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幸せをくれたのは、見ず知らずの魔法使いでした。  作者: ゆめ子


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11/14

11 執着


ボーンボーンと古い時計の音がする。



私はゆっくりと目を開けると、辺りを見渡した。

部屋の中は分厚いカーテンが閉まっていて薄暗く、人の気配はない。

調度品は豪華だから、恐らく何処か貴族の屋敷だろう。


身体が気怠い。

ぼんやりする頭を振ってみるが、変わらなかった。




私、何でここにいるんだっけ?




誰かいないかと、豪華なベッドから出て扉を開けようとしたが開かなかった。鍵がかかっているのだろう。

立っているのが辛くて、扉の横にずるずると座り込む。

大事なことを思い出さないといけない気がするのに……



ボーンボーンと古い時計の音がする。



すると勢い良く扉が開いて見知らぬ老人が入って来た。

老人は部屋を見渡して私を見つけると、目を見開く。

私はぼんやりと老人を眺めていたが、いきなり腕を掴まれて恐怖した。


「あ……あ……お前さんは……」

「い、やだ……!」


老人が掠れた声で何かを言っているが、私は腕を振りほどこうともがいた。

けれど老人の力が強くて振りほどけない。



「呆れたな。まだこの女に執着しているのか」


私は突然聞こえた知らない男の声に「また!?」と顔を向けた。

男は私と目が合うとにやっと笑い、私の腕を掴む老人の手を引き剥がした。

そしてポケットから小さな時計を出し、ボーンボーンという音を老人に聞かせる。

すると老人は大人しくなり部屋から出ていった。

私は上手く働かない頭の片隅で警鐘がなり続けているのを感じながら、その様子をじっと見ていた。




さっきから何か大切なことを忘れている気がする。




「さて、やっと君を手に入れられた。この時をずっと待っていたんだよ」


何故だろう……目の前の男は笑顔なのに、心の底から恐怖が湧き上がってくる。

頭の中で煩いくらいに警鐘が鳴っている。


私はじりっと後退った。

男は不思議そうに首を傾げ、その場で床に座った。


「何も覚えていないだろうに……すっかり嫌われているな。まぁいい、少し話をしよう」

「はな……し?」

「僕はね、元々魔法使いとしては落ちこぼれだったんだ。魔力が少なかったからね。ずっと周りの奴らに馬鹿にされてきた。でもさ、良く考えたら世界には魔法を使えない人間がうじゃうじゃいるんだよね。僕より出来損ないの人間が」

「魔法使い……」

「そう、君達人間より遥かに優れた種族だ。そこで考えたんだ、君達は僕の為になるべきだって。下等な人間でも優れた種族である僕達の役に立つんだよ。素晴らしくないか!?」

「……っ」


彼から数メートル離れた場所で話を聞いていた私は、急な頭痛に襲われた。

何かを思い出しそうなのに、思い出せない。


「そこでね、君達の命のエネルギーを僕の魔力に出来ることを知ったんだ。たくさん試した……たくさんたくさん……そしたらさ、あることに気付いたんだ。人間の中でも欲望の強い奴や、他の人間にはない能力がある奴は得られる魔力が大きい」

「私を……殺すの?」

「はは、君は殺さないよ。君みたいな魂は他にないからね、殺すなんてもったいない。君からはきっと素晴らしい魔力が得られるんだろうなぁ。君は死ぬまでずっと、僕の伴侶として一緒に暮らすんだよ」

「伴侶?」

「!?……あぁー、さっきのジジイか。欲が強すぎて、思考が少し侵食されてるな。まぁたいした影響はないか。ん?気になるか?あのジジイはな、元々君を伴侶にする予定だったんだよ。それなのに君が行方不明になって捜索してるところにたまたま僕が通りかかったんだ。幸運だったよ。欲深いジジイから大量の魔力は貰えたし、君という人間も見つけられたからね」


話を聞いているうちに少しずつ思い出してきた。

そうだ、私は結婚が嫌で逃げて……そして……


「やっぱりまだ馴染んでないな。ま、もう暫くしたら何も思い出せなくなるからね。そうだ、後で僕のコレクションを一緒に見に行こう。僕の魔力になってくれた人間達だから、君にとっても家族みたいなものだろ?」


そう言って、彼はあの時計を取り出す。


嫌だ……その音は聞きたくない!

