんなすごく驚いていたのは気になるけど。


くぅ……重たい。


えっちらおっちら何とか森の入口まで辿り着くと、見覚えのある2頭がウロウロしていた。


「どうしたの?」


私が声をかけると、2頭はぱっと振り返り嬉しそうに寄ってきた。


『ライナスがシエラを迎えに行けって!』

『きっと大荷物だろうからって!』

『『シエラお帰り!』』


「ただいま」と笑顔になる。

ライナスさんには私の行動がお見通しだったようだ。


荷物を2頭の背に預け、ゆっくり歩いて帰ることにした。

もちろん途中で薬草を摘むのも忘れない。


みんなでわいわい喋りながら歩いていたら、あっという間にライナスさんの家に着いた。


「ただ今戻りました」

『あら、お帰りなさい。素敵な町だったでしょう?』

「はい、とても!それで私、この家でお世話になることになりました。これからよろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げると、『知ってるわ、よろしくね』と優しく笑われた。




荷物を一旦部屋に置いて、リビングに戻るとライナスさんがキッチンにいた。

お昼ご飯の準備中らしい。

慌てて手伝おうとすると、丁寧にお断りされてしまった。作ってもらってばかりである。

仕方ないので出来上がった料理を運ぶ係に立候補し、席に着く。


ご飯を食べ終わり、私は食後のお茶を飲みながらこれからのことをどう話そうかと考えていた。


「前も言った通り、家の中の物は自由に使って良い。その部屋も君の部屋にして構わない」

「ありがとうございます。……ですが、このまま只お世話になるのも申し訳ないので、家事をさせていただけませんか?」


ライナスさんは、私の提案に首を傾げる。


「もしお嫌でなければ、朝と夜は私にご飯を作らせてください。治療院が始まると昼は戻って来れない可能性があるので。あと、畑のお世話もさせていただけたら嬉しいです」

「構わないが……」

「ありがとうございます!!畑のお世話、やってみたかったんです!」


嬉しさのあまり食い気味に返事をしてしまった。


昨日今日の様子を見るに、ライナスさんは料理を魔法ではなく手で作っていた。ならば、私が作っても問題はないだろう。朝と夜なら治療院での仕事にも影響ないだろうし。

畑仕事は本当にやってみたかったのだ。土弄り楽しみ!


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