私は咄嗟に耳を塞いだ。



その時、雷鳴と共に窓が割れ2人の人影が飛び込んで来た。


さっきまで楽しそうに話していた彼は急に険しい表情になり、私の手を掴んで盾にする。

私は飛び込んで来た男達から目を離せなかった。


酷く懐かしい気がする。


先に沈黙を破ったのは飛び込んで来た男の1人だった。


「シエラ」

「!?」



私はこの声を知っている。

私を助けてくれて、平穏な生活と安心をくれた、私の……




ボーンボーン……



思い出しそうだったのに、その音を聞いた瞬間私の思考は急速にぼやけていく。

何も考えられない。



ライナスは虚ろな目をしたシエラを見つめていた。

ただその顔はいつもの無表情ではなく、静かに怒りをたたえている。


「彼女を返してもらおう」

「それは無理だ。この女は生涯僕と一緒にいてもらわなきゃ。魔力供給者としても、伴侶としても。まぁ、後者はあのジジイの願いだけどね」


そう言って男——ゲオはシエラを盾にしたまま引き寄せる。

ライナスは眉間のシワを深くした。

そして、ダレルに近付き声をひそめる。


「おい、どうする?魔力差があり過ぎる。その上シエラちゃんを盾にされたんじゃ……」

「10分、いや5分でいい、あいつをここに留めておけるか?」

「……良いだろう」


ダレルの返事を聞くやいなや、ライナスは窓の外に身を翻した。


「はっ!ライナス殿ともあろう人が逃げたか」

「ふぅん、ライナスのこと知ってるんだ」

「当たり前だろ。魔力制御の緻密さではあの人の右に出る者はいない。僕達魔力の少ない落ちこぼれには憧れの的だよ。でもまぁ、今の僕はもう誰にも負けない魔力を手に入れたからね。ライナス殿が逃げても仕方ないか。君は逃げないのか?」

「逃げたいんだがねー、俺の場合はこれも仕事なんで仕方ないさ。上から君を捕まえるように言われている」

「あぁ、そうだったね。無理な仕事を押し付けられて可哀想に」

「本当だよ。俺のことを哀れに思うなら大人しく捕まってくれないかな?」

「お前面白いね。はいそうですかと捕まるわけはないだろう」

「だよねー」


お互いに牽制しながら軽口を叩いていると、ゲオがピクリと反応した。

ダレルには分からないが、恐らくライナスの気配を感じたのだろう。


さぁ、ここからが本番だ。


何としてもこいつをあと数分はここに足止めしなければならない。


「ライナスゥゥゥゥゥ!!!!」


ゲオが怒りと共に吠えた。

瞬間、ゲオから大量の魔力が溢れ出る。

このまま転移されては困る。

咄嗟にダレルは右手を振り、この場にいる3人を結界に封じた。


「貴様!!私のコレクションに手を出したな!!」

「はんっ!趣味の悪いコレクションとやらにはさらさら興味ないね」

「貴様達がこの僕に敵うわけないんだ!!こうなったらこの女からも直接……」


そう言ってゲオはシエラを抱き寄せると、シエラの生命エネルギーを吸い取り始めた。

シエラの顔が苦痛に歪む。

同時に結界内で暴風が吹き始め、ダレルの結界に徐々にヒビが入っていく。


ダレルは慌てた。

シエラも結界もこのままでは長くもたない。

だが、暴風と強い魔力に阻まれて身動きがとれなかった。

気付くと、柄にもなく心の中で「ライナス!!」と叫んでいた。


「貴様はそこでじっとしていろ。後でちゃんと僕の魔力の一部にしてやる」


ゲルがにやりと笑った瞬間、ダレルの結界が割れた。

結界に魔力を注ぎ続けていたダレルにも衝撃が返ってきて、思わず膝をつく。

「こいつに膝をつかされるのは2度目だな」と頭の隅で考えていると、急に暴風が止んだ。溢れ出していたゲルの魔力も消えている。身体が動く。


何事かとダレルが顔を上げると、白目を剥いて身体を硬直させたゲルとシエラを抱きとめたライナスがいた。


ライナスは肩で息をし汗だくだ。

ダレルは何が起きたのか確認するようにゲルを見ると、すごく細い針のような魔力でぐるぐる巻きにされていた。

そしてその先端はあの時計を貫いている。


「だぁーっ!!終わったのか!!」


ダレルはぶはっと息を吐き、その場に倒れる。が、すぐに起き上がりライナスの元へ向かう。

ライナスはシエラを抱きとめたまま動かない。


「シエラちゃんは?」

「……無事だが、使われたものは戻らなかった。他の囚われた者達も」

「つまり……」

「寿命が削られている。他の者達はすでにみな尽きていた」

「じゃあ、シエラちゃんは……」

「どれだけ使われたかが分からない。だが生きている」


「くそっ」とダレルはゲオを見る。

見た所、あれだけ強くなっていた魔力は彼の元の魔力に戻ったようだ。


「一旦俺はこいつを渡してくる」

「あぁ」

「……直ぐに戻る。早まるなよ」


ダレルは心配そうにライナスを見、ゲオを連れて姿を消した。

残されたライナスは、静かにシエラを抱きしめた。





ライナスはシエラを連れて家へ戻った。

町へも知らせねばと思い、あの2頭に手紙を託した。


シエラは真っ白な顔をして目を閉じている。

呼吸による胸の動きがなければ、死んでいるかと間違うほどだ。

ライナスは眠るシエラの額にそっと口付けた。

目を開けて欲しいと願いを込めて。


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